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「半径2 kmをリビング化するのが、一番多幸感を得られると思うんですよ。」-ノミガワスタジオ共同店主 アベケイスケと、池上のこと-
現在制作中の、東京都大田区池上という街にまつわるエピソードを
さまざまな人に聞いたZINE。
その内容の一部を、noteで公開します。
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この街との出会いは、お酒ですね。近くに住んでて、飲みに来るようになったんですよ。よく行ってたのは「ちゃこーる」とかね。
で、もともとは飲みにくる街だったんですけど、2017年にこの街で「リノベーションスクール」っていうプログラムが開催されたんです。使われていない店舗とか空きビルとか、まちの遊休不動産を対象に、リノベーションの企画を考えるっていう。それに参加したことで知り合いが増えたことがきっかけで、池上に関わるようになりましたね。
「リノベーションスクール」のあと、1年くらいは僕もぜんぜん動いてなかったんです。だけどあるとき、神田のほうで動画配信スタジオをやってる人のことを知って、「あ、これだ!」と。いろんな人の話を聞いて、僕だけがおもしろがるんじゃなくて、動画を通してたくさんの人に届けて、追体験してもらえたらもっとおもしろいんじゃないかと。それで、この街でも動画配信スタジオをやりたいなと思うようになったんですよね。
池上にいい物件を見つけて。「ここだ!」ということで、借りる前に不動産屋さんへ動画配信スタジオのことをプレゼンしたわけですよ。そしたら、「なにやりたいのかよくわかんないけど、わるい人じゃないみたいだから、賃料払ってくれるならいいよ」みたいな。それで生まれたのが「堤方4306」っていうスタジオ。2年限定の契約だったので、今は建物の取り壊しでなくなっちゃったけど、みんな楽しそうに使ってくれました。
そこから配信機能を引き継ぐかたちで、今は「ノミガワスタジオ」っていう、まちに開かれたギャラリー&イベントスペースを運営してます。うちの動画配信スタジオと、この街の設計事務所と共同でオープンしたんですよ。本棚をシェアして、個人で本屋を開ける「ブックスタジオ」 も併設したりしてね。
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この街は、お寺に守られている平和な場所、っていう感じはありますよね。参道から本門寺の方を見た時の、ドーンという景色があるでしょ。僕ら檀家でもないのに、時々お賽銭を払うだけでこの景色を享受できてるっていうのは、なんとありがたい話か、って思いますよ。
本当はその感覚を、この街に新しく住み始めた人にも感じてもらえたらいいんですけどね。御会式のときに、「もっと静かにしてくれ」とか言う人もいます。僕もこの街にずっといた人間じゃないから、そう言いたくなる気持ちはわかるんだけど、やっぱり街の歴史とか文化を掘り下げていくと、もっと違った街との関わり方ができるんじゃないのかなって思いますよね。
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ときどき色んな話が舞い込みます。不動産屋でもないのに、いろんな人の物件の相談 にのったりすることはありますね(笑)。地域にハブみたいな存在がいるのって大事じゃないですか。常連が楽しそうにしてるバーとか、名物店長がいる飲み屋とかって、ちょっと面倒くさいとこもあるけど、お節介をしてくれたりとか。いわゆる人情味溢れる街って、そういう役割の人がちゃんといるじゃないですか。落語に出てくる長屋のご隠居のような… ね(笑)いつかそういう存在になりたいですね。
僕は半径2 kmを「リビング化」するのが、一番多幸感を得られると思うんですよ。いいかえると、街に挨拶ができる人がたくさんいると幸せなんだろうなって。掃き掃除をしていて、通りかかった人に「おはようございます」って挨拶をして、「今日はゆっくりなんですね」なんて会話したりとかしてると、挨拶できる人が増えてくじゃないですか。そういう人が増えていくと、街がリビングになっていくと思うんですよね。どこまで人と触れ合うのかは、その人なりのバランスでやればいいんだけど、挨拶しあえる人がいるっていうのは、暮らしやすい街の条件なんだろうなって。
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今は核家族も多くて、子どもたちのおじいちゃんおばあちゃんが近くに住んでないような家庭も多いじゃないですか。でも、その街で暮らすおじいちゃんおばあちゃんと関係性を築いちゃえば、足りない部分が補完できちゃいますよね。その意味では、この街にはちゃんと顔が見える関係がありますね。めんどくさそうなじいちゃんもいるけど(笑)、それも人間だしね。だからといって、誰からも話しかけられず、匿名でいれられる場所もちゃんとあるし。そういう、過ごし方の選択肢があるのがいいですよね。
ウチのノミガワスタジオは「こう在りたい」という気持ちがあって振舞っていますが、まちの人全員にとっての心地よさや居場所である必要はないんですよね。それぞれの居心地を探せばいいですし、それぞれが居場所をつくればいいのかな、ってね。
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