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鳥文斎栄之筆 座敷万歳図(國華1546号要旨)

大久保純一

千葉県 国立歴史民俗博物館 絹本着色 1幅 縦35.0㎝ 横50.4㎝

 正月に家々を回って新年を祝う万歳は、新春の路上風景を描く浮世絵作品の中によく描き込まれるモチーフだが、江戸城や大名屋敷の中でも新年を祝していたことはあまり知られていない。この図はそうした高位の武家の屋敷で万歳が芸を見せている場面を描いた珍しい作例である。簾屏風越しにこの屋敷の姫君と見られる娘と取り巻きの女たちが万歳を見物している。
 簾屏風ににじり寄る腰元らの姿は簾屏風越しにハーフトーンで透かし見せる。一方、姫君は屏風から遠慮がちに距離をとっていることから、鮮やかな赤の振袖姿が簾で隠されることなく、画面右端にありながらも鑑賞者の目を惹きつけている。
 姫君らを精緻な筆遣いで描き出し、かつ上質な絵の具で丁寧に着彩するのに対して、太夫と才蔵は筆の抑揚を生かした水墨の筆法で描き出すという対照的な表現技法を用いており、狩野派の正統を学んだ栄之の画技の高い水準を誇示している。
 箱書きから下村観山旧蔵であることがわかる。


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