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トラウマの癒し:身体に封印されていたもの (10)

トラウマの癒し:身体に封印されていたもの⑨の続きです。
泣きの一日の翌日に呪縛のBGMに気づいたワタシは、沈んだ気持ちに逆らうことなく自分を見つめ続け、親友にあるお願いをします。次の日は気持ちも落ち着きはじめ、翻訳の仕事をしたり、カレの存在に甘えたりと、この後に続く大デトックス第二波が来るまでの小休憩のような時間を過ごします。

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●親友に甘える●

無意識に流していた呪縛のBGMに気づいたからといって、急に何かが変わることはなかった。前日に背骨の一つ一つに凍らせて閉まいこんでいたような涙を一日かけて流したにも関わらず、気持ちは重苦しいままだったし、涙もまだ時々訳もなくポロポロとこぼれた。そんな自分を感じ続ける。

眼に映っていた外側の世界から自分を切り離したことを知ったワタシは、無意識とはいえそれを抱えて生きてきた自分を抱きしめたくなった。「よく耐えたね。よく頑張ってきたね。」と言いながら。

ワタシは親友二人にラインでこのとことを伝えて、そして素直に直球でお願いした。

「だから褒めて」

55歳になってこんなことを言えるのはこの二人くらいだ。それぞれの形で褒めてくれた二人。二人とも無理に励まそうともせず、重く受け取ることも、短絡的に喜ぶこともなく、いい塩梅で寄り添ってくれた。この後、さらに封印されていたものが出てくるのだけれど、あまりの強烈さに自分の中だけに留めておくことができず、二人に報告をした。そう、とても大きな蜘蛛に遭遇した時に、どんなに大きかったか、どんなに驚いたかを説明して、その時のショックとストレスを和らげるように。そうした形で、この大きなデトックスの期間を支えてくれた親友二人。とても貴重な存在である二人に心から感謝しているし、こうした親友に恵まれたことにも感謝せずにはいられない。

●知らぬが仏●

その翌日の6月13日(大デトックス3日目)は、ワタシが暮らしているイタリアでは新月だった。この日はだいぶ気持ちも落ち着いてたけれど、きれいな曲や優しさに触れると涙が出て来た。まるでカサブタが剥がれた後のピンク色の肌のように、心がとても敏感だった。そしてひどく疲れていた。

それでも翻訳の仕事があったせいか、いくらか気力が出て少しずつ準備をしてきた新しいブログを公開した。新月を迎え、癒しの大デトックスはこのまま終わりに向かうように思われた。しかし、この予想は見事に覆される。身体と心の大掃除はそう簡単には終わらず、涙の一日に続く第二波がこれからやって来るのをこの時のワタシはまだ知らない。

子どもの頃に無意識に封印されたものは、意識的に封印したものとは違って、封印されたものがあることすら本人は知らないのだ。出来事も、その時の衝撃さえも。「知らぬが仏」という言葉があるけれど、そのお陰でワタシは、他の子どもたちと変わらぬ子ども時代を楽しむことができた。今振り返ってみれば問題行動はあったけれど、まだそれは日常を脅かすようなものではなかった。それでも問題行動に気づいてケアを受けることができるなら、その方がいいに越したことはないけれど、昭和40年代(1970年代)にそうした考えが生まれるはずもない。ケアができる専門家がいたかどうかも分からないような時代なのだから。

●カレに甘える●

親友二人の他に、もう一人支えてくれた人がいる。一緒に暮らしているカレだ。カレにはワタシの中で何が起きているのかを言わなかった。話す気にならなかったのだ。こうした内面的な話を聞くのがカレは好きではない、というワタシの中にある勝手な判断や、日本語以外の言語で話すのが面倒臭いという気持ちがあった。けれど、それを乗り越えて話そうという気は起こらなかった。カレに対して怒っているとかそういうことではなく、日常的なことはいつも通りに会話したし、笑顔にもなれた。カレもワタシの様子がおかしいということは気づいていても、それを問いただすようなことはしなかった。大デトックス3日目の夕方、疲労感から夕飯の仕度さえ億劫に感じてソファに横になっていたワタシに、食事に行こうと誘ってくれた。気持ちが楽になり、とても救われた。その時、初めて様子を聞かれたのだけれど、それには答えなかった。答えようがないし、どう答えたらいいか分からなかったから。カレは返事をしないワタシを問い詰めるでもなく、その状況を受け止めてくれた。

カレが古くから知るレストランに行き、二人が気に入っているパスタを食べ、近くのテーブルに座っている男女について想像を膨らませたり、昔話をしたりと、楽しいひと時を過ごすことができた。心のデトックスから切り離された日常の時間がそこには流れていた。ワタシは少しホッとした。大デトックス中、塞ぎん込んでいるようにしか見えないワタシをそっとしておいてくれて、さらにはこうした何気ない温もりを感じる時間を与えてくれたことに、とても感謝している。大デトックスの引き金を引いたのはカレだけれど、その一方で大きな支えとなったことは言うまでもない。そして自分と向き合う場と時間を与えてくれたことにも、心から感謝している。

カレと外食をして楽しい時間を過ごしたにも関わらず、その夜はあまりよく眠れなかった。身体が痛んだのだ。この痛みが、ワタシの中に封印されていた「大きな蜘蛛」の存在を知らせる身体からのメッセージだとは、この時は知る由もなかった。

つづく・・

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