尾形乾山筆 立葵図屛風(國華1549号要旨)
河野元昭
フランス チェルヌスキ美術館
紙本金地着色 押絵貼屛風二曲一隻 本紙各縦94.0㎝ 横40.3㎝
この「立葵図屏風」は尾形乾山の代表作として、明治39年(1906)2月発行の『國華』189号に別府金七の所蔵として紹介されている。その後所在不明となったが、山根有三編『琳派絵画全集』光琳派Ⅱ(1980年)にパリ・チェルヌスキ美術館所蔵として登載され、改めて注目されるようになった。押絵貼り形式の二曲一隻で、左扇左下に「華洛八十老漢紫翠深省画」という款記があり、「傅陸」印と「霊海」印が捺されている。寛保2年(1742)尾形乾山80歳の作品であることが分かる。京都で生まれ育った乾山は、享保16年(1731)69歳以降、浅草にも近い入谷に窯を築いて江戸生活を送っており、この屏風も江戸で描かれたことになる。この印章や落款の「紫翠」「深省」などは、すべて乾山が若い時から愛用してきたもので、望郷の念に駆られながら落款を入れたのではないだろうか。とはいえ、晩年の乾山は江戸に琳派画風を広めることを生き甲斐にしたようで、この屏風も兄尾形光琳の「孔雀立葵図屏風」(アーティゾン美術館蔵)のような作品を参考にしたのであろう。また乾山は北宋の士大夫・司馬光が立葵をたたえた有名な七言絶句「客中初夏」を知っており、伝統的商法を守る雁金屋に生まれた自分と、同じく伝統を重んじる旧法派のリーダーともいうべき司馬光を重ね合わせ、その詩からもインスピレーションを得たのではないだろうか。