陣中に生きる—18『昭和十二年 十月十二日』
割引あり
十月十二日
― 第一回楊家楼陣地 ―
冷雨の夜もあけた。
黒雲におおわれていて、いやな天気だ。
それほどの雨ではないが、降りやみそうにもない。
分隊長集合。
十時より射撃開始。
各門百発の予定ということで、全員大いに張りきる。
周到に、準備完了。
いよいよ、射撃開始。
ところがその時、夢かとうたがう異変が起きた。
わが第三分隊の砲弾が、聯隊本部の屋根を撃った(人馬には被害なし)というのである。
さっそく仔細に調べてみる。
あきれたことに、水準器の結合をまちがえていた。
よくもこれまでに、前線歩兵を撃たなかったものである。
こんな大砲を納入したもの、受領したものは誰かと言いたい。
しかし、今更それは、責任回避になるだけである。
<戦争は失敗の連続である・・・・・。>の訓示を思い出す。
すぐに結合の修理をし、絶対安全の自信がついた。
もちろん、<その他異常なし>である。
にもかかわらず、切なる願いの甲斐もなく、<第二砲車撃ち方止め!>の命令が下った。
いわば処罰のようなものである。
なんと残念なことか!
出発に際して、お見送りの方々にしたあいさつの言葉を思いだす。
ここまで来るには、多大の費用と労力とをかけている。
それなのに、今日の猛撃に参加できないことは、なんたる不始末、なんたる恥辱ぞ!
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