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【連載】家族会議『父の3つの悪い素』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。2020年1月6日から約4ヶ月に渡って行った会議の様子を、録音記録をもとに書き記しています。
【家族構成】
父:自己愛性パーソナリティ障害。頭に血が上ると大声で威圧する。
母:自己肯定感が低い。自分の意見を言えない。
姉:うつサバイバー。心理カウンセラーをしている。
わたし:性犯罪サバイバー。家族会議を主導する。
※遠方に住む姉は家族会議には参加していない。
※家族会議の目的は、夫婦仲の改善と、うつを抱える姉の気持ちをわかってあげられるようになることである。
前回の記事はこちら。
家族会議33回目#2|父の3つの悪い素
1週間ぶりの家族会議は、父の報告から始まった。
この家族会議は、父は姉と、母はわたしと話し合った内容をシェアする場となっている。
ある程度話したところで、父は「途中経過なんですけれども、何か、私に対していうようなことあります?」と聞いてきた。
母:
3つの何だっけ?
父:
素。
母:
素っていうのは、家では俺が一番だ。と思ってるわけ?
父:
うん。
母:
で高圧的で独断だ。って思ってる。
父:
うん。
母:
で、もう一つ緊張感を与えるって思ってるわけ。
父:
うん。これが私の素だろうと、私は思ってると。
母:
んで、この結果、相談しにくくしているっていったよね。
父:
うん。
――父には3つの「悪い素」があるという。
①自分が1番という意識 ②高圧的で独断 ③相手に緊張感を与える の3つ。こういう性質を持った自分は近寄り難く、心を開けなかったのではないかと。恐くて相談などできなかったのではないかと。だから家族内のコミュニケーションが成り立たなかったのではないかと。父はそう言っている。
しかし、これは事実とのズレがあるのだ。
母:
うん‥なんか、私としては相談してたけどなって感じなんだけど。
父:
あ、そう。
母:
確かに、家では俺が一番だ。っていうのは、そんな感じだよねって感じだし、高圧的で独断もそうだし、その結果緊張感を与えるってこと。これは、このままだと思うけど、でも相談してたよなって感じがする。
その結果、相談はしたけど、相談の仕方もあるかもしんないけども‥‥相談はしたけどって感じだった。
父:
ここで言いたいのはなんかね、報連相という言葉がよくあるじゃない。その報連相が成立してないっていうことを言いたかったの。
母:
あ、相談じゃなく?
父:
報告連絡相談ってよくあるだろうよ。で、報告連絡というのはどっちかというと、情報じゃん。相談っていうのは心じゃん。心の連絡がなかったなと。連絡というか、報連相でいう相談がなかったなと、いう意味です。
母:
報告も連絡も相談も、じゃあ、あったよね?
父:
だから、心がないんだよ。
母:
相談したんだよね。受け付けてもらえないって感じだったけど
父:
‥‥。
母:
そのうちしなくなったりはしたかもしれないけど。私的にはそうだったな。
父:
じゃあ、お母さんの疑問点というのは、まず一つは、今でも迷惑をかけ続けているというのが一つと、報連相はしたけれども、受け付けてもらえなかったと。いうことですね、これはまたこれで
母:
報告とか連絡は「はい」って感じだけど
父:
相談ね。
母:
相談は、受け入れてもらえないって感じでした。
父:
これはちょっとまた掘り下げてみます。
(沈黙30秒)
――報告や連絡はされたけど相談はされてない。つまり、コミュニケーションが不足した原因はこれだ!と、新しい発見をして得意げになった父だったが、あっという間にその仮説は崩された。
この仮説を成立させるために、自分の都合のいいように事実を捻じ曲げたからだ。
父が言いたいのは、「相談しづらい空気を作っていた俺も悪いけど、コミュニケーションが不足した原因としては、相談しなかった母側(わたしたち側)にも問題があるよね」ということ。父はどうがんばっても、自分だけの責任と思うことはできないらしい。
父は、100%の責任を負うことは絶対にない。必ず相手や世間に責任の半分は背負わせる。いや、半分ならまだいいほうだ。たいてい、自分の割合が少なくなるように設定されているから呆れる。
母:
俺が一番ってのはいつからなの?
父:
前の幼少期のところに書いてある(自分年表)んだけど、勉強で一番を取るなんていうのはあったでしょう。
母:
それと、家では俺が一番っていうのは?家では俺が一番って
父:
幼少期のときに、一番っていうのはものすごく意識してるわけですよ。 これが、外に行けばね、家庭じゃなく外に行ったときには、自分の素っていうのはそんなに出ない。 普通の人は出さないもんだから、丸く収まってるんだけど、うちに来たら自分が一番っていう意識が、もろ出ちゃってんじゃないのと。出てるような気がする。
母:
学校のときの成績の一番と、家での一番は違うような感じがするけどね。
父:
細かく言ったら違うのかもしらんけども、俺はそういうふうに感じたんだわ。なんでも一番と。俺が俺がと。
母:
学校のときに、一番取ったとして、周りの人に高圧的になったり独断的になったりはしなかったんでしょ?
父:
だから外に行くと素が
母:
外に行くと?うちでは?
父:
うん。素が出にくくなる。
母:
うちっていうのは結婚してからってことなの?
父:
うちではっていうときは、そう考えてるんだけど。
もっと言うとあれかな。うちではっていうのは、結婚する前も、多分そういうところはあったのかもしらんけれども、その素っていうのは、一番末っ子なもんで、出しにくかったんじゃない?こういう素っというものが。自分が一番だなんて、うちの中で言ったって、「ほうか」って潰されて終わりじゃん。
であともう一つ、高圧的であるとか誰にも相談しないっつったって、一番末っ子がこんな態度やったってさ、無視されるじゃん。 だから言葉を悪く言うと、強い人には従う。 親父のときにも書いてあるけど。だから、本当に自分の嫌な面が、この家庭では、出てたと思うわ。
母:
じゃあ結婚してからは、自分に何も言ってくる人がいないとか、弱い人たちばっかりだとか、そういう感じで
父:
そんなの意識はしてないんだけども、自然と出ちゃってんでしょうねえ。まあ最低だね。こういうふうに表すと。
――外では素が出ない。家庭内では素が出る。つまり内弁慶みたいなことだけど、これも事実とズレていると思う。
父は、外と家で違うのではなくて、相手が上か下かよって態度が変わる。自分を基準に、相手が偉いかどうか、強いか弱いか、男か女か、頭が良いか悪いか、といったランク付けで態度を変えるのだ。
素が出ちゃうと言えばそうなのだけど、人を差別しておいて、「素が出ちゃう」と表現するにはあまりに罪の意識がなさすぎる。
母:
お父さんとしては気持ち良かったのかなあ?
父:
意識してないから、気持ちがいいとか悪いとかっていう気持ちも生まれません。
母:
どんな、どんな気持ちで‥‥
父:
どーんな気持ちっていうか、それが普通だろうと思ってたのかなあ。親父と同じですよ。
――「それが普通だろうと思ってたのかなあ」と曖昧にしているが、父はそれが普通だと思っている。男であるだけで女子供よりも自分のほう立場が上で、さらに父親というだけで偉いのであって、何をしても何をしなくても、それはトップである自分の自由だと思っている。
それは、今までの言動でも明らかだ。
(沈黙1分)
父:
人間的に最低だね。
――父はこうやって度々自分を卑下する。だけど、こういうときの父は、他人事として自分を卑下している。だから、実際には、自分を最低な人間だとは1ミリも思えていない。
(沈黙2分)
わたし:
‥‥お母さん?
母:
ん?
わたし:
お母さんの報告
母:
ああ、次お母さんってこと?
わたし:
なんか終わったみたいだから。
母:
おわり?
父:
今日ここで、とりあえず切って、宿題は、さっきの2つでよろしいですかね。 お母さんから言われた、「今でも迷惑をかけてんだよ」というところをまた掘り下げてみるのと、「相談はしたよ。受け付けてもらえてもらえてなかったよ」と、この2つを掘り下げてみると。よろしいですかね。
次は次のときには、今日温かい心が必要だと、心が必要だというところまできたんで、次回は心って何だというところから始めますから。
わたし:
はい。‥‥っていうか終わってなかったってこと?
父:
ん?
わたし:
その「心ってなんだ?」ってところまであるんだよね?
父:
半分。
わたし:
終わってなかったんだったら、ごめん、喋っていいよ。
父:
いやいや違う
わたし:
終わったのかと思って。
父:
まだ掘り下げが足りないんです。
わたし:
うん。
父:
終わってないんです。
母:
じゃあ私?
― 今日はここまで ―
父のややこしいところは、①自分が1番という意識 ②高圧的で独断 ③相手に緊張感を与える と自己分析まではできるものの、それがどれだけ相手に嫌な思いをさせているかがわからないところである。
これを、わたしはずっと「惜しい」と思っていた。ボタンを掛け違えているだけで、正しい場所さえ分ければ途端にコミュニケーションも噛み合うのだと、もどかしい気持ちでいた。
それに、こうして家族会議に向き合ってくれるのだから、聞く耳も持たない父親よりもまともな人間だとすら思っていた。
だけど、今思えば「聞く耳も持たない父親のほうがよほど正常」だ。だって、それは気持ちと態度が一致しているということなのだから。
わが父は、言葉と態度と気持ち、それがバラバラなのである。
これほど気持ち悪いことはない。
「俺にはコミュニケーションが不足していた」と報告だけして一向にコミュニケーションを取ろうとしない父と、どう心を通わせればいいというのだろうか。
<次回に続く>
これまでの家族会議記事はマガジンにまとめています。お時間あればぜひ、わが家の会議をのぞきに来てください!
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