【連載】家族会議『ヤングケアラー』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。2020年1月6日から約4ヶ月に渡って行った会議の様子を、録音記録をもとに書き記しています。
前回の記事はこちら。
家族会議24回目#6|ヤングケアラー
――ここまでの話で父は、自分の幼少期の体験を通じて愛情の欠如に気づき始めているはずだけど、わたしの言葉にただただ反対意見を言ってくる。天の邪鬼のように。
「ショックだ」と本音を漏らすものの、それを隠すために強がりや反論を繰り返すのだった。
そんな父に「ショックだった気持ちを聞いていきたい」とわたしは言った。
わたし:
どんなふうにショックなのかなとか、どこにショックなのかなとか。
父:
あ~なるほど。あっはっはっは。笑
わたし:
うん。その気持ちを出していってほしい。
父:
これ逆の立場だったら泉ショック受けない?
わたし:
逆の立場だったら、うんショック‥‥ショックだとは思う。
父:
同じだよたぶん。
わたし:
お父さんの言葉で言ってほしいって感じ。同じだよって‥‥。
ただね、わたしお父さんと違うから、同じエピソードで指摘されることない。わたしはね。
父:
うんうんうん‥‥。やっぱり今日ショックだったのはあれですよ。結論じみた言い方をされたのがショックだったな。
わたし:
それがショックなの?
父:
それがショックなの?っていう聞き方もショックだな。
わたし:
結論付けられるのがショックっていうこと?
父:
1日で結論付けられてるっていうのがね、かなりのショックだよ。
わたし:
ショックっていうか、嫌ってことだよね。結論付けられるのが嫌ね。
父:
そーんな薄っぺらかったのかなと思うな俺が。
わたし:
その‥‥、いろいろわかった事実にショックを受けてるのかなって思ったから。
父:
それもある。それもあるけれども、やっぱり薄っぺらな男だったのかなっていうのは‥‥ショックですな‥‥。
――薄っぺらな男だとは言ってないし、そんな話もしていない。父自身が親からの愛情が不足していたから、子供に対しても愛情を注ぐということを知らなかったのでは?それが姉に対する態度に繋がり、姉が鬱になるまでになってしまったのでは?という話をしている。
それを父が「薄っぺらな男」と受け取ったということだけど‥‥。そもそも結論付けられたのがショックだったというところから、もう論がすり替わっている。
わたし:
そうだな、1日で結論付けられた印象なんだなって思うけど、それで言ったら、1日で結論付けたつもりはなかったな。今まで聞いてきた話を総合して考えてた。たった一つのエピソードだけで言ってないよもちろん。
そりゃ、この一つのエピソードだけで「こうでしょ」って言われたら嫌だよね。「それは違う」って、反論出てくるわって思う。わたしの何がわかんの?みたいな気持ちだね。「俺の何がわかんの?今のエピソードだけで」っていうことだよね。それはそうなるなとは思うけど。
母:
今までずっと暮らしてきたことも下地にあって、そういうのを照らし合わせてみたいなことではある。し、なんか、泉にばっかり言わせてるけど、なんかいつかはお父さんに、なんだろ‥‥知ってもらいたいなっていう思いは
父:
だから知ろうとしてるから。俺も。こういう話を、なんていうの、言ってみれば恥を忍んで聞いてるわけだよ。普通こんな話を黙って聞くかな?
わたし:
お父さんにとって普通じゃないことを今やってるんだろうなっていうのはわかってる。だから本当にすごいなとは思ってる。
母:
聞こうとしてくれてるっていうことは、すごい嬉しいことではあるよね。
父:
いや、それでさ、ちょっと話また前に戻すけども、このエピソードの問題は「お姉ちゃんの気持ちを知る」でしょ?ま、お姉ちゃん、固有名詞はともかくとして
――父の気持ちを理解し、寄り添おうとするとスルッと逃げる。
父:
相手の気持ちを知る。ためには、己を知らなければ駄目だと。自分を。ということでやってんだよな?
――論点ずらしをしてきたのは父なのだけど‥‥。
わたし:
うん。例えば今「ショックだった」って言ってくれたじゃん?そういう気持ちとかだよね。あんまり感じたくないかもしんないけど、そのショックな気持ちを大事にするっていうかさ
父:
大事にするってどういうことだ?
わたし:
例えば‥‥もっと落ち込んでいいよっていう感じかな。
父:
かぁーはっは。笑
わたし:
なんていうの、もっと落ち込むよね普通。今、わたしが言ってきたことにショックを受けてるんだとしたら、ロジック的に話聞いていられない。わたしだったらね。ショックを受けてたら。
それはお父さんとしてのプライドだったりするんだろうなって思うけど、そうやってプライドとかが入ってくるから、ショックを受けて落ち込みきれない。で、気持ちを感じきれないから、また気持ちを押さえたまま次に進めない。ってなるんじゃないかなって。
父:
っていうことはプライドから重みから全て取り払って、気持ちで。っていうことなのか。
わたし:
そうだね。気持ちでっていうのは基本っていうか。前も言ったじゃん。気持ちのぶつかり合いだよって。
父:
それはそうなんだけどやっぱり、気持ちのぶつかり合いは、言葉ではわかるんだけど、そこにやっぱプライドとかさ、何かがあるから、そこまだ拭い去れてないわ。
わたし:
うん‥‥ある意味さ、こういう風に、お父さんにとって嫌だろうなとか、きついだろうなって思うことをバンバン言うのは、それを取り払ってほしいからでもあるっていうか。
父:
うん。全部取り払って、丸裸の俺の気持ち。ていうとこか?
わたし:
うん。
父:
なるほどね。
わたし:
なんか正直さ、わたしもね、嫌なわけよすごく。
父:
そうだろな、それ言われると俺もつらい。
わたし:
うん。なんか、お父さんのこといじめて気持ちよさそうに見えてるかどうか知らないけど、わたしはガンガン言う方だから「泉は気持ちいいでしょうよ」って思うかもしんないけど、もう本当、嫌なのね。言いたくないし、なんかもう相当、わたしも(限界に)きてるっていうかさ。早く!出て行きたい!という気持ちが強まる一方っていうか。
だけど、せっかくお父さんも「(家族会議を)やる」って言ってるし、お姉ちゃんのこととか考えても、ここまでやってきたんだから、最後までっていうか、やり切らないと。
お父さんが言ってたように、これが最後のチャンスだと思ってるからわたしも。だからなんていうの‥‥そもそもわたし、嫌いなわけでさ、家族が。その嫌いな家族のために、嫌な思いしながらぶつかり合いたくなんてないわけよ。普通にね。
でもやってるっていうのは、大事だから。家族だから。それに、なれるもんなら幸せになってもらいたいし。っていう思いがあるから。
父:
わかりました。泉の気持ち、よくよくわかったんで。プライドを、脱ぎましょう。
わたし:
脱ぎましょうって‥‥。
父:
大丈夫です。脱ぎます。
わたし:
うん。‥‥って感じかな。
父:
うん、うん、うん‥‥。
わたし:
本当にね、お姉ちゃんの気持ち、わかりたいんだったらもうそうするしか(本音を出すしか)ない。諦めるか、本気でわかろうとするかどっちかにしてほしいって感じかな。わかった風なことが一番中途半端なんだよね。
父:
うん。お父さん得意なとこだな?
わたし:
そう、そうだね。笑
もう、「わかるのすら嫌だ」って言うか、本気でわかろうとしに行くのかどっちかに、もうそろそろ、しないと。
父:
わかりました。本気に、わかりたいんです。今回は。
――何度この言葉を聞いただろうか。
わたし:
これさ、もう十何年?お姉ちゃんが鬱になってからやってるわけでしょ?
父:
うん。ほんじゃ次、次のやつちょっと一問だけ言ってくれる?
わたし:
一問?
父:
出された、やつに対する答えが、どうなってんのか。お父さんのほう今試験しようとしてるから。お父さん自身が
わたし:
ん?ん?出されたやつの答えって?どうなってるのかってどういうこと?
父:
泉の意思を改めて今、聞いて、やっぱ、目が覚めてるところがあるんで、その目が覚めた後の答えが、どういうものがお父さんの口から出るのか。お父さん自身が試してみたいから。何か問題出してください。
わたし:
あー‥‥うん?
父:
問題っていうか、次に進む。何ていうんだ?さっき、今さっき出したじゃない、悔しいという思い。が出たねとかさ、次は何とかっていうのがあるでしょ?それ一つ何か出してくれる?
わたし:
うーん、何だろう‥‥。じゃ、わたしに対する気持ち。わたしに対してむかついてることとか、反論したいけど我慢したりしてたこと。かな。
父:
うん。あのーやっぱりね、あるんだそういうのは。で、抑えてる。なんで抑えるかって言ったら、ここを、家族会議を前に進めようっていうのが大前提に立って、ここを押さえていかなきゃいかんっていう、お父さんの普段の、物事の進め方、が出てる。
わたし:
それが結局さ、自分の父親に対するものとか、母親に対するものと、同じだと思うんだよね、そうやって気を遣うっていうか。
ここ反論する場じゃないから。とかって抑えてるわけじゃん。同じこと繰り返してるだけになっちゃうから。
父:
ということはね、今、そういう問題が出て、今までと同じ答え返してるわけだよ。ていうことは泉の所信表明を受けてないんだまだ。真意を。
わたし:
ああ、そゆこと?
父:
そこを試したかったのよ。
わたし:
なるほどね、うん。
父:
だから、ちょっと、今晩それ、身に染みて感じてみますから。泉がこれほどまでに、必死になってやってるっていうのが、何でわかんないんだということでさ。
わたし:
わたしもそうだしお姉ちゃんもね、そうだし。
本当、そうだねー‥‥もう、ここまでやってんだから幸せになってよって感じかな。
父:
お父さんは、今日のぶんは以上で、結構でございます。
わたし:
うん。お母さんなんかある?
母:
なんか‥‥お父さんの今の気持ちを聞いて、お父さんの助けになることができるかな?って思うんだけど。もしかしたらお父さんにいらないって言われるかもしれないけど、何か役に立つことがあったら‥‥
父:
はい。ありがとうございます。何か俺1人で、沼底でもがいてる感じだな。
わたし:
お父さん1人ってことじゃないよね、家族全員もがいてると思う。おねちゃんももがいてるし、わたしもがいてるし。
父:
よし!わかったわかった。わかってないことがわかった。
わたし:
でも、そうだね。今みたいなの、これ何回かやってるよね?この感じ。こういうふうに、目が覚めたみたいな。
それもあってもいいけど、そこでさ、もっと言い返してきてもいいっていうか。
父:
うん、うん、うん。
わたし:
言いくるめたくて言ってるわけでもないし。
父:
うん。
わたし:
とにかく気持ち出して欲しくて言ってるって感じ。だし、わたしはこうやって気持ち出す。わたし出すから、そっちも出してっていう感じ。なんだよね。
父:
わかった。気持ち、出すから。一少年の気持ちを。
わたし:
うん。
父:
何かやっぱり、親とかいう気持ちになっちゃうんだなぁ。だから駄目なんだよ。
わたし:
実際、親だからね。だしさ、わたしも本当、本当人生かけてやってる。って感じなわけよ。今ね。
もう仕事もさ、ほとんど‥‥。もう早く出ていきたいのに、全然仕事も集中できなくて、なんかその分稼げないから出て行けなくて。もう全然やりたいこともできない。でも、それを理由にしたくないし大事だからしょうがないっていうか。
家族のためだと思えば、今出てくことよりも、今これをやることの方が大事だと思うから、出て行くことが遅くなっても、やりたいことがずっと先にしかできなくても、もうしょうがないなと思ってるけど。
だからその分、本気でやるならやってほしいし、やりたくないならさっさとわたしもやめたいしっていう感じ。
ご飯食べさせてもらってる分際で、わたしの人生かけてやってるように見えてないかもしれないけど、わたしとしては、もう人生注いでるって感覚でやってんだよね、お姉ちゃんにも、お父さんにもお母さんにも。
父:
わかりました。わかりました。
わたし:
そんな感じ。
父:
はい。今日はこれまででやめましょう。
― 家族会議24回目おわり ―
新聞のコラムで読んで、ハッとしたことがある。振り返るとわたしは、ヤングケアラーになっていたんだな。と。
わたしは学生ではないから、「こどもとしての時間」というより、「わたしの時間」が奪われただけだけど。
でもそれによって、仕事や自分の将来に影響がでている。
自分で選択した側面はあるのだけど、深みにはまって自分の大事な時間を捧げすぎてしまった。
今回の家族会議のように、父は大事なことに気づいたかに見えて、結局なにひとつ変わらなかったことを思うと、同じような境遇にいる人にわたしが言えることは、「親から離れたほうがいい。」ということである。
親から離れ、自分の人生を生きたほうがいい。と。
だけど姉のように、親の影響から生きづらさを抱えている人が、「自分の人生を生きよう」とは、そう簡単にはなれない。根本的な問題が解決しないからだ。
それに、こうした話し合いによって、父は変わらなかったけど母は変わった。成功事例もあるのだ。
だから一概には、「離れたほうがいい」とは言えない。それでも、家族と分かり合おうとすることは、「分かり合えない可能性が高い」という覚悟をもって取り組む必要がある。
「話せばわかる」という気持ちでいると、分かり合えなかったときに立て直せなくなる可能性がある。
わたしのように、恨みを増幅させてしまうことも。
それも結局は、わたしの逆恨みにすぎないのだけど。
<次回に続く>
これまでの家族会議記事はマガジンにまとめています。お時間あればぜひ、わが家の会議をのぞきに来てください!