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こころのかくれんぼ 19 【自宅療養編〜抜糸劇場②〜】         

診察室には、少しの焦りを含んだ静かな時間が流れている。
そして地味に痛い。
でも大丈夫、終わりは来る。
終わりが見える苦痛は、本当に救いだ。
終わりがあると思えるから、頑張れることは沢山ある。
耐えろ。耐えるのだ。

そう言い聞かせて目を閉じていたけれど、やはり先は長い。
顔・首・鎖骨と進むが、まだ広大な胸と腹部と腰部が残っている。
だんだん眉間にしわが寄り、身体が硬直してきている自分に気付き始めたその時。奥から声がして、誰かが入ってきた。
1人、2人・・・まさかの助太刀医師達が登場したのだ。
お名前は分からないけれど、入院中に見たことがある顔ぶれ。
どうやら、合流の予定を立ててくれていたらしい。
お世話になります!

外来診察室は狭い。処置ベッドも狭い。
壁際に設置されたベッドの片側に医師3人が集まると、それはもう大混雑。
私の傷は左右にある。右側から左側の傷に手を伸ばそうとすると、その医師は私に半身覆いかぶさるような姿勢になる。私の身体の上には6本の手がぶつかりそうになりながら右往左往している。抜糸した後にテーピングをしようと、看護師さんが後方に控えているのだが、医師の壁の隙間から手を伸ばそうにも、そのタイミングが合わない。
というか定員いっぱいで、分け入る隙間がない。

決して効率が良いとは言えない状況だ。
はっ!ここは・・・インターディシプリナリーモデル(インター型モデル)を発揮する時ではないだろうか??

それは多職種チームにおいて、各専門職間のコミュニケーションが重視される在り方。そこには常に医師がトップという職種間のヒエラルキー性はなく、リーダーが固定されてはいない。状況に応じて誰がリーダーになってもよい柔軟性があり、 他の専門職 と共に 目標に向かって連携・協働によって治療・ケアが行われるものだ。

毎日のように多職種カンファレンスを重ねてきた経験から、その時々の課題に応じて最適なリーダーがたつ事は、専門職同士の信念対立を生みつつも建設的で良い結果になりやすい事を覚えていた。
この場にいる医師・看護師は、私の身体に全集中している。
一歩引いて状況全体を見ている観察者は誰?
そう、患者の私だ。

今この時・この場の共通目標を「処置のしやすい環境を整え、効率的かつ迅速に抜糸を終えることにより外来が再開できること」と、立案した。
ひとりで楽しくなってきた。

「あの、先生?」と、私。
「このベッド、移動できませんか?左右に別れた方が先生たちは作業が楽ではないですか?」
はた、と手を止める主治医。
「あ!動かせる!そうしよう!」とひとこと。
ベッドに横になった私もろとも(良いの?)よいしょっ!と大移動。
左にひとり、右にふたりの配置が可能となった。
うん、いいね。と思ったのもつかの間。
今度は皆さん床に膝をついて、作業を再開しようとしている。
無理な姿勢で足腰への負担が大きい!これは腕に無駄な力が入ってしまう!

「あの、先生?」と私。
「こんなにベッドが低いと腰痛くないですか?処置もしにくくないですか?もうすこし上がりませんかね」
はた、と手を止める主治医。
「出来る!高くしよう!そうしよう!」とひとこと。
リモコン操作であがっていくベッド。・・・あがるのかい(笑)
自然な姿勢で処置を行えている事が、皆さんの手先の力の入り方から伝わってくる。ほっ。

ふと目線を上げると、今度はなんと診察室入口のカーテンが閉まっていない。万が一この状況で扉が開くと、上半身裸の私が待合室からすべて見えてしまう。それは流石に・・・。

「あの、看護師さん?」と私。
「ドアが開いた時に心配なので、入り口のカーテンを・・・」と呟く。
「は!あ!やだそうですね!そうですね!すみません!」と看護師さん。

しばし、静かな時が流れる。

四方八方から鋭いくちばしで皮膚を啄まれるような痛みと共に抜糸作業は黙々と続いていく。でも環境的には落ち着いた雰囲気。
「そうか…外来手術室で時間を押さえておけばよかったのか…いや、別に焦っているわけではないんですよ、大丈夫なんですけど。いや、ほんとすみません」とぽつぽつ自分に言い聞かせるように話す主治医。
いいのよ、先生、お気遣いありがとう。

様々な気がかりが渦巻きながら、抜糸は無事に終わった。
所要時間は、1時間だった・・・。


ひそかに立案した目標は達成できた。


☆注意:以下に抜糸後の写真を載せています。苦手な人はご遠慮下さいね










抜糸もさることながら、ちまちまとしたテープ保護も地味に大変。
今後は、定期的に張り替える事になります。
肌に出ている色素変化が、病の特徴のひとつのカフェオレ斑。
歳を重ねるごとに全身に広がっています。


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