
【佐渡島庸平さんインタビュー】克服よりも、それを伸ばす方が生きやすい
10月1日、佐渡島庸平さんにインタビューをさせていただいた。
台風が東京を通っていった翌日。
佐渡島さんの会社、株式会社コルクへ行くのは2回目だった。
【佐渡島庸平氏 プロフィール】2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。現在、漫画作品では『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)、『昼間のパパは光ってる』(羽賀翔一)、小説作品では『マチネの終わりに』(平野啓一郎)の編集に携わっている。コルクラボというオンラインサロンを主宰。
私がなぜ、佐渡島さんにインタビューを依頼したのか。それは「HSC(Highly Sensitive Child)という概念の認知・理解を広め、HSCに多いとされる不登校の子と親にとっての安心材料となる本を出版するクラウドファンディング」への挑戦に際し、その安心材料やコミュニティについてお考えを伺いたいと思ったから。
株式会社コルクは、作家やクリエイターのマネジメント会社として2012年に佐渡島庸平さんが立ち上げられた会社で、コルクラボはその佐渡島さんによるコミュニティ。
コルクラボという名前を始めて見たのは昨年の8月のことだった。
Twitterで、コルクラボのメンバーによるプロジェクトと接点が生まれ、その接点をたどっていくと、人生に変化を与えてくれそうな扉があったというかんじ。
がっかりしたくないから期待はしないようにしていたのだけど、いつのまにかゆっくりと不思議な乗り物が動き出し、それに身を委ねていても大丈夫という感覚になっていったように思う。
でも扉はきっと自分で開いた。今年5月、コルクラボのとっちー(栃尾江美さん)が率いる、ポッドキャスト「コルクラボの温度」のゲストとして対談をさせてもらえるという提案をいただいたことで、東京へ行こうと決めて。
株式会社コルクへ行った1回目はこの時。ポッドキャストを、コルクの会議室で収録するため。佐渡島さんと対面したのもこの時が始めてだった。
そして、コルクラボのイベントにも招待していただいた。
ここで味わった一連の体験や感動は、完全に私の心をインスパイアした。
それからもまだ不思議な乗り物に乗っているとしか思えないタイミングで、コルクラボ4期生の募集がすぐに始まった。
そして今年7月、私はコルクラボに入った。
沖縄に住んでいる私がコミュニティに入ることなど考えもしなかった。
今私がこうしてnoteにアカウントをつくって文章を書いているのも、クラウドファンディングに挑戦し、目標に達成することができているのも、信じられないくらいたくさんの人とオンラインでつながっているのも、コルクラボに入ったから。
コミュニティに参加する意味とは
「コミュニティを学ぶコミュニティ」というが、何を学ぶのか?想像がつかなかった。
自分で始めた「HSC子育てラボ」で、ひといちばい敏感で繊細な子を育てるお母さんたち同士がつながって、本当に安全で安心と感じられるコミュニティをつくりたいと思ってきた私は、コルクラボに参加してすぐから、運営会議や定例会、読書会と、オンラインで積極的に参加して、何かを得よう、早く馴染もうと探索していた。
自分でオンライン部という部活を立ち上げたりもした。とにかく何にしても、やることなすことすべてに対し、メンバーからの賛同や応援、感謝が与えられ、距離感はさほど感じなくなり、その居場所が安全で安心で、楽しいと思える場所になっていった。
たとえオンラインでも、コミュニティという一種の内輪感によって、知らない人も他人ではない感覚でスムーズに関われることや、信頼できる居場所ができたことで得られる安心感を、身をもって体験すること自体、参加するひとつの意味だったと知った。
WE ARE LONELY,BUT NOT ALONE.
佐渡島さんが5月に出版された著書「WE ARE LONELY,BUT NOT ALONE.」を読んだのは、そのような一連の体験や感動を味わってからだった。
先に内部に潜り込んで実地で体感したことの根拠がどんどん明らかになっていって、面白くて、一気に読んだ。
そこに書いてある、コミュニティをつくる意味や、機能のさせ方、設計、大事にされていること、どれも、これからの自分に関係あることで、ぼんやり思い描いていたことを実現できるかもしれないという希望が強められていった。
夫にも深く刺さるところがあったようで、次のような感想を述べていた。
「『組織や社会の型に自分を合わせて生きているマジョリティの人たち優位の世界の中で、インターネットは、すべての関係をフラットにし、マイノリティの人たちに今まで出会えなかった人とのつながりを可能にさせてくれた』という内容の言葉が胸に響いて涙が溢れ出した。
組織や社会の、まさにマジョリティの人たち優位の世界の中でボロボロになって、つながりなど、そんなもの概念にすらなかった。しかし心は違っていた。本当はつながりたいと思える人とつながって、深く理解し合える会話ができたらいい。そんな気持ちが溢れ出したのだと思う」
世の中にはやさしいつながりがあることを感じ希望の光が見えたと言っていたことが、私も嬉しかった。
募る思い
私は、カウンセラーという仕事と並行して、HSC(Highly Sensitive Child=とても敏感で繊細な子)という概念についての発信をしてきた。特に「学校に行きたくない」という不登校の一因として、HSCの気質と学校のような環境との相性を知って判断すること、それと同時に、当事者ではない、周りの方々にも、HSCの敏感さやものの感じ方、その深さがどのようなものなのか、知ってもらいたいという思いを。
特別なケアをしてほしいとか、そのようなことではなく、「知る」・・・たったそれだけのことで、否定的評価や無理強いをする必要がないことに気づけたりするから。
そして、その他にニーズがあるとしても、概念にないことには、誰だって耳を傾けにくいし、警戒すらしてしまうから。
レッテル貼りとかカテゴライズとか、マイナスの要素があったとしても、私は、“太刀打ちできない『普通』という圧力”で人知れず強い恐怖を抱いている子の存在と、その子に寄り添ってあげたいと思いながらも、子育てを否定されたり、みんなと同じようにできる子に育てなければ将来が…と葛藤するお母さん方と関わってきて、まずは「HSC」という言葉が広まるだけでもいい。知ってもらいたいという思いが募って、執筆してきた原稿をもとに、それを本にしたいと思い始めた。
ただ、「WE ARE LONELY,BUT NOT ALONE.」を読んでいた私は、自費出版にしても企画出版にしても、制作段階から活動を知ってもらうこと、一緒に共創する仲間の存在が必要なことも頭にあった。
覚悟
コルクラボ内でいろんな人に相談するうちに、取材活動をしてみること、noteで公開編集すること、クラウドファンディングを展開することなど、意見をもらった。
決心するまでは時間とかなりの覚悟を要したが、もう前に進むしかない。
そうして、4か月ぶりの東京へ。2週間滞在して、活動することにした。
取材
どうして佐渡島さんに取材をお願いしたのか。
ひとことで言えば、自分が本当に良いと思ったコルクラボをつくった方だからではないだろうか。
HSCの子育てや、不登校の場合に、『安心材料』となる、安全で安心な居場所のひとつにコミュニティがあるのではないかと思っていたから、その可能性についてお伺いしたかったのだ。
何かを克服するよりも、それを伸ばすことの方が生きやすい
そして、佐渡島さんへのインタビューが叶った。
kokokaku:行き渋りや不登校の子にはHSCの気質が一因になっていることがあります。みんなではないですけど、多数になるとうまく会話ができず固まってしまうとか、からかわれやすいとか、ひとりでいることが好きなのにそれを心配されたりして自己否定感が身についたりという子もいます。大人になっても、そうしないといけないという克服への促しが未だに続いていて、生きづらさのひとつになっているとも感じています。
佐渡島さん:今までは、コミュニティの中でポジションを得ない限り、仕事が得られなかったんだよね。学校とか、小さい時って、コミュニティの中でポジションを見つけないといけないわけで。生きる場所を探すのに。
例えば LGBTの場合、コミュニティの中で居場所がないから、だから早く大人になりたいという理由で芸能界に入るとか。それはその中に居場所があるから。
だからマイノリティにとっては、学校生活というのはとても苦しい時期で、社会になるとギリギリ自分たちの居場所が用意されているという感じだったんだよね。
一方で集団が苦手とかというだけだと、社会に出たとしても自分の仲間を見つけるのが難しいんだよね。ゲイはゲイで集まれるけど、一人でいたい人は一人でいたい人と集まったら、それはもうその時点で希望が叶えられない。だからそういう人は、ほぼほぼ仕事が得られないということになる。
仕事をするということはコミュニティに合わせるという行為だったんだよね。
それがネットの中で、いろんなことを我慢しなくて、一人で何かをやってても、みんなが投げ銭みたいな感じで、少なくともどうも生活ができると。それにブログなどを書くことでアフィリエイトで収入を得られるかもしれないというような形で、いかようにでも一人でツールを使って食べれるという時代が来てしまったので。
だからどっちかと言うと、何かを克服するというよりも、それを伸ばすことの方が生きていくということはやりやすい時代がきているということだと思う。
でもその変化自体はほとんどの親の世代が気づいていない。親の世代は結局自分たちが受けた教育の方がいいだろうなと思ってしまうわけだし。
kokokaku:そうですね。克服よりも伸ばす方にシフトした方がずっと楽になれますし、そういった方向性のミュニティというのを私も作りたいです。
佐渡島さん:認知を広めるという行為じゃなくて、ただただそういうことを気にしなくていいぐらい別の何かにのめり込む別のコミュニティに入るとか、そういうことじゃないのかなと思うんだよね。それで成功しているという時に、実はこうだったんだけどこういう風にのめり込んだら変わりました。という話には賛同する人がいると思うんだけど、これをみんなが知ってくれたら生きやすくなるんですという話じゃないと言うか。他人を変えようとする行為はほぼ無理だからね。
どう広めるか
見学の席にいた、同じコルクラボのとっちー(栃尾江美さん)とも次のような会話があった。(コルクラボでは佐渡島さんの取材が見学できる。またタメ語が推奨されている)
とっちー:HSCは5人に1人でしょう?4人に気付かれなくても5人に1人には広めたいじゃない?そのためにはやっぱりすごい広めないと届かないよね。
佐渡島さん:だから広めたいと言った時に、何にどう広めるかだよね。
とっちー:そう。5人に1人の人はそれを知っただけで救われたりするからね。 HSCという概念を知っただけでね。こっちの人(5人のうち4人)はまあ知らなくてもいいかもしれないけど、この人には何とかしてあげたいよね。
kokokaku:私はブログで息子のことを通してHSCについて発信をしてきたんだけど、恐らくこっちの人(5人のうち4人)も結構応援してくれて、すごく励みになってきた経験があるから、この多数派の人にも応援してもらえると、すごく力強いなとは思う。
佐渡島さん:やってる間は満足感が得られるんだけど、それによって10年後世の中が変わったかと言ったら変わってなかったりするからね。しっかり変わるのって、自分達だったりするから。広めたいって言った時に対象があやふやなものは広まらないよね。
LGBTの人たちっていうのは、差別を受けていたから、概念として先に知られていたわけで、差別をなくすためにはその概念を広める必要があるんだけど、今個々人で別々だというのはわかっているから、新たな概念を生み出しても、対応策として本当にうまくいくのかなという気がする。それよりも、個人の差を尊重しながら生きていく社会にするっていうことを加速させると。インターネットビジネスをやってる人たちはほとんどそういう思いでやってるわけだから。
kokokaku:実は以前私はHSCという言葉を表に出すのは最初すごく抵抗があったんですよね。偏見を持たれるのかなって。
佐渡島さん:概念をつくるということは、その概念を正しく理解しない人による偏見を生み出すということをやるから、本当の解決策というのはそれなのかなという気はしてて。
もっと社会全体にインパクトを与える、自分が望んでる社会のつくり方ってあるんじゃないのかなと思ったけど。
「社会全体にインパクトを与える社会のつくり方・・・」それはこれからの重要な課題になりそうだ。
シンプルな生き方に帰っていく
kokokaku:ミュニティを実際やってみて、例えばそこで何かにのめり込むといった体験から子どもたちがどうなるのかと言う結果が出てくると説得力があるということですね。今その、まさに佐渡島さんが手掛けてこられた漫画とか、そういうクリエイティブな活動の一つ一つが生活に繋がればすごくいいなと思うんですよね。
佐渡島さん:コミュニケーションというのは、目の前にいる人をどれだけ喜ばせるかなんだよね。
それが長けてると、いかようにも生きていけるし、それが長けてないと困るということは HSCでも HSC じゃなくても一緒だと思う。
kokokaku:そうですね。学校に行かない選択の課題として、子どもさんの勉強、社会性、将来などが挙げられますが、一人や少数でいることに対しての劣等感とか自己否定がなければ、フリーランスとか、そちらを選ぼうという感覚ですよね。
シンプルですね。
佐渡島さん:シンプルな方がいいと思います(笑)。コミュニティの中の変なルールがいっぱい決まっててその一個一個意味がよく分かんないから抵抗感があるんだと思うので、シンプルな生き方に帰っていった方が、そういう納得いかない人はいんだろうなと思うんだよね。
オンラインコミュニケーションに慣れるということ
kokokaku:コルクラボでは、オンラインとオフラインの活動両方があって、私はオンラインばかりでもけっこう満足しているのですが、こうして東京にきてみんなに会うと、やっぱりオフラインでリアルだと全く違う、かけがえのないものがあるんですよね。
自分がつくりたいコミュニティでもちろんそれができれば良いんですけど、基本私はオンラインで、どんな僻地に住んでいても、希望さえあればそこに入って居場所をつくれるというかたちでやっていきたくて。
佐渡島さんは、オンラインだけというコミュニティについてはどう思われますか?
佐渡島さん:世の中そうなっていくと思うよ。まずはオンラインになっていって、オフラインでは一部の、本当に親密な人としか会わないというふうになっていくだろうから。
でもツールが、今はまだすごく不便だから。Zoomでもハウリングしたらすごくストレスに感じるわけだし、オフラインだったら、喋るときに携帯触らない人が、パソコンでオンラインで喋っている時にずっと携帯を触っていて、深い話までいききれないな、ということが起きやすくなったりするじゃない。
オンラインコミュニケーションに全員が慣れていないから。でも10年後20年後に、全部がオンラインコミュニケーションの時代がくるから。そこにどうやって早く慣れておくかというのが、僕らの世代にとっては、若々しくあるために重要だと思うんだよね(笑)。
オンラインコミュニケーションをとる量が減ると情報がすごく遅れてしまうからね。
だから、今からオンラインコミュニケーションで知り合った人でも信頼できるようになると思っておくと、すごく役立つと思うよ。10年もかからないかもしれないけどね。
kokokaku:ツールがもっともっと進化していくわけですね。希望が持てます。そこにどうやって早く慣れておくか・・・。なるほど、慣れておくという視点で考えたら、よりインターネットやコミュニティの価値が感じられますね。
取材・執筆を終えて
「オンラインコミュニケーションで知り合った人でも信頼できるようになる」・・・実はこれはもう体験済みだからこそ、ツールがもっともっと便利になることで、克服よりもそれを伸ばす方へ、生き方をシフトしやすくなるのかもしれないと、改めて思った。
もちろん、世の中、とくに子どもの育ちに関わるお仕事の方にはやはりHSCの存在を認知してほしいし、その活動は大事だと思うので、発信も続ける。
しかしそれ以上に、持って生まれた特性がそのまま認められ、伸ばせる環境を選んで生きることの価値が感じられるコミュニティ。それを実践して出てくる結果が、世の中への波紋を大きく広げる可能性を持つのだと思った。
きっといろんなニーズがある。恐らくそのすべてに対応しようとしても、矛盾や混乱が生じてしまう。その中でコミュニティの核となる部分が抽出され、これからの私が最もエネルギーを注ぐことが何であるか、そこにスポットが当てられたようなインタビューだった。
佐渡島さん、ありがとうございました。
(撮影:栃尾江美さん)
【展開中のクラウドファンディングが12月10日(月)までとなりました】
たくさんのご支援をいただきありがとうございます。おかげさまで目標金額に達し、ネクストゴールに挑戦中です。最後までどうぞよろしくお願いいたします。
いいなと思ったら応援しよう!
