陣中に生きる—41
十一月三日 曇時々雨
― 明治節・敵国給与のご馳走 ―
零時。
寒くて寝ておれなくなり、隣室へ押しかけて、三十分ほど火にあたる。
雨はやんでいた。
前線は依然平静がつづき、夜間射撃もなさそうである。
また寝ることにしたが、土間の凹凸があたって、打撲傷のように痛い。
それに、寒さは次第につのり、六時半に全員起床した。
待ちに待った明治節なので、六時半に全員起床した。
そして、炊事・風呂焚き等、割当てられたそれじれの仕事を、みんなうれしそうにせっせとやっていた。
心配なのは天気だが、これもどうやら持ちこたえそうである。
大平原はしばらく振りにかすんで、今日のよき日を、ことほぐかのように見えた。
アイタイたる朝景色を眺めていると、ただに美しくのどかなばかりでなく、ほのぼのとした喜びを感じた。
これまでの苦しみや不自由も、すべて念頭から消えていた。
気の早い部隊では、はや万歳三唱をやっている。
今日は礼服着用の日だが、戦地ではそれはとても望めない。
せめて気分だけでもと、襟布を新しいのと着けかえ、ボロボロになった肩章も手まめに修理をした。
歯をみがき、顔も洗った。
こんなに文化的な生活をするのは、上陸以来初めてのことであり、まことに晴々した気分である。
高価な衣裳を着飾ったような、誇らしさをさえ感ずるのだった。
小鳥たちも今日のわれわれのために、よろこびの歌をうたっていた。
いたちまでが、人なつこくのぞきに来ていた。
軒なみに、大小幾本かの国旗がひるがえっている。
その中に、高等科担任一同から頂いた自分の国旗が、ひときわ白く、紅く、そして輝かしく、朝風にはためいていた。
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