見出し画像

ミドサーゲイ、余生を生きる。

久しぶりに、学生時代に仲が良かった友人のインスタが更新された。
数年ぶりに見る彼女の腕の中には、小さな命が抱きしめられていた。

「無事に出産を終え、母親になりました」
そう一言だけ綴られた記事には、何十件ものお祝いコメントがついている。

ものすごく仲が良かった友人の喜ばしい報告。
それなのに、なんて不義理な話だろう。
写真を見るや否や、「おめでとう」よりも先に、なんとも言えないざらっとした感情がこみ上げてくるなんて。

そして、この感情は一体なんなんだ?

決して、「羨ましい」では、ない。
子どもを持つ夫婦を羨ましいと思えるほど、子ども好きな訳では無いのだから。

「寂しい」は、かすっている気がするが、ちょっと違う。
寂しいと思うには、遊んでいない期間が長すぎた。
「子育てで忙しくなるからこれから会えなくなっちゃうかな~」なんて心配する前に、すでに結婚してからほぼほぼ会っていないのだ。

そうやって考えた先に一番近い感情として辿り着いたのは、住む世界の違いの境界線が明確になってしまったことの「やるせなさ」。
きっとこれが正解だ。

いやいや何を言っているんだ? と、思われるかもしれない。
他人と生きていく世界が違うのなんて当たり前じゃないか、と。

それは本当にその通りで、ましてや自分が少数派なんだと自覚してからは、よりそこんとこの分別は持って人と接してきたつもりだ。

それでも。
どうしても。
学生時代の友人とは、画一的で、同じ目標に向かって、同じペースで毎日を生きていた頃の思い出が圧倒的すぎるから。

同じ時代を仲間として生きてきたはずの友人。
アングラな存在として生きていく自分。
今後、いよいよ二人の人生観が一致することが無くなるのかと思ったら自分で自分がいたたまれなくなる。
あの頃のように、同じ価値観を共有することはもう無いのかって。
もう、明確に、「違う」んだって。

卑屈になりすぎている部分もあるかもしれない。
だけど、これが現実だ。
例えば、結婚や出産をインスタで報告することは、ごくありふれた光景で、そこに何の違和感もない。
僕だって、もう何十回とそんな投稿にイイネを押してきた。

けれど、もし仮に、僕が「今、同性のパートナーと同棲してます」なんてことをインスタで報告したら?

同棲なんて、別に大それたことではないのに、相手が同性ってなった途端に「それを公にするなんて、勇気ある行動」と受け取られるようになる。
もしくは、「そんなことをわざわざ公表してくんなよ気持ち悪い」と思われてる可能性だってある。
ひっそりと4、5人くらいからフォローを外されてるかもしれない。

とにかく、それくらいには、もう持ち合わせてるものがみんなとは違うのだ。
悲しいけれど、違うのだ。

そして、そんな事実を、おめでたいタイミングで一つ一つ受け止めていかなければならないことこそが、若い時からずっと恐れていたことなのである。

ぼんやりとした疑惑は抱きつつも、はっきりと自分がゲイだなんてまだ自覚していなかった学生時代。
それでも、なんとなく分かっていた。
「みんなと同じ」でいられるのは今だけだって。

その予感があったからこそ、まだ自分に嘘をつかずにいれたあの日々を全力で過ごせていたんだろうなぁと、思う。
その限られた時間の中で、青春を謳歌し、その時代を全力で駆け抜けることが出来たのだ。
それはもう、オレンジデイズに出てくるオレンジの会の5人が見ても恐れ入るほどの青春を。

そんな僕も今では、もうアラサー、なんならミドサーと呼ばれる年齢を迎えた。

いま、とっても苦しい。
一般的には「働き盛り」とされ、プライベートに関してもいわゆる人生のピークを迎えている人が多いのであろう今、この時。
そんな、世間とのギャップを埋められないことが本当に苦しい。

今が一番脂が乗っているとか言われても、ぜーんぜんピンとこない。
今後、悪い風にはあったとしても良い風には劇的なライフイベントはないはずだ。
別に一人が好きって訳ではないのに、家庭を持つこともない。
なんなら実は、ずっと他人といてもしんどくならない側の人間なんですけど?
そんな人生で、何をモチベーションに人生頑張れば良いのか。
ずっと自問自答を繰り返してきた。

そして、ふと思った。
若かりしあの頃を自分の人生のピークとして照準を定めていたのだとすると、今はもう余生みたいなもんなのでは? と。
とっくにピークアウトを迎えていて、今はただ余生を生きてるのだとしたら?
そう思ったら、一気に色んなことが気楽になった。
悪い意味ではなく、色々と諦められる様な気がしたのだ。

別に今は余生なんだから、ある程度空虚でも別に良いのかも。
どの方向に対しても頑張れていない自分を追い詰めなくても良いのかもって。

そして余生なら余生らしく、いま、目の前にある日常にただただ感謝しながら生きていこうと思えるのだった。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集