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富士は旅してNYへ
腹に強烈な一撃を受けても、なお立ち続けるボクサー。それが、静岡県の伊豆半島で育った私に焼き付いた富士の雄姿です。
ご存知のように富士山は、どこから眺めるかで、表情を豊かに変えます。私の富士は男性的な台形。その みぞおちに、宝永山と噴火口がドーン。この武骨な姿から、知らず知らずに、生一本の美学を教わった気がします。
25歳で日本を飛び出し、ニューヨークへ。今も、その旅の途上です。
マンハッタン島の南には、ブルックリン橋という、歩いて渡れる名所があります。1.8㌔ほどの散歩の途中、ある地点まで来ると、わくわくしてきます。
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隣のマンハッタン橋と遠くのエンパイアステート・ビルが、見事に重なる地点があるからです。意外なことに、これに気づく人は多くはいません。
その景色を独り楽しみながら、橋と遠い故郷の富士のシルエットを、心の中で重ねている自分に気づく時… 、 思うのです。
富士も旅してニューヨークまで来たのだ、と。
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