簡潔なほど想像力を刺激する! ローベルト・ゼーターラー『ある一生』
ローベルト ゼーターラーの『ある一生』について。
ローベルト ゼーターラーは、ウィーン生まれのオーストリアの作家・脚本家・俳優です。今回紹介する『ある一生』が世界的ベストセラーとなり、日本でも好評を持って迎えられています。また、映画『17歳のウィーン』の原作である『キオスク』という作品も日本語に翻訳されております。
今回紹介する『ある一生』は、アルプスを舞台にある男の一生が淡々と語られる中編小説です。主人公の男の人生は、養父によって障害を負わされたり、雪崩による妻との死別、ロシアの収容所での過酷な生活など悲惨なことが起こります。ただ、そのような出来事が劇的ではなく、あっさりと常に変わらぬテンションで語られます。特にロシアでの捕虜時代の話など八年という長い歳月にも関わらず、特に語るべきことが無いということで数ページで終わります。
全体を通してもこの小説はとても小さく、たった一人の男の一生が簡潔に書かれているだけなのですが、“この作品には全てが描かれている!”と感じさせてくれるような大きい感動が読後に待っております。
ところで、音楽のロマン派時代はベートーヴェンが切り開いたとされています。この時代の人々は、理性を偏重した啓蒙思想の末に理性ではとらえきれない領域があることを意識し始めます。そして、その捉えきれない領域に触れるには、理性の道具とも言える“言葉”では表せないことを表現し得る抽象的な芸術である音楽こそ重要であると考えました。そして、とくにベートーヴェンの音楽から、それを感じ取ったとされています。
ベートーヴェン以後のロマン派時代初期になると、そのような“理性では捉えきれない領域”を表現するために長大な作品が誕生するのかと思いきや、実際にはシューベルトの作品に代表されるようなリート(音楽と歌詞が一体化した歌曲)や、性格的小品のような一つの音楽的性格のみで書かれた小さい作品が多く書かれます。(メンデルスゾーンの『無言歌集』や、ショパンのピアノ作品など)
人間が作る作品は、どんな長大なものを作ったとしても有限です。そのため、その方法ではロマン派音楽が目指している”理性ではとらえきれない無限なるもの”は、十分に表現出来ません。そこで、当時の作曲家たちは、作品というのは全体の断片であり小さい作品ほどその外に広がる無限の世界へ、人間の想像力を導いてくれるのではないか!と考え、小さい作品を書いたのかもしれません。
これと同じような理由で、『ある一生』は、非常に短い作品で、”無名の男の一生”という、世界のほんの一部分しか描かれていませんが、人生の全てが表現されているようにも感じさせてくれる壮大さを持っているのではないか!と感じました。
それにしても、短いけど壮大な作品って言うのは憧れますね。
自分の作品にも、短いけど壮大な作品はないかなー?と思って探したのですが、自分では何とも言えませんね。。。ということで、一つの音楽的性格で満たされた“性格的小品”のようなもの!と言うことで、映画のために書いたワルツを紹介させて頂きます。映画音楽は、基本的に一曲の中には一つの音楽的性格だけですからね。
"Waltz" from OST "Children in Musique"
映画『ミュジックのこどもたち』より
作曲:高橋宏治
演奏:音楽集団 "渦々"
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