学びの主人公が生まれる学校の未来予想図
人は誰でも「学びの主人公」である
僕たちタクトピアが全国各地で海外大学生を招致して開催する白熱イングリッシュキャンプ。中学生から高校生まで、 50人ほどの参加者を集い、3日間のキャンプの中でプロジェクトを創り上げます。ある年の夏、中学1年生の女の子が、このイングリッシュキャンプに参加しました。
名前はナユさん。ちょっと気弱なところがある、おとなしい子です。そもそもキャンプ初日、集合場所へ向かう途中で道に迷ってしまい、涙を流しながらなんとか集合場所へとたどり着いたのでした。
合流してからも、下を向いたままでひとことも話しません。ようやく何かを話したかと思えば、声が小さくて聞き取れない。正直、「この子、どうしようかな......。3日間、耐えられるのかな......」と心配になったものです。
キャンプが始まっても案の定、ナユさんは自分から海外大学生たちと交流を図ろうとしません。周りの子たちがなんとかナユさんとコミュニケーションを取ろうと、優しく粘り強く話しかけて、ようやくナユさんは自分の考えを話す。そんな感じで 3日間のキャンプが終わろうとしていました。僕はそれでも「3日間、泣かずに頑張って、えらかったな」と感じていました。
最終日もいよいよ終盤に差し掛かったころのことです。ナユさんがトコトコと僕に歩み寄ってきました。この3日間で、ナユさんのほうから誰かにアプローチするのは初めてのことです。何かが起きそうな予感がしました。
気弱な少女が「学びの主人公」に変わった瞬間
ナユさんは僕に、こう聞きました。
「先生。『好きな色は何?』って、英語でどう言うんですか?」
僕ははじめ、この質問の意図がわからなかったのですが、聞かれたことに素直に、「『What color do you like?』だよ」と答えました。
するとナユさんは、この3日間で自分に温かく話しかけてくれた海外大学生たちに、「What color do you like?」と聞いて回り始めたのです。相手が好きな色を答えると、ナユさんはその色の折り紙を無言で渡します。みんな、ナユさんからの贈り物に感激。涙を流しながら彼女をハグする一大ムーブメントが巻き起こったのでした。
ナユさんが起こした、「自分に優しくしてくれた相手に好きな色を聞き、その色 の折り紙を渡す」という行動。これは確かに、3日間のプロジェクトで取り組んだ課題とはまったく違うものです。 しかしナユさん自身が「何かお礼をしたい」と考え、「相手の好きな色を聞き、その色の折り紙を渡そう」と思いつき、僕に「英語で『好きな色は何?』ってどう聞けばいいの?」と教えを請い、実践したという一連のプロセスは、「学びの主人公」になる瞬間を捉えたものです。彼女が折り紙を配るために発した「What color do you like?」は、教科書に載っている意味不明な道案内とは違う、「本物のコミュニケーション」の形です。
ナユさんはこの後、自分の通う学校に戻ってから大成長を遂げることになりま す。「折り紙を渡してお礼がしたい」と思い立った瞬間、ナユさんは「学びの主人公」への変貌を遂げたのでした。
学びの主人公を育てるための本質的な学び
人間本来の本質的な学びとは、心から感動したり、泣いたり笑ったり、嬉しい気持ちになったり、悲しい気持ちになったりするような喜怒哀楽に出逢う瞬間だと信じています。多感な中高の時代にこのような圧倒的な原体験に出逢うことこそが、本当に必要な教育だと思っています。
現代社会における重要な学びは「偏差値が上がること」や「英語の試験や大学に合格すること」などある一つの物差しか測れない要素に重点が置かれています。試験のシステムにとらわれ、社会的プレッシャーを感じながら中高生は学びを猛追しているのです。試験の成績を苦に人生を棒に振ってしまうこともあります。
ナユちゃんの学びは決して偏差値や成績に直結するものではありません。しかし、彼女にとってこの出来事はこれまで生きてきた人生の中で自分の形成する一つの原体験になったと信じています。人間が成長していく上での経験の連続が本来の学びであり、その人の姿を作っていくのです。
未来の教育はどうあるべきなのか?
そんな学びの主人公を生むための教育や環境はどのように作っていけばよいのか?イングリッシュキャンプでは自己肯定感の高いちょっと年上の大人に囲まれ、仲間とともに1つの課題に取り組み、自分の好きなことを探究できる仕組みを作ってきました。非日常体験だからこそ機能した側面もあり、この圧倒的な原体験を日常生活の当たり前にしなければ、この世の中に学びの主人公を増やすことは難しいと考えています。
これまでの教育は工場生産型で知識偏重、言われたことに従順に従い、ロボットのように働く人間を量産してきました。高度経済成長期を支える人材を育成するためにはこのような教育が必要であった時代もありました。しかしこれからは違います。世界のあらゆる物事は予想できない動きをし始めています。そんな時代だからこそ、本質的な学びのありかたを考え、拙著『アジアNo.1英語教師の超勉強法』の最後に学びの主人公が続出する教育の未来予想図を描きました。
学校の未来予想図
2000年以上前にエジプトに建てられ、世界最古の図書館と言い伝えられているアレクサンドリア図書館は、世界中の優秀な学者や知識人が集まり、あらゆる思想や学問の原点となりました。Paper の語源でもあるパピルス紙に書かれた巻物に知識が詰め込まれ、この場所に収集されていたことで知られています。
この古代の図書館には特権階級の権力者のみが訪れ、知恵を集結させ議論を繰り返していました。アレクサンドリア図書館は限られた人々のための崇高な空間でしたが、僕が描く未来の学校は誰もが学びの主人公になり、好きなことに没頭できる、人間と自然とテクノロジーが融合した空間です。
人種や年齢を問わず老若男女が集い学び合い教え合う、視覚映像と本に囲まれ、 自然発生的に起こる共創的な学びの空間です。ここでは、好きなことを学べる「自由」と、誰もが学べる「平等」のマインドセットが根底にあるのです。
世界各地、全国津々浦々で、学校という仕組みにとらわれず、物理的に距離の近 い公共施設が舞台となると信じています。講義形式の伝統的な教室や最新の情報や知識を共有できる個別対話ブース、そして歴史を学べる博物館の環境が整っています。VRやARを活用し、物理的移動ではなく仮想的移動を実現し、世界中の図書館と繋がり、文化や言語を超えた深いやりとりが行われます。自動翻訳や自動通訳はデフォルトとなる一方、機械の介入なしでのコミュニケーションも重宝され続けます。宙に浮いたこの対話型探究ブースでは人間本来の深いやりとりを通して議論が行われます。それは誰も予想できない未来について対話する空間です。
いかがでしょうか。こうした未来予想図にワクワクされた方も少なくないはずです。なぜなら、この未来の学びのありかたは、人間が本来持っているはずの「学 び」や「成長」に対する根源的なエネルギーや欲求をそのまま活かしていこうとしているからです。現在の教育課題の多くは、かつての社会構造に人間を当てはめて 機械のように働かせていた時代の仕組みが残ってしまっていることから起こっています。今こそ、そのギャップを打ち破り、私たちの本来の生き方に沿った学びを再構築していくときだと、僕は強く信じています。
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