【連載】家族会議『ストレスのはけ口にされる弱者』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。その様子を、録音記録をもとに書き記しています。
前回の記事はこちら。
家族会議6日目#2|ストレスのはけ口にされる弱者
――家族会議に参加できない姉には、わたしが逐一報告を入れている。そこでカウンセラーの姉からアドバイスをもらうと、家族会議で共有するようにしている。
わたし:
昨日の話で、お母さんはまだタイムスリップできてない感じするって言ったじゃん?お姉ちゃんにそれを言ったら、「確かにお母さんって案外そうかも」って言ってて。
お父さんの小さい頃の話って聞くと情景が浮かぶんだけど、お母さんの話って聞いてはいるんだけど、ぼやっとする感じがあるって。
だから実は、結構根深いのかもねって。お母さんの小さい頃のことって。って言ってた。
――「タイムスリップ」とは、自分の幼少期にタイムスリップするという話。家族会議で、父と母のインナーチャイルドを癒すワークをしている。
わたし:
ただ、(母親に)反論してはないけど、言われたとおりにはやってない。それでちょっと、小さな抵抗はしてたんだよね。
でも言えてはいないから、たぶん、その言えなかったところが何かが残ってる原因かもねって。
母:
そうかもね。
わたし:
だから言えてればもっとよかったってことだと思うから、例えば小さい頃の自分には、反抗したことに関して「よく反抗したね」って褒めてあげつつ、「もうちょっと頑張ればよかったね」みたいに寄り添ってあげるといいのかも。って。
で「もっと言ってもいいんだよ」って。「惜しかったね」って、「もうちょっと頑張れ」みたいな。
そんなことをお姉ちゃんが言ってた。
あと今もさ、おばあちゃんに言えないって言ってたじゃん?
それは昔からの引きずってる何かがあるんだろうけど。
だから、「何で言えないのか」っていうのを出してみるといいかもね、って。
「おばあちゃんを傷つけそうだから言えない」とか、「好きだから言えない」とか、「言ってもどうせわかってもらえないから言えない」とか、いろいろあるよね。
一旦、そう。「なんで言いたくない」のか。
その場で言えないっていうのは結局は、瞬時に抑えちゃうからだから、「言えない」「言いたくない」理由があるんだと思うって。
母:
根深いものでちょっと思うのは、何て言うか、うちって単純じゃなかったっていうか。
――母の家は、父と母と弟の4人家族だ。だけどすぐ近くに父親の本家があって、独立しているような、いないような、中途半端な立場だったという。
母いわく、「本家の付属品」。
祖父は役場で働いていたけど、祖母は本家の農作業の働き手であって、母と弟は、本家で面倒を見てもらっていた。
家は別にあっても、ほとんど本家と一緒に生活をしていたようなものだ。
祖母はそれに、やりづらさや暮らしづらさを感じていたと思う。と母は言う。
ただ、祖母が納得いかなかったのは関係性だけじゃない。
例えば『家』。本家に対する「分家」となる場合、当時は家を建ててもらえるものだったらしい。つまり、用意してもらえるということだ。
だけど実際、大工さんにお金を払ったのは祖父だった。家を建てる土地は分けてもらい、家を建てるための木は本家の山から切り出した木だったたしいけど。
これが祖母の不満のひとつめ。
もうひとつは、もらっても困るような田んぼをもらったこと。
そもそもは、広い大きな田んぼを「これがお前たちのものだよ」と言われていたのに、蓋を開けてみれば端っこの、日陰とか三角形とか扱いにくい田んぼを少しもらっただけだった。
その少しの田んぼのために、農作業具を揃えるのも割に合わない。そこでお米づくりは本家に頼み、工賃を支払ってお米をもらっていたらしい。
だけど祖母は、本家でただ働きをしていたのである。
なんというか、祖母からすれば「上手く騙された」感覚だったのだろう。こんなことになるんだったら、完全に離れて独立すればよかったのに。と。
結局、祖母は10年本家で働いたのち、手伝いを辞めることになる。
きっかけは、祖父が結核で長期入院を余儀なくされたとき、お金に困っても本家が助けてくれなかったことだった。
幼かった母も弟も、家のそんな事情は知る由もない。
幼少期の母の根深さは、ある意味祖母の根深さが影響しているのではないか。母にはそういう感覚がある。
父:
無給で働いてるってのがあれだよな。
母:
土地をわけてやったとかっていうのはあると思うけどね。
父:
俺の実家に働きに来た人たちって血縁関係がないから、そこまでややこしくないんだけど、それはしんどいわ。そうだったんだ。
わたし:
おばあちゃん的につらい立場にいたってことだよね、きっとね。
そういういろんな割に合わない不満もあったけど、おそらくそれ以前に、嫁っていう立場なわけじゃん?毎日一緒に働かなきゃいけなくて、義理のお母さんに子供を預けるみたいになってたわけだよね。
普通にそれだけでも結構、ストレスたまるよね。
だけどちょっとでもいい思いもできれば、その畑がもらえるとか田んぼがもらえるとかがあれば。
母:
それを目標に頑張ったのだからね。
わたし:
そう言われてたわけだから、その約束が果たされなければ、何のためにあんなに我慢したの?とか思っちゃうってことだよね。
でも子育てしてる時代は、まだもらえないことは判明してなかったわけだよね?
母:
してなかった。
――約束の田んぼがもらえないことが判明したのは、ずっとあとのことだ。つまり母の幼少期、祖母が抱えていたストレスの原因は別にある。
わたし:
だからつまりは、そのときのおばあちゃんのストレスっていうのは、単純に嫌だったってことだよね。単純に、働きに行くのがつらかった。
母:
その、長男夫婦と一緒に働いてたんだけど。その人たちと、何かあんまり仲良くなれなれない状態で、おばあちゃん的には何だかわかんないけど意地悪されるみたいな、気持ちよく迎えてくれない、何か冷たいとか、なんかそういう感じだったみたい。
わたし:
それじゃない?っていうかそこだよね。
もう、すごくつらかったけど、立場的に文句も言えないし、将来のためだと思ってやるしかないみたいな。子供たちのためだとかさ。
自分たちが食べていくために必要なんだから我慢しなきゃみたいな、そうやっておばあちゃんも押さえ込んで我慢して働きに行ってた。つらい環境の中に。
そういうのがお母さんたちに向いてたのかな。「あんたたちのためにつらい思いも我慢してやってるのに!」みたいな感じかな。
母:
うん。そういうところは多々あったと思うな。
――本家を継ぐ長兄夫婦も、厳しい親との間でストレスを抱えていたらしい。本家の嫁に入った人からすれば、分家が気楽な立場に見えたかもしれない。
祖母は、本家の嫁からのストレスのはけ口にされてしまったのだろう。
- 今日はここまで -
ストレスのはけ口にされるのは、弱い立場の人間だ。
嫁同士であれば長兄の嫁から弟の嫁へ、親子であれば親から子へ、姉弟であれば姉から弟へ、夫婦であれば夫から妻へ。
弱い立場の人間が、わけもわからないまま、相手のやり場のない気持ちを押し付けられてしまう。
とくに子供は、大人の複雑な事情などわからない。わからないけど、感情だけは敏感に感じ取る。感情と言葉に矛盾を感じ取ったとき、その裏にはなにか事情があるのだ。
だけど子供にとって、それが理不尽なことなのかどうか、判別することはできないだろう。
母は、複雑に絡み合った負の感情の中で育った。それが母の根深さを生んでいるのかもしれない。
<次回に続く>
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