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佐藤先生に教わったこと-#31

このnoteは、星功基が2003年〜2007年に慶應義塾大学佐藤雅彦研究室に在籍していたころに佐藤先生に教わったことを思い出しながら書いているものです。

佐藤先生には、根源的に考えよということをイヤと言うほど教えていただきました。

不肖星、それができていたか、そして今でもできているかと問われると心許ないところではありますが、先生に教わった「言葉の原義を掴むことを端緒とする」という、根源的に考えるその一つのアプローチについて、いくつか事例をもとに書いてみたいと思います。

radical

「saltのみなさん、ラディカルの本来の意味は知っていますか?」
「よく政治的な文脈などで使われ、過激なとかそのような意味合いでとらえている方もいるかもしれませんが」

と言いながら、先生は黒板にチョークで横線をひき、そして大根らしきものの絵を描き始めました。絵が入ることによって横線は地面へと早変わり。そして同時に、カッカッとアルファベットでradishと書き込みます。

「radicalはradishと同根の言葉、この絵からもわかるようにその本来の意味はこの根っこのところここが大事なんだ、つまり根源的という意味なんですね。」
「佐藤研はこのradicalをとても大事にしている研究会です。」
「表面をなめて過ごすのではなく、物事の地面の下を見ようとすること、つまり根源的に考える態度を求めます。」
「そうやって本当に根源的にやっていると、ときに他者からみて過激に見えてしまう。」
「過激はあくまで結果的な他者評価です。」
「そんな他者評価は置いておいて、そして考えるべくもなく、まずは物事を見過ごすのではなく根源的に考える練習、いや訓練をしていきましょう。」
「それでは課題を発表します。」

studious

NHK104スタでピタゴラ装置を作っていたとき。休憩でちょっとソファに座っていると先生がおもむろに話し始められました。

「星さん、studyの語源は知っていますか?」
「studyは佐藤研では習作とかという意味でも使いますが、一般的には、勉強とかちょっと義務的な意味合いや、ああやらなきゃという思いでとらえている人がほとんどなのではないでしょうか。」
「でもその語源は、ラテン語でstudious 」
「その本来の意味は夢中になる、熱中するって意味なんです。」
「そこから派生したここstudioは、だから夢中になる場所ですね。」
「星さん、ピタゴラ装置、夢中になってつくりましょう。」

project program professional

佐藤研でプロジェクト活動が始まるときのことです。

研究室の全体会議。いつものように研究室の黒板に先生がチョークで文字を書き始めます。

カッカッカッ

pro-ject

「プロジェクトのproは、前に、という意味ですね。そして、 jectは投げるです。」
「プロジェクトにおいて、前に投げるとはどういうことでしょうか?」
「どういうことだと思いますか?」
「それは、社会に対して、研究をとおしてえられた発見や問いを、投げかけるということですよね。」
「投げかけたら当然、何かしら返ってきます。それはいいことかもしれないし、悪いことかもしれない。もしかしたら返ってすらこないということもあるかもしれません。」
「ですが僕らは投げかけずにはいられない。」
「この純粋に追い求めてきたキラキラしたものの価値を知ってしまったからです。」
「覚悟を持ってのぞまなければいけません。求められる精度は今までのstudyの比ではありません。」
「しかし踏ん張って粘って、社会に投げかけてみましょう。」
「それがプロジェクトということです。」

また別のプロジェクトが始まるとき。コンピュータの概念をアニメーションにするプロジェクトのときです。

pro-gram

「proは、前に、とか、前もって、とかという意味ですね。pro-logue pro-ceed、どれも前、という意味合いが含まれています。」
「gramは、書く、ということ。」
「つまり、pro-gramは、字義通りとらえると、前もって書く、ということです。」
「式典などのプログラムも、あれは式次第が前もって書かれているということですよね。」
「そう考えると、そうか、プログラミングは前もってコードでもってこうこうこうするんだということを書いておくことなのか、と、とらえられるわけです。」
「pro gramを“前もって書く”ととらえることで、コンピュータの概念がああわかったと伝わるような新しい表現はうめないでしょうか?」
「それが次の課題です。」

「pro-fessionalってどういうことでしょうね?」
「proはおなじみ、前に、とか、前もって、とかいう意味です。」
「fessionalってなんでしょう?」
「なんだと思いますか?」
「実は、fessは告白するとか、言う、っていう意味なんですね。」
「つなげると、前に言う。どういうことでしょうか?」
「少し遠回りして話します。」
「僕がSFCに着任するときのことです。同時に教授になる阿川さん石川さんとともに、学部長とかの前で模擬授業をする機会がありました。」
「僕も電通時代から人に教えるのには自信がありましたから、その自信をもってその模擬授業にのぞんだのですが、また阿川さん、石川さんのすごいこと。」
「もうそれは堂々たる様で、それぞれのスタイルで、ガーンと、そうかそういうことか、と感動する授業が展開されたのです。」
「僕はとんでもないところに、すごいところに来ちゃったなぁと思いましたね。」
「このとき僕は改めて、プロフェッショナルってこういうことだなと感じました。」
「つまり、前に言う。これは並大抵のことでは出来なくて、文字通りプロフェッショナルである必要があるわけです。」
「自分は、前にいるオーディエンスにガーンとくることが言える何かがあるだろうか、どんな状況でも蓄積してきたことをもとに堂々と、自分が大事だと思うことを伝えることはできるだろうか?」
「その問いにイエスなら、それはまさにプロフェッショナルだということですね。」

このような「その本来の意味を考える系」のエピソードは他にもたくさんあります。それらもまたとても学び深いので、また。

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