エッセイ【私、なにか、そんなに、悪いこと、した?】
親戚に本屋さんがいると知ったのは、小学3年生の時だ。父がその小さな町の本屋さんに連れて行ってくれた。
「なんでも好きな本、買ってやるぞ」と言われた。
自分で本屋さんで選んで買うなんて初めての体験だ。ワクワクと同時にどう選べばいいのか、すごく悩んだ。いつもは、家にある本か学級文庫の本しか読んだことがない。ふと、児童書の棚を見たら知っているタイトルの本が目に入った。
数日前クラスメイトのAちゃんが面白かったと言っていた本だ。私も読んでみよう。感想をAちゃんに伝えよう!楽しい気持ちになって、父にその本を買ってもらった。
翌日学校帰りにAちゃんに「私も○○買ってもらった読んだよ!××とかすごく面白かった。それから△△が……」勢い込んでしゃべる私を、イヤな顔してAちゃんが見た。そして「はあ?そういうことされるのすごくイヤなんだけど」と吐き捨てるように言った。
私、なにか、そんなに、悪いこと、した?
同じ本を読んだ嬉しさ、面白い本を紹介してもらった喜び……それら全部が急激に萎んでいった。戸惑って、頭が混乱して、そのうち腹が立ってきた。この萎んで腹が立った気持ちをどこにどうすればいいのか、まったくわからなかった。Aちゃんが怒って帰ってしまってから、しばらく私の頭の中は真っ白に。でも、私がやった行為は真っ黒だ。
Aちゃんの上履きをこっそり隠した。
誰かの告げ口で、犯人はすぐにバレた。
親に引きずられてAちゃんちに謝りに行った。
Aちゃんは、自分が読んで面白かった本を私に紹介してくれたわけじゃなかったんだ。同じ本を買ってもらったというのが真似されたと思った?親戚に本屋さんがいるって自慢に聞こえた?今となってはAちゃんの本当の気持ちはわかりようがない。
振り返って考えてみると、Aちゃんとのことがあったから、自分が良いと思った本を人に紹介すること、人が紹介してくれた本を読むということについて、誰よりも考える人間になった気がする。
そのおかげか、私が本を紹介するとみんな喜んでくれる。そして、私にいろいろな本を「読んでみて」と教えてくれる。
Aちゃんにはほんと感謝している。