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#cluster 短編イマーシブミュージカル「Song of EDEN」劇評

 こんにちは、紅花(こうか)です! 

2023年11月4日にcluster※で行われた、短編イマーシブミュージカル「Song of EDEN(ソング・オブ・エデン)」の公演を観劇しました。

撮影した写真をいくつか載せつつ、舞台レポートをさせていただきます。おもにワールド、演出、ストーリー、演技・パフォーマンス(配信カメラワーク含む)に分けて書いていますので、目次から気になるところをお読みください!

※cluster…クラスター株式会社が運営するメタバースプラットフォーム。スマホ・タブレット・PC・VRで利用が可能。ユーザーはcluster上でワールドを作ったりイベントを行ったりすることができます。

注意

 舞台「Song of EDEN」および、そのリスペクト元の映画「竜とそばかすの姫」のネタバレを含みます。まずは公演の配信アーカイブをご覧になってから、お読みいただけると幸いです。

▼配信アーカイブ(YouTube)


はじめに

 「Song of EDEN」は、いわゆるVR演劇です。VR演劇とはバーチャル上の空間で行う演劇で、遠方にいながらインターネットを通じてリアルタイムに公演を行うことができます。clusterやVRChat、その他さまざまなVR空間・メタバースで盛んに行われています。

私は公演当日、VRヘッドマウントディスプレイを被ってclusterに入り、観劇に臨みました。

主催・主演はバーチャルシンガーソングライターとして活躍する「L*aura(ローラ)」さん。ご自身の立ち上げたプロジェクト「歌姫Project」の企画として、15名のキャスト・スタッフとともに今回のミュージカルを制作されました。配役等の詳細につきましては下記clusterイベントページをご確認ください。

ワールドについて

 まずVR演劇の舞台を語る上で欠かせないのはワールドです。

「Song of EDEN」のワールドは場面ごとにセットが瞬時に切り替わる仕組みになっていて、シーンによって空間ががらっと変わります。全く別の世界へワープしているような感覚です

「イマーシブシアター」という言葉をご存知でしょうか。イマーシブシアターとは、客席からステージ上の演者を眺めるのではなく、観客が演者と同じ空間で物語に参加する没入型舞台のことです。

「Song of EDEN」もその一例といえます。客席らしきものはなく、観客のすぐ目の前に次々と登場人物が現れてストーリーが進んでいきます。

演者と観客との距離はこんなに近い!

clusterにはエモートという機能があり、観客はエモートを使って演技やパフォーマンスに対してリアクションを取ることができます。

エモートを使ってリアクションをする観客(写真右)


物語のあらすじを追いながら、劇中に登場したワールドをいくつか紹介します。

主人公は、いきつけのパン屋さんの店長の歌を聴くのが好きな、ごく普通の女性です。ある日突然現れたAIたちの導きにより「EDEN(エデン)」という現実とは別の世界の存在を知ります。

EDENと現実世界が不思議な扉で繋がる

EDENへの扉が現れる時のギミックや効果音など、一つ一つ表現が細やかで臨場感があります。

扉が開くギミック、演技とタイミングを合わせるのが地味に難しそう!
扉の先には・・・

最初にEDENで主人公が見たものは、女神が歌を歌っている美しい光景でした。

女神の美しい歌声が響く。「歌よ、導いて…」

あれは夢だったのかと疑う主人公。主人公が「もう一度だけEDENに連れていってほしい」とAIたちに頼むと、EDENに行くには「アバター」が必要であるとAIたちは言います。

EDENについて話す主人公とAIたち
「さぁ、EDENに相応しいあなたの姿をイメージしてみて。」
再び主人公の前に扉が現れる

主人公は、自分の願いを形にした、魂の姿である「アバター」となって、EDENの世界へ再び訪れます。

アバターの姿になる主人公

EDENには不思議な形をした大木やテレビのカラーバーみたいなものがあったり、六角形のポリゴンが点々と浮いていたりと、近未来的・幾何学的な異世界感があります。

まるでデジタルコンピュータやバーチャルの世界を示唆しているようです。それでいて、広大な宇宙のようでもあります。

EDENの様子

主演であるローラさんは普段、バーチャルシンガーソングライターとして活躍されていて、「未来から時空を超えてきたガイノイド」というプロフィールをお持ちです。EDENは、ローラさんご自身にコンセプトを寄せた部分もあるのではないでしょうか。ワールドの全体的なカラーも青色を基調としていて、ローラさんご自身を想起させる世界観です。

▼参考に、ローラさんの自己紹介動画です。

またこうして写真を並べて比較してみると、EDENの世界と現実世界とで、空間の使い方が違うことがよくわかります。

EDENの世界:観客も「EDENの人々」として、演者と同じ空間の中に参加している
現実の世界:観客は部屋の外側の世界で演者を見守っている

主人公はEDENに訪れたのをきっかけに、「歌を歌いたい」という自分の気持ちに向き合い始めます。

「彼(野獣)」が現れ、主人公の邪魔をする

──なぜ、歌う。この世界はすでにあらゆる歌で溢れている。
──今さらお前が歌ったところで、一体何が変わる?

果たして主人公は歌うことができるのか、というのが物語の大枠です。クライマックスのシーンについては後ほど語っていきます。

実は無念にも写真を撮り損ねてしまったワールドが一つあります。それが開演前の待機所兼オープニングのワールドである、美しい聖堂です。舞台のクレジットを確認したところ、こちらのアセットを使用されたようです。

聖堂といえば、キリスト教ですね。「Song of EDEN」のタイトルロゴや、先程紹介したEDENのワールドに、旧約聖書に登場する楽園「エデンの園」の「生命の樹」「知恵の樹」を思わせるような大木があることからも、キリスト教に関連するモチーフを世界観の中に取り入れていることが窺えます。

聖堂にはベンチがいくつか並んでいて、開演前は自然とその周辺に観客が集まっていきました。舞台が始まるのをみんなでワクワク、ソワソワしながら待つあの時間は、バーチャル・リアル問わずとても良いものです。

開演時間が近づき、観劇するにあたって音声やパーソナルエリアの設定等についてのアナウンスも行われました。

演出について

 現実のミュージカルでは、劇場がまるごと瞬間移動したり壊れたりすることは物理的にあり得ません。本当に空を飛ぶことも本物の魔法を出すこともできません。しかしバーチャルならば、それが自由自在です。

「Song of EDEN」はVRの長所を最大限に活かした壮大さがあり、全天を覆う光の演出が大迫力です。

特に物語終盤のたたみかけは凄まじく、派手で美しいパーティクルやアニメーションの連続に驚きました。

どんなVR演劇でも、理想の表現を具現化するには制作コスト(お金や時間、人員の確保)や描画処理の負荷などの問題が付き物です。ここまでの演出にどれだけ試行錯誤されたのか想像もつきませんが、もはやそんな制約を感じさせないほどのスケールでした。

一番度肝を抜かれたのは、城がバラバラと分解し崩れていくシーンです。詳しいストーリーについては後述しますが、主人公と「彼」の閉じ籠っていた心の壁が崩れてゆく大事な場面です。

崩れた壁や床がEDENの底へ落ちていきます

本当に自分の部屋の床が抜けたり身体が浮いたりしているわけではないのに、巧みなアニメーションによって、自分たちがだんだんと上空に昇っていくような錯覚に陥ります

あまりにも衝撃で、ここのシーンは特に何枚も写真を撮ってしまいました。VRをしていてこんなに必死に足元の写真を撮りたくなった体験は初めてです。

このように「Song of EDEN」は、ミュージカルを観ているというよりは、まるで映画の中に飛び込んだような感覚になります

映画って、当たり前ですけど映像と自分の間に画面がありますよね。ガラス窓のように、映画と現実の世界のあいだに板一枚挟んでいる状態。このミュージカルはその板の向こう側、映画の舞台側に直接自分が立っているんです。まさに「イマーシブミュージカル」、VR演劇の真骨頂です。

VR空間で演劇をする面白さを、キャストのリーチャ隊長さんが漫画でこのように語られています。

個人的に特にVR演劇ならではの面白い演出だと思ったのは、主人公の前にもう一人の自分が現れ、対話するシーンです。

「私なんかが、歌ったって…。」「いつまでウジウジしているの。」

アニメや漫画で見かける表現方法ですが、この演出を舞台上かつリアルタイムで行うのはバーチャルだからこそできる芸当のひとつだと思います。

一方はローラさん自身が演じて、もう一方はローラさん以外のキャストが主人公のアバターになって動きだけ演じているのでしょうか。セリフはローラさんが事前に収録した音声と上手くタイミングを合わせて会話していたのではないかな?と思います(間違っていたらごめんなさい)。

自分に自信のない主人公(写真左)と、それに対してわざと挑発するような主人公(写真右)、どちらも声色や動作を変えて見事に演じ分けされています。セリフと動きの呼吸がぴったり合っていて、本当に主人公が2人いるみたいでした。

ちなみにこの場面にはとある設定が隠されていたそうで、ローラさんが公演後に書かれたnoteの記事でその事が明らかになりました。配信アーカイブをよく見返したら確かにその事がわかる演出がされていたので、気になる方はぜひアーカイブもご覧になってください。

ローラさんのnoteには作品が完成するまでの経緯や想いについても書かれているので、ぜひチェックしてみてくださいね。

▼ローラさんの「Song of EDEN」後記

ストーリーについて

 「Song of EDEN」は、ある映画を原作としたオマージュ作品なのだそうです。それが、2021年に公開された、「スタジオ地図」制作の「竜とそばかすの姫」というアニメーション映画です。

私はその映画を観たことがなく何も知らないまま「Song of EDEN」を観劇しましたが、公演後にAmazonプライム会員に入って映画を観てみました。

すると、いかに「Song of EDEN」が「竜とそばかすの姫」をリスペクトしている舞台だったのかということがわかって非常に面白かったです。「Song of EDEN」のストーリーはオリジナルですが、「竜とそばかすの姫」と共通したモチーフや演出が多く使われています。

「竜とそばかすの姫」には主人公である歌姫、そして野獣の「竜」、仮想世界の「U(ユー)」、アバターの「As(アズ)」、Uに住むAIや、「竜」の城、空飛ぶクジラなどが登場します。

「Song of EDEN」でも、AIたちがEDENの案内役として登場しました。EDENについては「仮想世界」や「バーチャルリアリティ」だとは明言されておらず、「本当の自分に出会う場所」と説明されています。現実との繋がりもコンピュータデバイスではなく扉となっていますが、その世界に行くためにアバターが必要であるという部分は一致しています

AIたち

閉じ籠っている心情をで表現する演出や、主人公の歌唱中に空飛ぶクジラが現れ、たくさんのに包まれるといった演出も、映画から一部引用されています

空飛ぶクジラと光の演出

「竜とそばかすの姫」はもともと18世紀のフランス民話および1990年代に公開されたディズニー映画「美女と野獣」に着想を得て作られた映画だそうで、メインの男女ふたりのダンスシーンがあり、「Song of EDEN」でもそれが踏襲されています。

ダンスホールからクライマックスのシーンにかけては、「竜とそばかすの姫」の映像の美しさをそのまま再現したかのような展開となっていました。

衣装についても、「竜とそばかすの姫」の主人公「すず」のアバター姿である歌姫「ベル」の衣装を模したものだと思われます。

『心のそばに』の歌唱では、花びらのような淡いピンクのドレス
『はなればなれの君へ』の歌唱では、濃い赤色のロングドレス

クライマックスでは、数字の0と1で表された文字列(コンピュータに使われる2進数の集まりで、バイナリデータというそうです)が円を描いて主人公を取り囲み、やがて無数の光が世界を照らします。ここは特に映画の再現度が高い演出です。

一方で「Song of EDEN」と「竜とそばかすの姫」とでは大きく異なる点もあります。

ひとつは野獣の正体についてです。

「竜とそばかすの姫」の野獣である「竜」の正体は、主人公とは面識の無いとある人物でした。それに対し「Song of EDEN」の野獣である「彼」は概念であり、主人公の心の弱さや臆病な気持ちが虚勢となって現れた姿、つまり主人公自身でした。

主人公は「彼」の正体に気づき、弱い自分を受け入れます。

野獣の姿から、小さくて弱い本当の心が現れる
「あなたは、私だったんだね。」
心は、あるべきところ(主人公の心の中)へ帰っていきます

そもそも「Song of EDEN」では、生身の人間が主人公以外にパン屋の店長しか登場しません。

歌の上手な店長への憧れは冒頭で少しだけ描かれていますが、その正体であるEDENの女神については言動に謎が多く、最後まで詳しい解説もされないままです。

「あなたのことなら、なんでも知ってるのよ」という女神。神は「全知全能」?
微笑む店長の正体に気づいた主人公は「あっ ・・・」とだけセリフを残します


今回の舞台は短編ミュージカルのため、公演時間が映画ほど長くありません。

多くは語れない中で、あえて人間関係や人物像を掘り下げるのではなく、主人公の心の葛藤だけに焦点を絞ることで原作とはまた違ったオリジナリティを発揮していると思います。

また「Song of EDEN」は、物語全体を通して「現実と仮想世界の乖離」が原作ほど強調されていないように思います。

たしかに空間自体はがらっと変わりますが、現実の姿とアバターとで見た目や振る舞い、周囲との関係が劇的に変わるという様子はなく、むしろ最初から最後まで現実も仮想世界も同等に、できるだけフラットに描こうとする意図が垣間見えます。

EDENに来てアバターの姿になっても、最初から歌えたわけではない

自分に自信が持てない、失敗するのが怖い、他人と自分を比べてしまう…歌うのを躊躇う主人公と同じように、人生で何かしらそういう経験をした人は多いと思います。

ストーリー上の登場人物にひとりも名前がついておらず、人間関係や周囲の環境の描写に主眼を置かなかったのは、観客がこの物語の主人公に自分自身を投影しやすくするための狙いもあったのかもしれません。

「Song of EDEN」はVR演劇のなかでも一際スケールの大きい舞台ですが、物語の本質はすごく身近で親近感があり、普遍的なテーマを描いた作品だと思います。VR演劇ならではのエンターテインメント性と、物語の素朴さとが絶妙なバランスです。

ここからは私の想像と妄想の域を出ない話になりますが、物語に対する個人的な解釈を少しだけ書かせてください。

私がこの作品から受け取ったのは「自分自身を愛し、生きること」という切実なメッセージです。

──この広い世界に、どこまでその歌を響かせられるか、試してみるか?
──聴いて。私、あなたのために歌うから。

心がひとつに

心のまますべて自分に寄り添い、自分自身の存在を愛することができたその先に、「だれか」にこの歌が届くと信じて。

これは主人公だけでなく、多くの人に当てはまることだと思います。ある人にとっての「歌」は必ずしも歌うことではなく、踊ること、話すこと、書くこと、作ること、食べること、歩くこと、働くこと、笑うこと…。その人が心から望むものであれば、あらゆることが当てはまるでしょう。

その先にいる「だれか」はきっと、その人の人生によって違います。友人や家族、パートナー、知り合い程度の人、会ったこともない他人や、故人、未来の子ども、あるいは人間でなくてもいいのかもしれません。もちろん、バーチャルでも、リアルでも。

そして最後の楽曲『はなればなれの君へ』の歌詞と繋がります。歌詞に出てくる「目を伏せた空」は現実ではない仮想世界のことを表しているだけでなく、自分の内面の世界、それから自分の死後の世の中、未来ともいえると思います。

歌よ翔べ
みんなへと 悲しくて嬉しいの!今
この世界は 全部あって
目を伏せた 空にさえ
星は光り 日が昇り
咲く花が あるのね、綺麗

いつまでも 歌うわ
歌い継ぐ 愛してる いつまでも

『はなればなれの君へ』Belle より一部抜粋
作詞 : 細田 守 / 中村 佳穂 / 岩崎 太整
作曲 : 岩崎 太整

主人公が『はなればなれの君へ』を歌っているあいだ、AIたちと女神と「彼」が再び主人公のもとを通過していく演出がありました。映像作品のエンディングでよく見られるストーリー回想のような、走馬灯にも似た演出です。

 どうしてAIたちは突然主人公をEDENに連れて行ったのか、EDENの世界は結局どこにあって、なぜ女神は主人公の手助けをしてくれるのか、劇中では描かれておらず分かりません。

ただ、そのように小さなきっかけとなる人や出来事が連続的に、複雑に交差するのが人生というもので、その隠喩としてAIたちや女神が登場したのではないでしょうか。

主人公が「彼」という面を持っているように、人はみんな誰しも孤独や悲しみを抱えています。

だけど、そんな心を抱き締めながら、愛すべき自分と「あなた」のいる世界が光のように交わって、出会い、別れ、星が、宇宙が、未来が、そして命がつづいていきます。

「EDENの人々」の人生が交わった、この瞬間のように。

光が交差するEDEN

──この世界に、私という存在を刻むために歌うのよ。
──これからも生きていこう、この歌と一緒に。

主人公は最後にこう歌います。「歌い継ぐ 愛してる いつまでも」。主人公にとって「歌」は、自分を愛し、そしてこの世を愛し、生きていくことに他ならないのかもしれません。

演技・パフォーマンスについて

みなさん、声が良い!

 まず第一印象として、歌唱するキャストだけでなく他の役の方も、声が素敵な方ばかりだなと思いました。

VsingerやVTuberとして活動されている方が多いためか、声の作り方や間の取り方が声優さんのように上手でした。いつも気さくなイメージのリーチャ隊長さんがミステリアスな低いトーンで野獣を演じられていたのも、ギャップに驚きました。

主演・ローラさんの歌声

 劇中のパフォーマンスは贅沢に、歌、ピアノ、バイオリン、ダンスと盛り沢山で、どれも美しかったです。

その中でもやはり、主演のローラさんのソロ歌唱が一番の見所です。

モチーフとなった映画「竜とそばかすの姫」の楽曲がそのまま劇中歌に使用されているので、主人公のソロが見せ所になるのが必然ではあるのですが、clusterやVRChatなどのライブでのソロパフォーマンスで何度も聴衆を魅了してきたローラさんだからこそ演じられる役だなと思いました。

素でセリフを言っているんじゃないかと思うほど歌と演技に説得力があり、『はなればなれの君へ』での「歌…!」と繰り返す部分は本当に魂がこもっていました。目を閉じるタイミングなど表情や動作も細部までこだわりを感じ、派手なパーティクルに負けないくらいの素晴らしいパフォーマンスでした。

圧巻のオープニング(配信アーカイブ 6:13~)

 ローラさんの歌で個人的に好きなのが、一瞬跳ね上げたような裏声です。調べてみたら専門用語ではヒーカップと言うらしく、フレーズの途中や語尾で瞬時に声を裏返すテクニックだそうです。ローラさんは声楽のように喉が開いた伸びやかな高音もとっても素敵な方なのですが、たまに跳ね上げるところが心の機微やリズム感を感じてとても好きです。

ぜひそれに注目して聴いていただきたいのが、ミュージカルのオープニングエンディングに起用された『U』という曲です。

マーチパレードのような打楽器のリズムと管楽器の迫力が全面に出た勇ましい楽曲で、それがパフォーマンスや演出で見事に表現されていました。

オープニングでは「空飛ぶ鯨に飛び乗って」という歌詞と同時に巨大なクジラに乗った主人公が聖堂の壁を突き破って登場し、その瞬間、観客はEDENの世界にいざなわれます。リズムに合わせて跳ねるパーティクルの音ハメも気持ちよく、最高でした。

また、配信カメラワークもパフォーマンスを支える重要な役割の一つです。オープニングではクジラが浮遊しながら動き回るので、ここのカメラワーク絶対難しいだろうな…とclusterのイベントカメラマン経験者としては思ってしまいましたが、配信担当のばくだんさんはさすがの軌道把握と繊細なコントロールでしっかりカメラに収められています

カメラには観客の様子も捉えられていて、いかに観客と至近距離でパフォーマンスが行われているのかが確認できます。

イマーシブミュージカルの難しいところは撮りたい画角に意図せず観客が映り込んでしまう可能性があることだと思いますが、そこを都度上手に回避されながら、観客を「EDENの人々」という舞台の大事な要素の一部として撮影されたのが伝わってきます

clusterのプロカメラマンモードの視点記憶機能は24視点(ゲームパッド4視点+キーボード20視点)ありますが、おそらくその上限いっぱい、あるいはそれ以上の視点切り替えを駆使したカメラワークだったのではないでしょうか。

ピアノとバイオリンのデュオ

 パン屋の店長もとい女神役のミリアさんのピアノと、主演のローラさんのバイオリンによる『歌よ』の二重奏も素敵でした。

『歌よ』にバイオリン奏者用の譜面が元々どこかにあるのか、それともご自分でアレンジされたのでしょうか。クラシックバージョンということでEDENの世界観との親和性もあり、主旋律の切なさがバイオリンの美しい響きによって際立っていて、うっとりしてしまいました

ミリアさんとローラさんはお互いにバーチャルでもリアルでも交流があるご関係で、「Milia&L*aura(ミリアンローラ)」という音楽ユニットを組まれています。物語の中の主人公と店長(女神)の関係性がお二人にぴったりでした。

モーションアクターのyoikamiさん

 もうひとつの見所は、モーションアクターチーム「カソウ舞踏団」団長のyoikamiさんの所作やダンスです。

モーションアクターとは、身体にトラッキング機材を装着し、3Dモデルの動きを演じる俳優のことです。生身の身体よりも動きの情報量が落ちてしまうはずのVRで、動作やダンスが上手いと感じるのってすごいです。

劇中に登場した野獣の「彼」は、リーチャ隊長さんが声を、そしてアバターの動きをyoikamiさんが演じられました。音声や動作の遅延があるため演者同士が完璧に呼吸を合わせることは本来難しいはずなのですが、本当に息が合っていて見事でした。

また野獣のアバターに髪の毛や尻尾、ストール等、揺れもの(ボーンが付いていてアバターが動くと一緒に揺れる箇所)がいくつかあったのも動きが映えて非常にかっこよかったです。

自分の身体をどのように動かしたらアバターがどう動くのかを理解されていて、魅せたい表現から逆算して動いていらっしゃるのではないでしょうか。爬虫類っぽく中腰で歩いたり、ダンスシーンでは苦しみながらも音楽に合わせて優雅なターンを踏んだりと、本当に美しかったです。

おわりに

 「Song of EDEN」が感動を与えるのは演出やパフォーマンスの素晴らしさももちろんですが、観客も含めこの舞台に関わった全員がバーチャルリアリティの当事者であるということが大きく影響しているのではないかなと思います。

VR機器を使っているかどうかはあまり関係ありません。自分の魂がアバターに宿っているという精神的没入感、つまりアバターがもうひとつの自分であるという自己同一感・身体所有感を感じていることが重要です。

これが仮にモチーフとなった「竜とそばかすの姫」のように映画作品であれば、現実の映画館で鑑賞されることが前提となりますから、物語に出てくるバーチャルリアリティがどんな世界なのかを観客に対して最初に説明する必要があります。

一方「Song of EDEN」はclusterで公演が行われているため、観客はバーチャルリアリティというものが何なのか既に知っています

アバターの姿をした人々が仮想空間の中で出会うという状況がclusterとEDENとで重なり、演者や観客にとってこの舞台が他人事ではなくなるのです

だからこそ演技にもリアリティが感じられるし、観客は何か大事なメッセージを自分に語りかけられている気分になって物語に没入することができます。

このイマーシブミュージカルは、clusterで公演されることそれ自体に意味があると言えるのかもしれません。

またぜひ、clusterで再演をしてほしいです!

おまけ

私がVR演劇の劇評を書く理由

 ところでVR演劇には、ある欠点があります。それは自宅にVR環境がなかったり、インターネットの通信が重かったりして公演を観られない人がいるということです。

そのためYouTubeの同時配信や録画映像が必要不可欠で、それを撮影するカメラマンの存在は重要です。cluster上で写真を投稿できる「写真フィード」、Twitterに投稿される写真や感想なども同じです。

その映像や写真の投稿者もまたバーチャルリアリティの当事者であり、それは少なからず映像や写真を通してVRの外に影響を与えます。

VR外にいる人は、投稿者の目を借りてVR演劇を追体験することができるのです。

アーカイブや写真を見て、いつか実際に行ってみたいと思う人もいるかもしれないですし、当日観に行ったけれど自分の視点ではわからなかったことが、他の人の視点ではこうなっていたのかと新たに体験できたという人もいるかもしれません。

それは私がこのnoteを書く目的でもあります。VR演劇をVR空間の中だけで完結させるのではなく、映像や写真、文章として記録を残し、リアルの世界にも届けることができたら素敵だなと思っています。

今すぐには届かなくても、何かしら発信しておけばいつかだれか必要とする人が見てくれるかもしれません。EDENで「あなた」のために歌を歌った主人公のように、私もそう信じます。

次の項目に「Song of EDEN」に関するURLをまとめましたので、ぜひチェックしてみてください。

また、Twitterのハッシュタグ「#SongofEDEN」から、他の方の感想などを見ることができます。もっともっと素敵な写真がたくさん出てきますので、よろしければ検索してみてください!

もし公演がある際には、ぜひ実際に足を運び、一緒にVR演劇を楽しみましょう!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

「Song of EDEN」関連リンク

▼「Song of EDEN」イベントページ

▼「Song of EDEN」YouTube配信アーカイブ

▼ローラさんの「Song of EDEN」後記

▼ローラさんの『はなればなれの君へ』歌ってみた動画


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ライター:紅花(こうか)



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