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佐甲家伝来 源氏物語図屛風(國華1550号〈特輯 源氏物語図屛風〉要旨)
佐野みどり
紙本金地着色 六曲一双 各縦85.1㎝ 横271.5㎝
本作は、江戸時代下関赤間関の本陣であった佐甲家に伝来した源氏物語図屛風である。右隻は春夏の景、左隻は秋冬の景というコンセプトで選択した場面が以下のように配列されている。右隻は右から順に第一帖桐壺(光源氏の元服)、第二帖帚木(雨夜の品定め)、第五帖若紫(光源氏、若紫を垣間見る)、第十七帖絵合(藤壺中宮前での絵合)の各場面を上部→下部→上部→下部へと、情景をジグザグに配する。左隻は第一、二扇上部に第二十八帖野分(秋好中宮の庭、童女たちが虫籠に露を吸わせる)、そして中央部に第七帖紅葉賀(光源氏と頭中将が青海波を舞う)、ついで第六扇上部に第六帖末摘花(末摘花の邸で光源氏、橘の木に積もった雪を随身に払わせる)という構成である。物語の時間軸を無視したこれらの場面配列は、本作に求められたものが、美しい季節の物語としての源氏絵であったことを物語っている。
手の込んだ工芸的な装飾金雲、発色の良い顔料や金の使用など、本作はその豪華な作りが目を惹く。人物の顔貌表現や鱗雲形の盛上げをともなう装飾金雲は、奈良大学所蔵の源氏物語図屛風に近似し、同一工房ではないものの、同時代すなわち17世紀半ば近くの制作と考えられる。本作は落款印章もなく、また、いつ、どのような経緯で佐甲家の所蔵となったのかについても、現在のところは不明である。だが、この画家は土佐派に多くを学びつつも土佐正系の様式に回収されない特徴を示すという点で、絵屋に属する画家であったことを推定させる。