【面白数学】02-ATMの行列
会社の昼休み。
定食屋に向かおうと思ったが、財布に現金がない。ATMでお金をおろすため、会社近くのみずほ銀行に向かった。
いつもの銀行の入り口。慣れた感覚で、あまり前方に注意を払わず自動ドアを入る。すると、すぐそこに人がいる。
ん?
銀行の中をきちんと眺めると、ATMの前に長蛇の列ができている。入り口付近まで人が溢れていた。
そうか、今日は、25日か。これは時間かかりそうだな。
昼休みの貴重な1時間。人気の定食屋は、タイミングを逃すと席が埋まってしまう。時間が気になる。でも、お金はおろしたい。少し歩いたローソンでおろすという手もある。ただ、その往復でかかる時間がネックだ。ローソンが並んでないとも限らない。
何分くらいで、自分の番になるだろう?
ローソンとの往復とみずほの順番待ち、どちらがより時間がかかるだろう?
このみずほ銀行で、ここまでの長蛇の列は初体験だった。ましてや振込が多そうな気配。予測がたたなかった。
状況をもう少し確認するため、前方を見た。
こんもりと並んだ、長蛇の列。ちらちら見える誘導テープと人の頭を確認すると、3回折れて、自分の目の前の列にきていることがわかった。
その先に、ATMがある。
人々の頭の先に見えるATMのサインから推測すると、1番右は両替機で、それを除くと、ATMは、1、2、3・・・全部で10台。
状況を上から俯瞰すると、こうだ。
ここから、どう時間を割り出すか。
う〜ん、と頭の中の俯瞰図を眺めた次の瞬間、ある考え方が浮かんだ。
「ATM1台あたり」で考えればいいのではないか。
よく見たら、誘導テープで区切られた1列にはちょうど10人ほどの人がいる。
さきほどの俯瞰図を1台あたりに分割する。
すると、このようになる。
この1台に対しては、実質4人並んでいて、自分はその後ろに並んでいる、と考えられる。1台に対して4人だったら、経験から予測がたつ。
記憶の時間感覚をたどると、ただお金をおろすだけだったら、1分弱くらい。振込だと、2分強くらい。振込や引き落としなど様々な用途のお客さんがいるだろうけれど、これだけ人数がいれば、平均化して考えてもよさそうだ。
前に並んでいる4人中2人は振込で、他の2人は引き落としのみ、だとする。
2分強+2分強+1分弱+1分弱=約6分
約6分!
約6分だったら、ローソン往復と比較しても待てるレベルだぞ。
そう納得した途端、この長蛇の列はストレスではなくなり、むしろ検証の楽しみになっていた。
6分後。
本当に自分の番がきた! 心の中のにんまりとともに、お金をおろした。
人気の定食屋に向かった。ちょうど満席になったところだった。残念。やはり6分でも長かったか。
その近くの焼き鳥屋でランチをすまし、会社にかえる途中、信号が赤になり横断歩道で止まった。さきほどのATMの行列を思い出していた。
1台あたりで考える。
長蛇の列を目の当たりにしたときの時間感覚と実際の約6分の感覚とは結構なズレがあった。
直感的に把握できない大きな事柄にあたったとき、わたしたちは、ただ「うわーいっぱいだ!」という感慨しか出てこないことが多い。そんなとき、この「単位あたりで考える」という頭の動作は使えるなと思った。
信号が青になった。
13時からの会議に間に合うように、歩くスピードを少し速めた。
とても軽やかだった。
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