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佐藤先生に教わったこと-#39

このnoteは、星功基が2003年〜2007年に慶應義塾大学佐藤雅彦研究室に在籍していたころに佐藤先生に教わったことを思い出しながら書いているものです。


今回は毛色を変えて、佐藤研の学びの構造について書いてみたいと思います。

星は広い定義でいうと教育業界で仕事をしていますが、佐藤研で体験した学びの構造が今の仕事にとても活きています。

佐藤研の学びの構造を目次的に列挙すると、大きく以下の要素がありました。

・講義
・入研試験
・ワークショップ
・課題
・プロジェクト
※番外編:全体会議
※番外編:装置合宿

ちなみに、そもそも星がどういう経緯で佐藤研に入ったかというと、もともとSFCに入学するときには佐藤先生がSFCにいるという認識はなかったのですが、1年生の6月、当時湘南台にあった三省堂書店にて先生の著作『毎月新聞』を立ち読みして、なんだ!この面白い考え方は!と衝撃を受けて、奥付をみると、そこに慶應義塾大学環境情報学部教授とあるではないですか、と。こんな先生がSFCにいるのかとその足で大学の生協の書棚に向かうと、ちょうど発売されていた広告批評『特集:佐藤雅彦研究室』が平積みされていて、それをパラパラめくると、毎月新聞以上にラディカルでなんじゃこりゃという研究や表現が展開されていて、読み進めるとどうやら秋学期のはじめに入研試験なるものがあり、そこを通ると研究会に入れるということでした。

そして入研試験を受け、運良く通ることができたのです。(研究会初回に言われたことは、#6をご参照)



さて、仕切り直して、前から順に。

まず講義。
300人規模の大講義室にて。
1年の秋学期、研究会と並行して、「表現方法論Ⅰ」の授業を受けました。ここでは要素還元主義という考え方のもと、先生が主にCMプランナー時代に編み出した表現の「ルール」を、実際の映像をこれでもかと見ながら、どういう思考プロセスでそのルールを編み出したのか、そしてそのルールをどのように広告表現に使っていったのかということを、つまびらかに教えてもらいました。超面白かったです。(ちなみにそもそもこの授業の履修が、研究会への入研条件でもありました)

2年の春学期は「表現方法論Ⅱ」。こちらの講義では「トーン」という、先生にとっても言語化しきれていないような表現についての最先端の何かを、これまた映像をふんだんに見ながら考えていく授業です。トーンについては、次回のnoteにて書くことを試みます。

次に入研試験。
ペーパーテスト一発です。表現についての問題が7割、物理・数学についての問題が3割。物理数学が満点だと自動的に合格というスタイル。表現についての問題は、たとえば「あなたが今まで活きてきた中で最も面白いと思う現象について記述しなさい」とか「下記の例のように、縦と横の棒だけで表現をつくりなさい」とかが出されます。

そして研究会。
週1、6限。1年秋〜2年春まで。
「コンピュータにとっての次の表現」という研究会名で、12人の同期とともに、ワークショップや課題で佐藤研の考え方を体得していきました。

たとえばこんな感じです。(一部)

ワークショップ
・コマ撮り演習
・デジタルとは何か
・四分木ワークショップ

課題
・レイヤー
・rigid
・組写真
・ロトスコープ
・制約のよるデザイン

ワークショップでは、手や身体を使うことでこんなにも「ある概念」がわかるのかと衝撃を受けました。

最後に、研究室。
研究会とは別物で、研究会を経たのち、個別にプロジェクトに誘われて入ります(星の世代は6人)。毎週水曜13時からの全体会議をペースメーカーにプロジェクトを進めていきます。

星は、在籍期間中、ピタゴラスイッチ(主に装置合宿)、日本のスイッチ、イメージの読み書き、YCAMワークショップ(時間の積層、動きが生む認知)、ggg佐藤雅彦研究室展、日常にひそむ数理曲線に関わりました。

個々のプロジェクトでの経験もさることながら、全体会議と装置合宿という仕組みが今でも心に残っています。

全体会議では、
現在進行形のプロジェクトの進捗確認を行うほか、外部からきた新しい話を受けるかどうかの話し合いや、後輩たちの世代のネーミング(佐藤研では世代に、tea、cocoa、salt、kelloggなどの名前がついています)、後輩たちへの新しいワークショップや課題の企画を行います。また先生から自分たち室生への課題も出されます。教える企画と創る課題の同時並行。慶應の学び方のひとつ「半学半教」の軸になっていました。

装置合宿は
ピタゴラ装置を夏休み・春休み期間中に集中してつくる仕組みです。研究室にて試作をしたのち、NHKのとなりのホテルに泊まりながら、スタジオを5日間ほど借り切ってつくっていきます。地獄であり夢中の日々です。

さて、いよいよ今回の本題。

これら各場を「インプット/アウトプット」「個/インタラクティブ」という学びの観点で整理したいと思います。

◎講義はインプット。ルールやトーンという見方・考え方を、個人で受け止め、考えます。

◎入研試験は個のアウトプット。本人さえも気がついていない個に眠る作家性を先生が確認します。

◎ワークショップはアウトプットによるインプット。手や身体を使いながら概念を理解していきます。佐藤研独特の表現の考え方を身につけます。

◎課題は個のアウトプット。課題発表とフィードバックにより、徐々に表現の感覚を掴んでいきます。掴むという側面ではインプットでもあります。

※ワークショップも課題も個で進める場合もあれば、複数人で協働して進める場合もあります。その協働や発表後のフィードバックは多分にインタラクティブ性が溢れ、学びが深まります。

◎プロジェクトはアウトプットの極地。妥協の許されない本物の試練の中で、今までの学びや個の実力が試されます。また世間からのフィードバックにより、自分たちのある種純粋な探究が相対化されます。

◎入研試験のフィルタリング機能や、1年間の研究会のワークショップ・課題期間によって、佐藤研の土壌は純化され、それはプロジェクトのアウトプットにも跳ね返ってきます。

◎全体会議ではインタラクティブな調整機能を学びます。

◎ピタゴラ装置合宿ではマクロミクロメタな創造の学びのプロセスが短期間に濃縮し、作家性が高度に交換されます。

(このあたりの雰囲気は、#23の先生の文章もぜひご一読ください)


このようにみていくと、インプットとアウトプット、個の作家性とインタラクティブ性のバランスが全体として絶妙にとれるように各場がつながり、表現集団として純化されるように機能していることがわかります。

講義、試験、ワークショップ、課題、プロジェクト、そして全体会議や合宿という学びの場の要素をどのように絡ませ、それがどのように組織として成熟していくように設計するのか。

佐藤研での経験が、自分自身、学びの場の設計のものさしになっています。

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