胎内記憶<記憶の回廊>―③『赤ちゃん言葉からの卒業』
小学4年生で10歳の時に『始まりの記憶』を思い出してから、1年くらいったった頃にまた記憶がつながった。
しばらく記憶がつながっていなかったので、もうつながることはないのかと思っていた。
この時もいつものように赤ちゃんの頃の記憶を思い出していた。
たしか学校の授業中だったと思う。
ふと記憶がつながった。
それは、僕が言葉を初めて話した時の記憶だ。
後でわかるのだが、この時の記憶はまだ未完成だった。
かなりの記憶が欠落していた。
僕はこの時、この記憶以前の記憶がまだつながっていなかった。
だから僕は初めてしゃべった言葉が「お母さん」だと思っていた。
小学6年生の時、母に勇気を出して聞いてみることにした。
「僕が初めてしゃべった言葉覚えてる?」
すると母は、「しらん、覚えてへん」と言ってきた。
わが家はそんなにフレンドリーな家族ではなく、こういった会話が珍しい昭和の家だった。
それでも引かずにさらに聞いた。
「思い出して!」と僕が言うと、母は「マンマとかブーブーとかちゃう?」
そう答えた。
次に、何歳からしゃべり出したのかを聞いてみた。
「一歳くらいちゃう?」「あんたはしゃべるのは早かった」
そんなことを言っていた。
僕の記憶と違っていた。
ちゃんとつながったはずなのに、なぜ違うのかわからなかった。
すべての記憶が間違っているのかもしれないとも思った。
でも、それからも時間があれば、記憶の時系列がつながらないかを探っていった。
小学6年生の僕と、母の記憶は違っていた。
大人になり、子育てをする中でさらにたくさんの記憶が蘇り、つながった。
だから今は、この記憶が違っていた理由が分かる。
この記憶は初めてしゃべった記憶ではなく、はじめて赤ちゃん言葉を卒業した時の記憶だったのだ。
「はじめて」という感覚があったのと、言葉の記憶がつながってはじめてしゃべったと僕は勘違いをしていたのである。
つづく
今回引用したのは『赤ちゃんの頃の記憶―14<言葉>』ですが、最終的にはこれ以外のことをだいぶ思い出せました。
それら言葉について全6話でまとめています。
特に今回とつながるのは「12」「13」「14」です。
良かったらそちらもぜひ読んでみてください。