『並行食堂』ネタバレ感想備忘録
※本作の核心に触れる内容について話しています。ネタバレ有です。閲覧は自己責任でお願いします。なお、今月末まで配信あるので、是非に……
https://note.com/contronica/n/nc0f0b90c4304?sub_rt=share_pw
観に行きましたよ。そして、観に行けて本当に良かったと心の底から思った。
以前、『笑の大学』を観に行ったときに感想文を書いたが、実にそれ以来となる舞台鑑賞だった。でもこれを機に、舞台ももっと行って見たいなと思えた。
物語は「並行世界」をテーマにした、六人の出演者による九本のコントのフルコース。日常会話の中の屁理屈にも似た疑問、言葉遊び、想像の斜め上をいき戻ってこれなくなるようなシュールな世界観、ささやかに切ない爪痕を残すラスト。ステージ上にはいない小林賢太郎の存在感が、確かにあった。いや、実際にいらっしゃったけど。前説とカーテンコールでノリノリで登場していたけど。毎度毎度思うけど、素敵な声と笑い方をされる人ですね。言葉選びも素晴らしくて。
以下、感想。
普段我々が生きる世界とは別の、並行世界。パラレルワールドともいう。最近の洋画界だとマルチバースとも。そこでは、私たちの常識は通じないのかもしれない。私たちが食べられないものでも食卓に乗っているかもしれない。知っていると思ったメニューでも、違った味で違った食べ方をするのかもしれない。実際、名前だけじゃ想像もつかない未知の食べ物があったりするじゃないか。カクテルの名前とか、異国のおしゃれな料理とか。
それでもたしかに、私たちとは別の生き方をする彼らにも喜怒哀楽があって、憧れがある。働いて、疲れて、お腹が空いて、食事をとる。朝と夜を繰り返して生活している。そんなところは似ているよな、と共感する。
あるいは。この地球上で起きていることも並行世界と似ているのかもしれない。思いもよらぬ動物を食べる国がある。似通っているのにまったく違うものを指す言葉がある。同じ24時間でもみんながそれぞれの時を過ごしている。一生かけても会えない相手の方が多いんじゃないか。行けない街の方が多いんじゃないか。読めない本の方が多いんじゃないか。……こんなふうに思いを馳せても、その相手には何も干渉できないのだ。
九本目のコントはとある並行世界のレストランにたどり着いた男(演・竹井亮介)とウェイター(演・加藤啓)との会話をメインに展開する。男は自由に並行世界を行き来できる身。それを聞いたウェイターは少しさみしそうに羨ましがるのだ。
このさみしさには既視感があった。なんだろうな、と考えていたけど遠い昔の思い出だった。
家族と旅行に行った日。たまたま泊った旅館の近くで祭りがおこなわれて、浴衣や法被の人たちでごった返していた。コミュ力の高い母は、上機嫌の地元のおじさんと打ち解け、どういう祭りなのか尋ねていた。そんなようすを見て、ふと胸が締め付けられた。
幼少期に引っ越し、そのまま十年ほど過ごした街には二年に一度大規模な祭りがあって、山車を曳いたり神輿や榊をかついでねり歩いたりした。神輿を先導する子どもたちは提灯を提げ笛を吹き、山車の上には真っ白に化粧した子どもたちが座っている。子どもたちはみんな小学校でのクラスメイトだった。いつもと違う雰囲気の佇まいに圧倒され、そして何とも言えない疎外感を覚えた。
私が去った後も、人たちはあの街の中で生き続けるし、あの日が来れば祭りを開くのだろう。反対に私はどれだけ歓迎されようと、どれだけ熱狂の中で笑っていようと、ずっとよそ者のままなのだ。旅行で行ったあの街にも、幼少期を過ごしたあの街にも、これと言って愛着のようなものはない。それなのに、出て行かねばと思うとさみしくなる。
えーと。なんの話だっけ。そうそう、そういう感じのさみしさの話。最後のコントで受けとった感情が、そういう類のさみしさを思い出させてくれました。もうすぐこの時間が終わっちゃうんだなという実感も手伝って。伝われ。伝わってくれ。あと、初めて「残る側」「どこにも行けない側」の気持ちってどんな感じだろうとも考えた。一瞬交錯した時間、よそ者の私たちを見てあの人たちは何を感じたんだろうね。
だけどそのさみしさを埋め合わせて溢れさせるほど、満足度のあるステージだった。笑って笑って、ひたすら笑い続けて、気持ちの上では満腹になっていた。劇場を出て帰り道を歩きながら、面白かったなあとあれこれ反芻して、ふとお腹が空いていることに気付きました。生きることってやっぱ食べることで、どの世界を生きる人も、「食事」にその人らしさが出るのかなって思ったりして。
以上、感想でした。あ、これだけ言わせて。個人的にめちゃくちゃ共感したのは「ベンザブロック」の話で、一番爆笑したのは「モクギョ」です。
執筆BGM
※これはTwitterに載せた感想文のようならくがきのような。タップ推奨です。
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