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セリフたち  6

カウンターの中の男に見覚えがないことを除けば、
それはまるで24年前のキャリートだった。
だからといって、空白の時間がどうなるわけでもないが。

23階から見下ろした川はとても狭く見えた。
不思議と恐怖は感じなかった。
着地するまでの数秒でどれほどの記憶が再生されるのだろう。
それだけが気にかかった。

マーガリンとニンニクとマッシュルームとのパスタだって?。
これは一体どういう宗派のヴィーガンなのだろう。
彼女は訝しげなオレの表情を気にかけることもなく
ものの50秒ほどでその奇妙なランチを胃に収め、
盛大なゲップで締めくくった。

その場所はすでに私の安全地帯ではなかった。
悲しかったかと聞かれれば、むしろ嬉しかった。
そう答える程度の強がりは許してもらえるだろう。

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