本物の国語力を育て、感性と論理をバランスよく磨く 国語専門塾みがく塾長 坂本明美さん
プロフィール
出身地:北海道札幌市
活動地域:北海道札幌市
経歴:大学卒業後は商社へ就職。教える仕事がしたいと予備校へ転職し15年間講師を務める。予備校での指導に限界を感じる中、難関大学へ合格した教え子がホームレスになったことがきっかけとなり一念発起。子どもたちが「一生使える国語力」を身につけることをモットーに2010年国語専門塾みがくを開校。
現在の職業及び活動:国語専門塾みがくを6校運営、2019年4月から幼児向け教室も開講予定。
座右の銘:「雲外蒼天」(雲の上には明るく青い空が広がっている。どんなことがあっても、信じて乗り越えれば明るい展望が開かれる。)
幼少期からの言葉遊びと子供の親へアプローチしたい
Q:どのような夢やビジョンをお持ちですか?
坂本明美さん(以下坂本):教室を増やしたいという思いではなく、現在通う"みがく生(塾の生徒さん)“が通いやすいように地域に教室を増やしてきました。4月からは新さっぽろ校で幼児向け読み聞かせ講座を開校します。小学校1年生から社会人まで対象にしていましたが、年齢層を下げてもう少し早い時期から言葉に触れてもらい、『日本語で遊ぼう』というNHKの番組のイメージで遊びながら、講師の観点で読み聞かせを行います。私たちの中でも挑戦したかったことで、新さっぽろ校がモデル校として成功したら年齢を下げて教えていきたいです。
子供だけでなくゆくゆくは親御さん向けの講座もやりたいと考えています。国語は日常のお母さん、お父さんとの会話や普段から何を感じているか、どう感じるかをやり取りの中で意識させることが大事です。国語力が伸び悩んでいる子の何割かは、ご両親の言葉遣いが影響している場合もあります。普段の会話の中で、いつもどこか言葉足らずだったり、汚い言葉や命令口調を多用していたり。子供たちがいつも触れている日常の言葉や環境の影響は思った以上に大きいものです。
「一生使える国語力」はコミュニケーション能力
Q:信念や大事にしている考え方、指針はどんなことですか?
坂本:長い人生の中で国語は大人になってコミュニケーション能力に変わるだけで社会人になっても使う力です。人の話を聞く、要点を押さえて話すなど、国語と意識していないだけで仕事や日常で必要な力です。「一生使える国語力」というテーマで塾を立ち上げました。
国語は書く力、語彙力、読解力、いろんな力が必要で時間がかかります。個別対応の中でやらないと、集団授業でただドリルを解くだけでは情報処理力は鍛えられても、本当の意味での国語力はつきません。
予備校の講師時代は点をとらせることが目的で、問題文なんて読む時間が無駄だとテクニックばかり教えていました。国語だけに特化して教える時に過去と同じ過ちは犯したくないと誓いを立て、テストの点数を上げることだけを望まれているお母様には入塾をお断りさせていただいています。賛同してくださる生徒のお母様から紹介されて入るお子さんは長く続けてくれる傾向にあります。
文章は他者を意識した“思いやり”がキーワード
Q:みがく塾での活動内容、指導内容はどのようなものでしょうか?
坂本:人気学習に五感学習というものがあります。例えば作文も「海に行きました。楽しかったです。」と誰でも書ける文章に、「ザザー」と波の音が聴こえてきましたとか、潮の香りが「ぷーん」と匂ってきましたと視覚情報だけではなく五感で感じたことを一言入れるだけでも臨場感があり伝わります。人の会話や声でもいいですし、五感全部を使って観察して体験文を書かせます。国語をはなれても観察力、表現力に繋がりますし、ただドリルを解くだけでなく生活の中で考え方にも入り込む指導をしたいです。
小学校1年生から主観、客観という考え方を教えています。子供たちは主観が多くなりがちです。逆に理系の子は客観データのみで人となりが伝わらない文章になります。すべて文章は主観と客観で成り立っていて、“あらすじ文“は客観でないと書けませんが、“感想文”はあらすじの客観を少し書いて私はこう思ったと感想を書かないといけない。“エッセイ”だと主観をメインに書こうとなります。
子供は一面で考えがちですが裏側の視点も必要で、自分はこう思うけど、それが嫌いな人もいるかもしれないよ、反対の意見も考えてみようと提案します。いきなり反論ではなく、例えば「みかんが酸っぱくて嫌い」な人に「確かにみかんの収穫時期によっては酸っぱいかもしれない。でも最近は甘いみかんの選び方も出回っていて」と反論するなどです。反対意見が浮かばない子もいますが、それはすごく危険なことで、どんな風に書いたらわかりやすく伝わるか、どんな気持ちで読むんだろう、相手が傷つかないかどうかと他者を意識させます。文章作文は“思いやり”ということをキーワードに教えています。
教科書に限らず普段の会話や日常に溶け込んでるものが題材になります。興味を持てるように身近な校歌の歌詞に線を引いて言葉を調べたり、ジャニーズグループ嵐の歌詞を古文訳して、古文訳したものを教材にしたりします。ドラえもんの道具一覧表を出してどれが好きかを選び、なぜその道具を選んだかをプレゼンの材料したりと漫画やアニメも題材になります。
また国語の枠を超えて1人実験をやったりします。しっかり手順を読んで自分で必要な道具を準備して、手順道理にやることが意外とできないんですよ。理科みたいですけど、予測をたててどうなるかを事前に書かせて、やってみて、やった後の結果(客観)とどう思ったか(主観)を書かせます。実験レポートを書こうという授業ですが、国語力が伸びれば読解力がつき他の教科にも影響があります。
国語だけではなく歴史や数学とのコラボも考えていてます。すべての教科はつながっているので融合の意識です。教材は年間20~30個は新しいものが生まれますが、ふっと思いつくヒントを見過ごさないようにしています。
受験テクニックを教える国語は受験マシーンをつくるだけと気づいた
Q:国語専門塾を始めようと思ったきっかけは?
坂本:予備校や学習塾で15年講師をしていましたが、2年間手塩にかけて教えた子が偏差値40位から超難関大学に合格して大手メーカーに就職しました。それは嬉しくて自慢の子でしたが、卒業生伝いにその子がホームレスをしていることを聞いて、なんだったんだろうと。何を教えていたんだろうという気持ちになりました。もともとコミュニケーション能力に難があった子で友達もいなくて、そういう芽がありました。私には懐いてくれて指導した時間は長かったのに、そんなことしか教えられなかったんだと。口の利き方や相手が傷つくよとか、根本的なことを全然教えないまま受験テクニックだけを教えるのでは受験マシーンをつくるだけだと気づきました。
解答テクニックに終始した指導に疑問を感じてはいました。子供たちの大切な目標を手伝う意味では意味がなかったわけではないけど、多感な時期の子供たちに教えれる立場ならもっと実のあることを教えたいと思いました。
札幌には国語専門の塾がなかったので自分で作ろうと思いました。最初はチラシを一度だけ撒いて、そこから数人来てくれた子をじっくり教えました。2年目から1校ずつ増やし3年目以降は募集をしなくても紹介などで来てくれるようになりました。
言葉で自分の世界が成り立っている、言葉の力を母が教えてくれた
Q:国語の講師をするようになった背景はどのようなことがありますか?
坂本:もともと教師になりたいとかはなく、純粋に国語が好きでした。古典が好きで古典の良さを知ってもらいたいと思い、大学生の頃は家庭教師と塾の講師をしていました。卒業してすぐ一般商社に就職し3年務めたましたが、やはり教えることが好きだなと思い、自信をつけるために1年間でドリル100冊を解き、古典辞書を覚えて予備校の講師になりました。
子供の頃は、クリスマスプレゼントは本以外のものはなかったというくらい本が好きでした。母親が変わっている人で、お母さんと掛け合いをしようと『ごんぎつね』を2人で遊びながら読み、母親は感情移入しながら涙を流し読んでくれていました。だから本ってすごいなと、本で世界が広がります。物を考えるときは言葉で考えますよね。言葉で自分の世界が成り立っています。語彙力が少ないと無限にある道を言葉が足りないだけで選ぶ選択肢が狭まります。日常生活でそんなに無くてもいいんですよ。ただたくさん言葉があると微妙な曖昧なところも考えられる。言葉の語彙で決まっていると思います。言葉の力は母親が教えてくれました。だからたくさんの言葉を知っているといいよと教えます。
言葉だけ知っていればいいものではないけれど、そこに込められている気持ちがわからないと、想像力が貧困で物語が読めません。「うつむいた」という言葉に悲しいのかなと想像しますが、それを国語教師が子供に教えるのが難しいんです。本を読むとそういった色々な表現に触れられます。
社会に出てからどういう大人になってほしかというと、バランスよく感情も理論も豊かであること。感受性があるけど思考力がたりない子は感情はほめて「こんな表現があるよ」とか、固くて感情わからない男の子には、「何かあるよ、どう思った?」と聞いてみます。発展させてこれ以外の言葉もあるよ、こういう表現、熟語があるよといろんな言葉を教えています。
記者:坂本さんがお母様の読み聞かせで本の虜になったことは、現在の講師活動に大きな影響を与えていると感じます。数年で塾は6校に増え入塾待ちのお子さんもいるとのことですが、本離れやゲーム等で人との交流が少なくなっている今の時代だからこそ、必要な力をつけさせたいという親御さんのニーズも多いのかなと感じました。坂本さんありがとうございました。
みがく塾長 坂本さんのブログはこちら→
平成31年4月開講 『国語力を伸ばす~幼児のための読み聞かせ教室』ご案内はこちら ※新さっぽろ校→
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編集後記:今回インタビューを担当した岸川と菊地です。坂本さんの子どもたちに身になることを教えたい思いや、教えることの楽しさが伝わってきました。私も子供の頃は国語と日常生活は切り離して学んでいた感覚でしたが、お話を伺って繋がっていたのだと気づきます。「子供の頃にこんな塾に通いたかった!」というのが率直な感想です。大人でも気づきや学びになるお話、まさにやられてることは"人づくり"。今後のご活躍も楽しみにしております。
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この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。