【こんな夢を見た】2匹の豚


こんな夢を見た。
扇風機が‘弱’のままゆっくりと首を振っている。体を動かすと直に座っている畳や指先の紙から微量の水分がじわりと放出されるようで、そしてわたしの水分と一体となる。
奥の玄関からカラカラと扉が開く音がする。

「ただいま〜。あっついあっつい、ちょっと水飲ませて」
外気の熱とにぎやかな雰囲気の名残が家内にくっついて、家の中に入ってくる。その名残の粒たちはエントロピーが働いて少しずつ分散されていく。わたしの皮膚に粒たちは弱々しく触れてパチンと破裂する。

家内はわりと大きな足音を立てて台所については、バタンと冷蔵庫を開けて、ガチャガチャとグラスをとる。

「騒がしいなあ。」
大げさにうんざりした声を出すと 本当にうんざりしていたような気になってくる。
「ぷはぁ。今日な、豚こおてきてん。」
家内が、2匹のコブタを買ってきた。

「ブヒブヒブヒブヒ」
手のひらに乗せようと思えばできるほどのサイズ感の2匹たちは紙袋から顔と前足だけを覗かせて、互いに忙しなく動いている。
「お祝いあるやろ、みんな集まるからな、それでな出そうと思ってな。豚 美味しいやろ。」
水を飲んで一息ついている家内は 足元のゴソゴソしたかれらに目を落としながらつぶやく。
「へぇ~。」
とわたしは我ながら間抜けな返事をする。



今日は気温が上がるなと、玄関を一歩出たときに悟り、今さっき履いた靴のまま爪先立ちで玄関の板間を一つ二つのぼり帽子を取る。自転車に乗っても飛ばされないようにひもを縫い付けた自作のキャップ帽だ。何軒かのスーパーを巡り、最後に薬味を買おうといつもの軒先に顔を出すと、店奥のほの暗く光の差さない場所からブヒ ブヒ と誰かがいびきをかいているような音が聞こえてくる。吊られたカゴからまん丸なブタが顔だけを出して、こちらを向いていた。

汗がどっと溢れる。台所にもたれかかった怠い体に力を入れる。「最後にしまうまでが買い物だ」とよく祖母に言われた。



家内はブタを縛っている紐を解くと、2匹はヨチヨチと動き出した。その一匹をつかむと、冷凍庫を開けて、空っぽのよく冷えたスペースにつっこむ。しまわれたブタは行儀よく4本足をお腹の下に引っ込めて目をつむる。

「冷凍しといたほうがええんかな、それとも外出しといた方がええんかな」
と冷凍庫のフタを閉めながら家内はわたしの目を見る。
「ええんちゃう。」
とわたしは答えると、
「どっちの意味で」
と間髪いれずに声が戻って来た。

わたしはこちらに向かってきたもう一匹のブタの頭を撫でていた。



美味しそうな大粒のブドウ。
一粒ちぎって食べるとじゅわりと口の中で栄養が広がる。胃が一滴も残さず吸収を働く。体に力がみなぎっていくのを感じる。ついでに2、3粒をもぎ取って、口に頬張る。
「これブタに食べさせたらどうかな。」
口元へ持っていくとブタはフガフガと飲み込む。
面白くなってブドウをちぎってはブタの口元に運ぶ。

「これ でもウンチするなあ。」
今買ってきたブドウがウンチになるのが残念な気持ちになってゾッとする。消化しないように冷凍庫で眠らせておくのがいいのか、しかしお腹を開いたときにぐじゅぐじゅになったブドウがでてくるのかと考えを巡らす。


という夢を見た、とTに話すと、やばいね。 と言われた。



考察
最近ブタをペットとして飼われている方のYouTubeをTが見つけた。動画ではブタがおしっこをしている様子を撮っていて、その画が印象的で記憶に残った。なぜならそれは飼育小屋や外出先で排泄が'たまたま'撮れたのではなく、飼い主のマンションの部屋のような場所の一角にトイレスペースを設けていて、飼い主が丁寧に‘排泄方法を解説して’排泄動画を撮っていたからである。
ブタの排泄の様子に需要があるのだろうかと思ったがTが見つけているのできっと多くの方の関心になるのだろう。わたしも記憶に残っているのだから。
しかし普段 ブタというとスーパーで加工されたお肉が一番身近である。彼女は豚肉を食べるのだろうかと余計なお世話をふと考えてしまう。
犬や猫は一般的に飼われているが、食べることはない。
一番近い感覚は魚だろうか。水族館で美味しそう ということもあるのかもしれないしないかもしれない。

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