陰謀論とは何だろうか
アメリカ大統領選では、陰謀論が広がりました。「民主党は小児性愛や悪魔崇拝の巣窟だ」「中国や共産主義の脅威が迫っている」「マスメディアは嘘ばかり」「イルミナティによって人類は奴隷化される」「コロナもディープステートによる民衆支配の手段」といった、さまざまな言葉や映像が出回りました。真偽ないまぜの情報が、新型コロナによる不安にとらわれた人たちに向けて組織的に拡散され、集団洗脳による内乱が企てられましたが、失敗に終わりました。(今なお、その物語の中にいる方たちもいますが)
今回、広まった陰謀論は、大別して4種類くらいあったと思います。
①アメリカは、フリーメーソンやイルミナティといった秘密結社とユダヤ金融資本からなるディープステート(闇の政府)に支配されている。民主党のバイデンはその一味である。
②民主党やハリウッドのセレブは幼児性愛者の巣窟であり、人身売買を行ってきた。彼らは親中派で危険であり、世界征服を企んでおり、不正選挙を隠してきた。
③イルミナティは実は宇宙から来た爬虫類人(レプティリアン)だ。
①は昔から言われてきたことで、そんなに間違いではないでしょう。フリーメーソンのような秘密結社は実在しますし、アメリカでも日本でも世界でも、富や権力が一部の人や企業に集中し、支配層が政治や経済をほぼコントロールしているというのは事実です。もちろん、これは良いことではないでしょう。
②は今回Qアノンらが拡散した情報で、③はデビッド・アイクというイギリスの陰謀論者が言い出した説です。②も③も、①を前提にして膨らませた物語です。
アメリカでは、昔から陰謀論が盛んでした。アメリカを建国したイギリスからの移民にはフリーメーソンが多く、初代大統領のジョージ・ワシントンもメーソンでした。近代フリーメーソンは18世紀にロンドンで生まれた親睦組織で、建国しましたが、建国には、建国の父祖たちの系譜を継ぐWASP(White Anglo-Saxon Protestant)やユダヤ系金融資本のエスタブリッシュメント勢力と、石油や鉄鋼など実業で財を成した地方の地域資本勢力があり、両者は昔から争い続けてきました。これはどこでも起きうることですが、少数のエリートが物事を決めていると、その外側にいる人達は疎外感を感じ、疑心暗鬼になりますよね。田舎者である地域資本の人たちはエスタブリッシュメントを妬み、昔からフリーメーソンやユダヤの陰謀の物語を広めてきましたが、今回その新バージョンがネットで繰り返されました。ちなみに不動産で儲けたトランプも新興の地域資本勢力です。こうした反エスタブリッシュメントの地域資本勢力が、終末論を信奉するキリスト教右派や右翼カルト宗教団体(統一教会や法輪功、幸福の科学など)と一緒になって、エスタブリッシュメントを攻撃し権力を奪おうとしたわけです。古くからの二大勢力の対立にすぎないのに、情報がSNSで拡散されたことで、世界中の多くの人が罠に引っかかってしまいました。特に、極端な世界観を持つ宗教勢力が関わったことで、光と闇の戦いという単純な二元論が幅をきかせ、反共とかサタンとか誤ったレッテル貼りや印象操作が広がってしまいました。(イラク戦争で共和党ブッシュ政権はサダム・フセインをサタンとみなし、第二次大戦で日本人はアメリカ人を鬼畜と呼んだことを想起しましょう)
もちろん、富や権力の集中に多くの人が疑問の目を向けたこと自体は良いことでした。そういう意味で、恵まれたエリートのエスタブリッシュメント にも反省すべき点が多々あります。しかし彼らは悪魔ではない、普通の人間です。彼らが大きな顔をする時代はいずれは終わるべきでしょうが、カルト右翼がそれに取ってかわるのでは状況はさらに悪くなるだけであり、私たち民衆の側にも準備が必要です。そして、実はこれまでアメリカでの富や権力の極端な集中について疑問の声を上げ、もう一つの社会を提案してきたのは、億万長者のトランプではなく、多くの草の根の市民たちであり、先住民を含む彼らと連携してきた民主党のバーニー・サンダース(社会主義者を自任し、大統領候補をバイデンに譲った)などの勢力だったのです。しかし人々の不満のエネルギーは、政治的な思惑に基づいた膨大な情報発信によって、トランプが救世主という話にすり替えられてしまいました。
ここで、アメリカが移民の国であることを思い出しましょう。エスタブリッシュメントも地域資本勢力もどちらも、先住民(インディアン)が「亀の島」と呼んできた大地を侵略した新参者で、彼らはそこに勝手に「アメリカ合衆国」の建国を宣言したわけです。
ローリング・サンダーというアメリカ先住民のメディスンマン(シャーマン)は、「国家というのは大地の上に敷かれたカーペットだ」と語っています(北山耕平「ネイティブ・アメリカンとネイティブ・ジャパニーズ」より)。そのカーペットの上に、ホワイトハウスはじめ政治のシステムと、資本主義の経済システムが築き上げられました。このカーペットは、宇宙人アミが指摘したような、自他の分離と競争の世界。今回のできごとは、実はこのカーペットの上での二大勢力による権謀術数を尽くした利権争いにすぎません。環境破壊や貧困や戦争をなくすには、国家とか所有とかこのカーペット自体のあり方を変える必要があります。それがアミが伝えようとしてきたことですし、ジョン・レノンが「イマジン」で歌ったことでもあります。
私たち人類が抱える本質的な課題は、母なる自然からの分離と、国家や経済システムという持続不可能なカーペットへの依存です。そうしたカーペットは所詮は共同幻想ですが、終末論や陰謀論や極右思想(国家主義)という、さらにこじれた共同幻想のタコ壷にはまることは何の解決にもなりません。
アメリカ先住民・ホピ族に、予言の岩絵が伝えられています。彼らは、大地や生命と共生する平和と調和の道に立ち戻らなければ、人類は滅びに向かうだろうといいます。「ホピ」とは「平和」という意味。本当の意識変革、アセンションとは、救世主やリーダーの登場を待つのではなく、私たち一人一人が人間界のカーペット上のゲームに没入することなく、その下にある、この惑星の大地や自然とつながり直し、すべての生命と共に生きる文明へのシフトを成し遂げることでしょう。
いかに私たちが操られやすいか。どこに立ち返り、何を大切にすべきなのか。今回のことは私たちにとって、大きな学びの機会だったと思います。
(さらに日本のカーペットにも触れたかったですが、また次回にさせていただきます。)
長文をお読みいただき、ありがとうございます。
陰謀論はもうたくさん、と書いたのは、いろいろな陰謀論の内容そのものは食傷気味だということです。同じパターンの繰り返しだし。そうした内容そのものを見るより、そうした陰謀論が生まれる力学や背景を俯瞰して見ていきたいと思っています。
アメリカ学の越智道雄さんは、こう書いています。
『「秘密結社」は現実的な世界戦略を立てるエリート層の組織であり、「陰謀史観」はエリート層から疎外された民衆や知識人の一部が劣等感を乗り越える手段として開発した幻想的な世界戦略。幻想的だから現実的な問題解決には邪魔にこそなれ、何ら貢献しない』
フリーメイソンやCFRのようなエリート層の秘密結社が存在するのは事実で、それは外側からは世界を支配する良からぬ企みに見えてしまい、そこから陰謀論が生まれます。特にアメリカは中世までの伝統がないので、仮想の伝統によりどころを求めてしまい、秘密結社をつくったり、それに対して陰謀論の妄想をふくらませたりしてしまいがちなのだと思います。