40代が読むべき、20代に向けて40代が書いた本 ~2020年6月30日にまたここで会おう~
はじめに
本書は20代の若者に向けた講義をまとめた本と云うだけあり、冒頭に「ターゲットは20歳の若者」と書いてあるが、本当にそうなのだろうか?それがこの本を読んだ印象だった。
元となった講義の参加資格が29歳以下と云うだけで、本当のターゲットは
・20歳の若者
・瀧本哲史の同世代
・瀧本哲史、彼自身
の3つだったのではないだろうか。
「20歳の若者」への檄(げき)
あの人ならやってくれる。我々にはあの人が必要だ。
カリスマが解決してくれる世界。そんな都合の良い世の中に存在しないと、20歳の若者に対して、ボナパルティズムへの警鐘を鳴らす。不確実な時代、自分の力が及ばないところに、他人の力を求めたくなる。
リーダーシップとは、個々が自発的に活動することであり、既に活動している人に自分の下駄を預けることではないのだと。
"DO YOUR HOMEWORK"
”FIND YOUR HOMEWORK" ではなく、"DO YOUR HOMEWORK"。
自分探し(FIND)ではなく、「やることを決めて、動いて、持ってこい。」20代に向けた痛烈なメッセージだ。
「瀧本哲史の同世代」への呼びかけ
瀧本哲史は1972年生まれ、早生まれの彼の学年は一個上だが、自分と同い年である。1972年生まれは、第二次ベビーブームの世代。1971年〜1974年の間の出生数は年に200万人を超えており、概ね今の倍の出生数だ。選挙を動かす票田としては非常に大きい。
この世代は20歳前後にリーダーシップの幻想を経験している。当時は20歳から選挙権を得ていた。そして、1992年に選挙権を得た翌年、自民党の55年体制が崩壊した。かなりの数の有権者が、政権(リーダー)が変われば、世の中が良くなる、と信じていた。その後、失われた20年が来るとは思いもせずに。
瀧本は「40歳になっても可能性を信じるヤツがいたら、痛いやつ」なんて、言っているが、実際は、彼の同世代の40代にキツい言葉を投げかけて、アジテーションしているようにしか思えない。
同世代に向かって"DO YOUR HOMEWORK"なんて偉そうには言いにくいから、彼はレトリックを使って、同世代に呼びかけたんじゃないかと思う。
「40代、何をしているんだ、動け。」と。なにせ、40代は選挙において、大きな力を持つ世代なのだから。
「瀧本哲史、彼自身」への問いかけ
「自分のチップをどこに置くか」という表現が登場する。これは、彼自身への問いかけに他ならないのではないだろうか?
名門中・高から東京大学法学部に進み、同大学の助手となった瀧本。それまでの経歴だけを眺めれば「ノーミスのエリート」以外の何者でもない。しかし、彼のその後の行動を見ると、エリートと思われることへの強い反発があったのではないだろうか。「叩き上げ」のラベルがない自身にどうラベルを貼るか。
助手を辞めたり、マッキンゼーに入ったり、日本交通を手伝ったり。セレンディピティと偶発性を楽しみながら、ラベルを追加していく為にチップを置き続けていたのではないか。
実際、"DO YOUR HOMEWORK"と問いながら、最後は"Bon Voyage"(行ってこい)と締めている。やることは決めないといけない、でも、人生は旅であると云うことを、瀧本自身に伝えていたように思う。
巧妙なレトリックを使いながら、3つのターゲットに向けられたアジテーション。それが、この本に瀧本が隠したトリックではないだろうか。
End