運命の赤い糸を繋ぎとめて。『時計じかけの摩天楼』感想

 ※この文章は『劇場版名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』のネタバレを含みます。本編鑑賞後の閲覧を推奨します。
 
 『名探偵コナン』にハマり始めた小学生の頃、やけに親が厳しくて漫画もゲームも買ってもらえない、テレビも勝手に見ちゃいけない、という状態だったので新聞記事や広告にコナンが出てきたらそこを切り取ってスクラップブックに保存していた。番組欄に『コナン』と書かれた場合も同様で、見ることもかなわないのにアニマックスと日テレ系の番組表を律儀にチョキチョキ切り出して、それだけで満足していたのだ。いやもっと行動力を見せろよ当時の自分。録画して後で見るとかさ。ちなみにこの厳しいルールは年々緩和されたため、弟妹らは普通にあの頃の私と同じ年で漫画を買ったりアニメを見たりしていた。
 閑話休題。『時計じかけの摩天楼』見ました!
 原点にして推理、アクション、ロマンス、主人公工藤新一の誕生日、ホームズがライヘンバッハから落ちた日、すべての要素がぎゅっと詰め込まれている。勿論派手な爆発もね。当時はこんなに劇場版がシリーズ化するとは思わなかったんだろうな、熱量の高さがすごい。

ポスターについて


https://www.themoviedb.org/movie/21422-meitantei-conan-tokei-jikake-no-matenrou?language=ja-JP  より

 登場人物が少ない……歴史を感じるよな。お祭りみたいなものだからだろうか、少年探偵団の表情が明るい。そういや今年とかメイン、ティザーともにぎゅうぎゅう詰めだったもんな。なお、本編の登場人物のうち、コナン、蘭、小五郎、園子、元太、光彦、歩美は一作目から登場し続けてて皆勤賞なんですって。

オープニング


 シンプルで王道! って感じがする。イントロで繰り返すあのメロディを繰り返さないのが特徴的。明るくてリズムがしっかり刻まれている印象。2番? に入る所のタメが好き。
 この自己紹介のシーン、新一もコナンも声が高いなぁ……。あと、本編では新一の声で事件を解決したのは、ここで道具説明も兼ねて『眠りの小五郎』をしているからかな。麻酔銃は一回しか使えないというメタな意味合いで。腕時計型麻酔銃と蝶ネクタイ型変声機、登場しなかった回、逆にあったっけ? ってぐらい使用頻度高い。


好きな場面


 まずは何よりも犯人、森谷帝二が否定した「愛の力」が、結果として多くの命を救ったことが好き。「新一との赤い糸を切りたくない」という純粋な愛から来る発想が浮かばなかった犯人の誤算というのもすごく美しいまとまり方している。ただ、森谷が愛に言及したシーンが、小五郎が爆弾の仕掛けられている場所に蘭がいることを知って衝撃を受けているシーンだから、「家族愛」という意味合いもあるのだろうか。
 小五郎と言えば中盤、コナンが無茶した時の圧倒的保護者感も良かった。コナンを心配して𠮟りつけるところは本当の親子みたいだと思ってしまった。新一(コナン)にとって血のつながった両親である工藤優作、有希子夫妻はある意味憧れの対象で、譲り受けた才は沢山あるけど、実は小五郎の方が感性は似ているのがいいよな。
 さらには挿入歌『キミがいれば』と、仕事をする名もなき大人たち。爆弾から逃れられてほっとする駅の職員たち、刑事たちが爆弾を探す場面、丁寧に書かれていて、モブなのに共感してしまう。この映画は前述した小五郎や、目暮警部などかっこよくて頼もしい大人の描写が多くて、見るたびにぐっとくる。

青山原画

 「ハッピーバースデー、新一」。クライマックス、コナンと蘭が扉越しに電話する場面で使われていましたね。「ハッピー」というより「ハッピィ」みたいな言い方(伝われ)可愛いよなあ。爆弾解除するときの新一の声に温かさ、優しさがあって安心する。緊急事態で自分も蘭も命を落とすという危険があるときに、相手を落ち着かせようとするあの無敵ボイスよ。本当は心配も不安も、何よりも死なせたくないという思いがあって、だからこそこの後の会話が途切れた時に痛々しいぐらいに叫ぶわけだけど、それを感じさせない温かさがかっこいいなと思う。かっこつけキャラなのに。かっこいいからオールオッケーなんだけど。新一って好きな女の子を助けられないときの答えが「死ぬときは一緒」なのほんといいよな。この答え、蘭がピンチになった『ベイカー街の亡霊』や『絶海の探偵』と対比すると胸に来るものがある。

主題歌

杏子『Happy Birthday』  

にぎやかなこの街の空に 思いきりはりあげた声は

どこか遠くの街にいる あの人への Happy Birthday

 作詞作曲、スガシカオなんだ!? 意外。蘭が新一に直接会うことはできなかったけど、幸せそうなのがまたいいよね。この作品を通して流れる甘酸っぱさ、爽やかさを表現していて好き。オチで新一と蘭が赤い糸で結ばれているのに、コナンには赤い糸が繋がっていなかったのも、元の姿に戻って蘭のもとに帰ることに意味があるんだなと思わされる。小さくなった姿ではなく「工藤新一」として愛されたい、「工藤新一」を諦めたくないというメッセージにも思える。

原作とのリンク

 白鳥警部、劇場版からの逆輸入だそうですね。もしかして高木刑事よりも登場が早い? ここから本編で佐藤さんにアタックしまくったり、小林先生とラブコメしたりするんだと思うと感慨深い。一見怪しそうに見えて、真犯人発覚した後は小物感出るのが可愛いというか、人間臭いというか。ここから劇場版常連になっていくんだよな~。

その他気づいたことなど

  •  前半で工藤夫妻がスイスにいるということが言及されている。やはりライヘンバッハの滝にちなんでだろうか。ちなみに米花市にはライヘンバッハをもじった『来葉峠』がありましたね。赤井秀一が死を偽装する回。後になって「ああそっかぁーーー!」って感動した思い出。ちなみにちなみに、今年度(2023年度)のコナンプラザのジンの衣装がモリアーティ教授モチーフになってるみたいでかっこよかったな。

  •  あと、劇場版おなじみのクイズコーナー、まさかの森谷帝二出題なのびっくりした。阿笠博士が出題するのは3作目から(ちなみに2作目は光彦)。

  •  蘭が新一と観に行く予定の映画、出演者の名前が高山みなみさんと山崎和佳奈さんをもじったものになっていているのが面白い。どんな映画なんだろう? 車のナンバーとか、ゲストキャラの名前とか、時々こういう小ネタ挟んでくるの面白い。

  •  前述のとおり、小五郎に対して愛の力を否定した森谷だが、火災で失った彼の両親は、事故死ではなくもしかして森谷自身が何か一枚噛んでいるのではないかという考察を定期的に掲示板などで見かける。本編中には描写されていないが、そういう考察に妙な説得力が出てしまうのも彼の魅力のひとつなのだろう。

おわりに

 今より登場人物が少ない頃で、技術も今ほど進歩していない頃の物語だが、いつ観ても色褪せない、魅力的で憧れる要素が盛り込まれた感動作だった。ここから歴史が刻まれていったのかと思うと感慨深いものを覚える。
 次回は『14番目の標的』、そして先日応援上映に行った『黒鉄の魚影』の感想文をお届けします!お楽しみに!


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