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はて?となるほど

NHKの連続ドラマ小説「虎に翼」は、私の身近なところでとても注目されました。
家族がすっかりはまったことと、Twitter上での好評を見て、ところどころ、私も観ました。
ところどころしか観ていないので、この記事でドラマの物語に触れるつもりはありません。
その中で出てきた二つの台詞に注目してみたいと思います。


1.はて?

「はて?」という言葉は、現在の日常用語では使用頻度がさがっている言葉のひとつであるかもしれません。
しかし、このドラマでもっとも秀逸な台詞のひとつが、「はて?」だったように思います。

主人公は、誰かの話を聞いている時、何かを言われた時に、納得できないことがあると、「はて?」と首をかしげます。
それは、理由を考えるよりも早く、反射的に繰り出される疑問です。
このように、なにかすっきりしないぞ、と言う時に、瞬間的に反応できるというのは、私自身が苦手なものですから、素晴らしいなあと思いました。

はて。

この言葉は、その場を凍り付かせることもあります。
自分自身が立ち止まって、一体、何かおかしことを言われているような気がするけれどもそれは何だろう、と考え、それを言葉にするまでの間を作ります。
言われた側も、立ち止まらされて、自分が何かおかしなことを言っただろうかと振り返る間になります。
ここで怒りで反応を示す人は、自分が何かおかしなことを言ったかもしれないという不安や恥ずかしさに耐えられない人かもしれません。

はて。

相手がどんな人であろうと。
自分より年上の人であろうと年下の人であろうと。
自分より社会的な地位がある人であろうと何も持たない人であろうと。
それって本当?と立ち止まること、そして、自分や相手の言動を客観視しようとする動きは、大人になる過程でだんだんと身に着けていってもらいたいスキルです。
それを、なによりも雄弁に、かつ、簡潔に、体言せしめたこのセリフはとても秀逸だと思いました。

心理臨床の業務においても、日常生活においても、あれ?と感じた時に、そのあれ?をそのまま口にして、立ち止まることってできるといいですね。
そこになにか大事なものが隠れていることが多いような気がします。
反射的に口にできるトレーニング、自分も心掛けたい気がしました。
たとえ、面倒臭い人と思われても。

2.なるほど

この台詞も、主人公の再婚(事実婚の)相手が、登場時からよく口にしていた台詞です。
物語が進むにつれて、この台詞はあまり使われなくなっていったように思います。
その一言をここで取り上げたのは、演じた方のすごさからです。

文字にしてしまえば、いつも同じ「なるほど」。
それを、ドラマの中では文脈に沿って、表情や姿勢といったノンバーバルなものを伴い、口調や声音、イントネーションといったパラバーバルなものによって、多様な意味合いを示しました。
それは、生きている対話を文字起こしすることの難しさを教えてくれるように思います。

心理職のキャリアの最初のほうで、SFAに出会ったことは私にとって、とても大きな意味がありました。
インスーらの本には、惜しみなく面接の記録が紹介されています。
魔法のようにするすると変化が起きていく会話が紹介されています。
その逐次記録は、他者の面接をなかなか陪席できない、実際のところがわからなくて手探りするしかない中で、貴重な参考資料でした。

でも、きっと文字に起こす中で、削ぎ落されたものがあるんですよね。
ひとことひとことはそのままでも、そこに添えられた表情。それを伝える声音。あるいは、省略された言葉もあったのかもしれない。
対話は記録には残しきれないほどのたくさんの情報をやり取りすることにほかならないのです。

ですから、なるほど?と首をかしげてみたり、なるほどとうなずいてみたり、ここまでは納得しましたよ、そこはちょっとよくわからなかったですよ、と合図を示すことが大事なのだと思います。
だって、一気にすべてがわかるわけ、ないですよね。

以上、ドラマの余韻を忘れてしまわないうちに書き残しておきたいと思いました。
この2つの言葉を面接に取り入れるだけで、話の聞き方が変わるように思ったからです。
はて?は使いづらいんですけどね。私だったら「ん?」という感じになると思いますが。

最近、AIに絵をお願いすることが増えました。
「虎に翼のイメージ」とお願いしたら、えらくたけだけしいのを描いてくれました。
面白いのでこのまま使ってしまいましょう。

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