カクコツ特別編|伊達軍曹さんに聞く「良いライター悪いライター」
ライターになる、ライティングで生計を立てる、ライターとして生き残る。そのためには締め切りを守って読みやすい日本語を書く。自分の付加価値を高めるセルフブランディングも重要になる――。確かにそうですが、自動車ライター/編集者の伊達軍曹さんは、書く業界やテーマを問わずもっと大事なことがあると指摘します。それはいったい何なのか、久しぶりに一献傾けながらお聞きしました。
伊達軍曹の
「伊達軍曹事業部」!?
コジマ ニシオギくんだりまで足を運んでいただき恐縮至極です。
軍曹氏 や、もともとこの辺りの生まれ育ちですからね。遠いイメージはありませんよ。
コジマ これは失礼いたしました!
軍曹氏 冗談だとは思いますが、その口調やめません? 年上なんだから。
コジマ そうはいきません。我が中年草野団の主将といえば、プロ野球のオーナー兼GM兼監督みたいなものですから。何せスタメンとポジションという人事権を掌握していらっしゃるので。
軍曹氏 わかりやすいけど面倒だなぁ。
コジマ じゃやめます。気を悪くして左遷とかしないでね。
軍曹氏 左遷ってグラウンドの外で球拾いとか? ところで今日は、noteの件でと伺っていますが何を話せばいいのですか?
コジマ そう焦らずに。主将は足の怪我でしばらく練習を休んで、先日の試合も欠場だったでしょ。元気かなーと思ってnoteの話にかこつけて顔が見たいなと。ゆえに本日は2部構成。1部は、まったり野球の話や近況よもやま。2部で河岸を変えて「良いライター悪いライター」の話を。
軍曹氏 長くなりそうですね…。あ電話だ。ちょっと出てもいいですか?
コジマ どうぞどうぞ。
(軍曹氏、電話で「はっ」とか「なるほど」とか「ありがとございます」とか言っている)
コジマ 仕事の話ですか。
軍曹氏 はい。この版元は、注文や相談が電話でくることが多くて。
コジマ 版元によって違うんだね。広告関連だと、クライアント打ち合わせが終わった直後に営業担当者が電話で、ということがあるけど、ほとんどはメールだね。
軍曹氏 自動車メディアも総じて電話は少ないですけどね。
コジマ いま6時くらいか。オレならこの時間の電話は出ないことが多いかも。面倒なことか明日あらためても問題ないことがほとんどだから。何度もかかってきたら別だけど。
軍曹氏 それは強気な。電話・メールはできる限り出る。出られずとも、折り返せるときにソッコーで折り返すのが、伊達軍曹事業部の掟ですから。
コジマ 伊達軍曹事業部!?
「儲かっているライターが
良いライターである」という考えもあるが…
軍曹氏 さいです。「伊達軍曹事業部」は自動車関連のライティングなど、伊達軍曹名義の仕事を管掌しています。
コジマ うむ。して他の事業部は?
軍曹氏 何だっけ。まあ「その他事業部」ですね。冊子やパンフレットの受託編集などが中心ですな。
コジマ 適当だなぁ。確かに主将のところは法人化していますもんね。名称はともかくとして、オモテとウラ(編集などの裏方仕事)でキャラ分けしているのか。主将は自動車雑誌の編集長の経験があるからなぁ。
軍曹氏 キャラクターではありません。姿勢の問題です。編集仕事で筆名を名乗っても意味ないし。
コジマ それっていわゆる「セルフブランディング」ではないですか! 時流を先取りしているのう。ライティングと編集のダブルインカムでもある。
軍曹氏 嫌味ですか…。セルフブランディングとは何なのかよく存じ上げませんが、受託編集も業務範囲になっております。
コジマ 第2部に行く前に話が本筋になっちゃったけど、まあいいか。主将いや伊達軍曹が考える「良い原稿/良いライター」とは?
軍曹氏 …いやはや大雑把な質問に答えるのは難しい。答えはないでしょう。個人的な好き嫌いもあるし、注文の多寡や売上の金額、つまりおカネを“オトナの通知表”と捉えると、儲かっているライターが良いライターであると言うこともできます。
コジマ まあそうなんだけどさ。例えば、これからライターになりたい人、ライティングで食べていきたいと考える人に向かって、「こうしたら良いかも」みたいなヒントはあるでしょ?
軍曹氏 なるほど、それなら拙にも考えがないわけではありません。ちょっとまとめるので暫し時間を。
コジマ 何だよ拙って。「最初からそう聞けよ」って顔に書いてあるし。
自分なりの視点でブログを
書くと仕事がくるのだ(強引!)
軍曹氏 まとまりました。まずはブログを書く。
コジマ もったいぶった結果いまさらブログですか!
軍曹氏 最後まで聞いてください。ワタシいや拙もライターになりたてのとき、やることがないので「ブログでも書いてみっか」と始めました。しばらくしたら、そのブログを読んだ版元から注文が来るようになりましたよ。特段の営業活動をすることなく。
コジマ もうワタシでいいでしょ! ブログって「輸入中古車400勝」のことですか。
軍曹氏 さいです。ここ数年放置していますが、大事なのは何をどう書いたか、ということです。
コジマ それを先に言ってよ。で何?
軍曹氏 テーマは自分が乗ってきた・乗っている自動車のことが中心になりますが、それを他に誰も書いてない内容や書き方で書こうと。
コジマ 軍曹が乗ってきた自動車は比較的安くて珍しい輸入中古車が多いから、取り上げるだけで差別化はできるでしょうな。
軍曹氏 それを工夫として紹介しないでしょ。
コジマ 確かに「輸入中古車400勝」には、乗り味やスペック(数字で表される性能値)はほとんど書かれていませんね。試乗記さえ少ない。多いのは、この車に映える撮影スポット探しとか実物を見ないで車を買うコツ、オープンカーに草野球道具を載せて「これだけ載ります」とか、自動車を巡る体験や心象風景です。いちど読むと、「これは伊達軍曹が書いた記事だな」ってわかるようになるよね。
軍曹氏 恐れ入ります。が、そういうことだと思います。
コジマ 文体についちゃ「それだけで執筆者がわかるんデナイノ!」というジドウシャヒョウンカもいますね。
軍曹氏 あの御仁は特別ですから。
コジマ これまた失礼。つまり、自動車のような競合他者がたくさんいるテーマであっても、自分なりの角度から見た記事を書くこと。その視点を見つけて書き切る力をブログで培うなり発表するなりすれば、ということですね。
軍曹氏 話が伝わったようで安心しました。
モノの見方を醸成していく
「お米ちょい足し戦略」とは?
コジマ とはいえ、ですよ。自分なりのモノの見方・視点と言うは易し。実際のところ、どこがどう自分なりなのかを判断するのは簡単じゃないし、どう養ったらいいのかもわからない。
軍曹氏 そう、自分を客観視するのは誰でも難しい。なので、自分が好きな作家やライターの原稿を読んで、どこがどう好きなのか考えてみるとか。ワタシは日々の暮らしのなかで、お店探訪で感じたものが役立った気がします。
コジマ へ? お店ですか。
軍曹氏 これは一例ですが、近くにある量り売りのお米屋さんによく行ってました。そのお店の人は最後に必ず、袋に入れたお米を減らして量を合わせるんですよ。それでピッタリなんでしょう。でも何か「減らされてる感」というか、釈然としない思いがありまして。や、実際に損した得したという話ではないんです。
コジマ タイヤの空気圧は、そうやって調節しますよね。
軍曹氏 うまく伝わらないな。最後にちょっと足して「はいよ」と渡されれば、量がピッタリだろうがちょっと少なかろうが「ありがとうございます」と、単純に思うのですよワタシは。
コジマ それならわかる! ザルをぶら下げた商店街の八百屋さんが、最後に「えーいピーマン1個おまけだ!」とざっくり新聞紙にくるんで渡すみたいな? 本当におまけになっているかどうか知らないけど、「おーありがとね!」という気持ちになるね。
軍曹氏 そんな感じです。経済的な損得は発生していないし、お店の感じが悪いというわけでもない。それなのに「このお店ちょっと…」とか「また来よう♡」とか思う。この感情って何なんだろう。うまく言葉にできていませんが、このような体験の蓄積が自分なりのモノの見方として醸成されていく気がします。
コジマ 「お米ちょい足し戦略」が伊達軍曹の仕事の基礎になっているのですな。
軍曹氏 あくまで一例ですよ。乱暴だなぁ。
コジマ まあ何ですな、伊達軍曹は「人間の営み」「心の動き」のようなものに興味があって、それが原稿や仕事のやり方の強みというか、数多いる自動車ライター/ジャーナリスト/ヒョウンカとの差別化につながっているのではないかと。
軍曹氏 やめてください!
「要するに何」を創り出す見方が
他者との差別化ポイントになる
コジマ ところで軍曹は以前、締め切りを守って『日本語の作文技術』(本多勝一)を読んで勉強すれば、自動車ライターになれるというか、生き残ることができると書いていますね。それは本心ですか?
軍曹氏 もちろんです。自動車ライターという前提はありますが。
コジマ 今日の話しだと、条件がもっとあるように思うんだけど。
軍曹氏 このnoteを読む方々は自動車ライターになりたい人だけじゃないですよね。前述のお米屋さんの話しのように、「ちょい足し」があると、幅広い分野の書き手に応用できるんじゃないかと愚考した次第です。
コジマ いろいろ考えてくれたんだね。ありがとう。
軍曹氏 一般にライターが課されるお題って、素材もテーマもねらいもバラバラなわけですよ。得意分野に特化したライターでもそうでしょう。つまるところ、バラバラな要素を読み手の興味に合わせて「要するにこれだ」ということに向かって紡いでいく。「要するに何」を見つけるのが取材・執筆で最初の仕事かもしれません。
コジマ なるほど。して、見つからなかったら?
軍曹氏 つくればいい(キッパリ)
コジマ 自分でつくっちゃえばいいんだ。「要するに何」を創り出す見方が他者との差別化ポイントになり、いつもの「文:伊達軍曹」の原稿を生み出すと。
軍曹氏 そ、そうかもしれません。
コジマ 締め切りを守って読みやすい表現を体得することはライターとして当然のことで、実は確固たる伊達心眼流・文書作成術があったのですね!
軍曹氏 伊達心眼流はワタシが編み出した中古車選びの極意ですが。まあいいでしょう。
コジマ 最初のお店で第2部の内容まで聞けましたが、そろそろお店を移りましょう。酔っているので後日電話で追加取材することになるとは思いますが、まずはまずは。
軍曹氏 やっぱり長くなるんですね。まあ付き合いますよ。
Google先生が好きな「まとめ」
伊達軍曹は真面目な人なのだ。良い原稿や良いライターとは?という雑な問いにも、きちんと考えて答えを用意していました。彼の書く記事の文面に騙されてはいけない。
原稿の書き方やノウハウなどの「小手先の手法」に惑わされてはいけないと言っていました。自動車で言えば、自動車に乗る人や乗りたいと思っている人、自動車を造った人の幸せを真剣に考えて文字を紡ぐとも。この愛他的思考は、どの業界のライティングにも共通するはずです。
「コジマさんは『依頼主が…』とか書いていましたけど、われわれは依頼主の先を考えないと!」。伊達軍曹は自動車ライターではなく、「愛」のライターなのでありました。
【お話を聞いた店】
【第1部】本企画の馴染みになりつつある西荻窪の名店「戎」
【第2部】早目の時間だと空いてて密談に最適「Bar ZOOLS」
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