【連載】家族会議『情状酌量をはねのける』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。2020年1月6日から約4ヶ月に渡って行った会議の様子を、録音記録をもとに書き記しています。
前回の記事はこちら。
家族会議24回目#1|情状酌量をはねのける
――2020年3月7日。家族会議24回目。
前日の家族会議では、「姉の気持ちをわかる」ことをテーマに話し合った。
母は、自分がどう姉を傷つけてしまったのかがわかる一方、自責の念に駆られがち。だけど、姉の本当の気持ちを感じ取ることがどういうことなのか、ようやくわかってきたところ。
一方の父は、自分がしてきたことに向き合えない。
幼い姉に、理不尽にストレスをぶつけていたこと。
親や世間の理不尽さに我慢してきた腹いせを、子供にしていたこと。
どれもこれも、「みんなやっている普通のことじゃないの?」と正当化する。
そもそも父は、腹いせするほど嫌な思いをしていないという。
だから腹いせと言われても納得がいかない。
わたしはそんな父に、自分がされて嫌だった気持ちを思い出すことが、姉の気持ちがわかる近道だと、説明した。
母:
今日はお父さんから何か話ある?
父:
いや、今日特にないんだわ。先にはなかなか進めない。
わたし:
なんかまだ疑問に思ってることとか、とくにそれはない?
父:
ない。っていうかもう、それでいくしかないんだろうなぁ。
母:
それでいくしかって?
父:
100%理解したかっていったら、理解はしてないけど。納得したかっていったら納得はしてないんだけども。かといって、じゃなんなのよって言われたときに、何もそれがないし‥‥そう思うしか、ないんじゃない。
そう思ったときに、なかなか。前に進めないなーと。
わたし:
受け入れられないってこと?
父:
受け入れられないじゃなくて、何かこう、探してっても、やっぱ納得なのかなぁ‥‥探してっても出てこないんだよ。宝が。
母:
お父さんが納得って言ってんのは、家族に八つ当たりしてたみたいなことに関して言ってんの?
父:
いやそうじゃなくて、お姉ちゃんの本当の気持ちをっていうところもさ、なかなかね、お姉ちゃんをこっちから見ても、そこにたどり着けないんだよ。
わたし:
それっていうのは昨日、お姉ちゃんの気持ちをわかる糸口として、お父さんが自分の小さい頃の気持ちを感じてみることかなって話をしたと思うんだけど。
父:
それが感じられないっていうか、なんちゅうかなぁ。
わたし:
そんなに根に持ってるとは思えないって感じ?
父:
う~ん。自分がその、よっぽど小さいときにそうなっちゃってるのかな?要するに、例えば子供のとき、かなり小さい子よ?自分に思考能力じゃないけども、判断能力っちゅうかな、それが全くない頃にはさ、一家の主が、いいにつけ悪いにつけこうだって言ったらさ、言うこと聞くしかないよね?
だからそれが当たり前となっちゃってんのかなぁ?思考能力あったときはもう、何も疑問を感じてないんだよ。
わたし:
うんうん
父:
だから、何か掘り下げても出てこないなって感じだなぁ。
わたし:
なんか、物心つく前からそういうものなんだっていうある意味‥‥
父:
言葉悪いけど洗脳なのかな。
わたし:
うん、洗脳かなって思うね。なんかその洗脳を外したときにどうかっていうことなんだよね。
父:
どうやったら外せんだろう。だから何か、前に進めてない感じすんだわ。
わたし:
どうやったら外せんだろう?どうやったら外せるんだろう‥‥まあ、一番はほんと、気持ちに従ったときにどうかってことだと思うんだけど。う~ん‥‥。
洗脳状態でもさ、理不尽だなって思ったり、横暴だなって思ったりはしたわけじゃん?
父:
洗脳状態の、洗脳された後?
わたし:
洗脳された状態にいながらも、理不尽だなとは思ったり、横暴だなって思ったりはしたわけだよね?
父:
うん。その期間ってのはほとんど短いよ?
わたし:
うんうん。
父:
すぐ優しい親父になったからね。親父のことを言うならば。だからなんか、よくわからんのだなぁ。
わたし:
だから、とくに恨んでもないってわけだよね?
父:
うん。
わたし:
でもその小さい、その短い期間に嫌な思いはしたわけじゃん?嫌な思いをしたことはあったわけだよね?
父:
うん。
わたし:
それが、お父さんの中で嫌な思いってほどのことになってないのかなとは思うけど。
そうだ。昨日考えてて、お父さんって、(父親からされたことが)あんまり嫌な思いっていう認識ではないんだよなーって思ったときに‥‥、それが当たり前だと思ってたんだよね?一家の主として、多少横暴でも、そういう態度でいる親父っていうのは当たり前。って思ってた。
父:
うん。
わたし:
で、お父さんはそこに対して違和感を感じてもいなかった。で、自分の中でそれが、それほど根に持ってる感じもしてない。
父:
うん。
わたし:
その当たり前っていうのはなんか‥‥当たり前っていうことと感情はイコールじゃないと思うのね。当たり前っていうのは仕組み的な問題で、感情はそれとは別にあると思うの。
なんていうか、お父さんは仕組みで生きてきた。ある意味、感情をなくしたまま生きてきたみたいなものに近い。もちろんゼロじゃないと思うけど。
親父っていうのはこういうもんだ。それに従って生きてきた。そこに感情は付随してないっていうか。だからお姉ちゃんにも同じことをした。だから腹いせじゃないってことなのかな?って、ちょっと思ったの。
父:
うん、腹いせっていうのと違うと思うな。
わたし:
うん。単純に、親父は横暴でもよくて、納得いかないこととか違うと思ったことを横暴にでも子供に言う。それが親父のあるべき姿だって思ってた。
父:
うん。だから昨日の話よりも、今の方がなんか、すっといくような感じするな。
わたし:
うん。
父:
腹いせ??昨日聞いててずっと違和感あったんだけど。
わたし:
うんうん。これもある意味で腹いせだけどね。やられてきたことをそのまんま、いつかは自分も!って。
親父にやられるのは仕方ない。この横暴さに我慢して嫌だったものを、自分が親の立場になったときには、今度は俺ができるんだ!って思ってた。そこに腹いせっていう明確な認識はないけど。
だからそういうのを、(疑問ももたずに)単純に受け継いだ。
母:
やってもいいものだって、そういう感じ?親もやってたし、俺もやっていいんだみたいな、感じかなぁ?
先輩後輩のあれも似てるよね。先輩が後輩を、指導するといいながらいじめてるっていうか。そして先輩がいなくなると、今度自分たちが下の人たちに。嫌な思いしてるはずなのに、後輩に同じことをやるみたいなのってなんか‥‥。なかなか途切れないまんま、続いてたりすることとも似てんのかな。
わたし:
だから結局は腹いせなんだけど、その自覚はない。そういうものだからって思ってやってる。けど、それをやるっていうのは、やっぱ嫌な思いをしたから。そこで感情に従わなかったからそうなったっていう側面はあると思うんだよね。感情を押し殺したからそうなったっていうか。
そのときに嫌だなって思って、反発したりしてたら、また変わったのかなって思うわけよ。嫌だなっていう気持ちを感じてたら、そんな嫌なことを人にできないよね。その人が傷つくっていうのがわかるんだから、普通だったらやらない。自分がされて嫌なことって。
でも感情を押し殺しちゃったからできちゃう。人にも。そういうことかなって思う。
父:
なんかまだ、ピンとこないな。
わたし:
普通さ、自分がやられて嫌なことを他の人にやったら、それで相手がどれぐらい嫌な思いするかってわかるんだけど、「どれぐらい嫌か」っていうのを感じれてないからできちゃうっていうことかなって。
父:
そういうことなんだろうな。論理的にはよくわかる。わかるんだけど、そうかあ?って、今思う気持ちがあるね。
― 今日はここまで ―
わたしが父に、「嫌な思いをしてきたんじゃないの?」と話しているのは、ある意味での救済措置だ。
「お父さん、幼い子供に腹いせするなんてひどいことしちゃったかもしれないけど、それはお父さんにも傷ついた過去があるからだよね?」と。
「情状酌量の余地があるんだよ?」と。
「そのお父さんの傷ついた気持ちも救ってあげたいんだよ」
「だって、自分だって傷つけられたのに、親と同じことをして、自分だけやっちゃダメって言われても納得いかないでしょう?」と。
嫌な思いをしたのではないのなら、父はただただ、反発もできない弱い子供相手に自分のストレスをぶつけて憂さ晴らしした、自己中で最低な人間ということになる。
そうではないんじゃない?お父さんは、そんなに最低な人間じゃないでしょ?悲しみがあったから、そんなことしちゃったんでしょ?
そう、情状酌量を与えようとしているのにここまで反発してくるのは、理解に苦しむけど、父はそこを認めたら、自分が姉に罪を犯したと認めることになってしまうのが嫌なのだろう。
そもそもこの話は、「姉の気持ちがどうやったらわかるか」という話であって、父が姉の気持ちをわかる人なら、自分が嫌な思いをしたと告白しなくても、腹いせしたと言わなくてもいいのである。
どうしても姉の気持ちに寄り添えず、姉の心の傷を増やし続けるから解説しているだけである。
目的を見失った‥‥というより、もともと「姉の気持ちをわかりたい」とすら思っていなかったのだから、情状酌量など与える必要もなかったのだけど。
<次回に続く>
これまでの家族会議記事はマガジンにまとめています。お時間あればぜひ、わが家の会議をのぞきに来てください!