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⑤「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」                      第2章 2020.1の横浜ダイヤモンドプリンセス号のクラスター発生から2023.4の症例発生全数報告の終了まで     4 コロナウイルスの検査        

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4 コロナウイルスの検査
 
 

当院の検査機器の写真(ハンディなもので、これで検査可能):実は、パンデミック初期のころ、ある職員がやめていったのだが、おそらく検査の多さによる忙しさの影響も大きかったと思う。その後、検査の数を制限するようになった。

 コロナウイルスの検査方法は、特殊な機器が必要で結果がでるまで24時間かかるPCR法、そして少しおくれて抗原検査キットが発売された。
 A県のO市にはPCRの機器は2台しかなく、1台は保健所、もう1台は医師会が運営する検査センターにおいてあった。
 一方、当初の抗原検査キットはとてもあやしく、医療機器の認可がとおったキットでさえ、当院でも、一度、水道水によるテストで陽性反応がでたことがあった(業者に問い合わせると、問題ない、とのこと。納得はできなかった。なので、別業者のものが入手できるようになるとそちらに替えた)。
 パンデミックがながびくにつれ、ネットや薬局に「研究用」という医薬品として認可されてない抗原検査キットが多くおかれるようになったが、その中には、おかしなもの(きちっと検査結果がでないもの)も少なからずふくまれていたことだろう。
 パンデミックの間、ずっと、医療機器としての認可をとった抗原検査キットを当院では使っていたが、それでも、ぼくには不信感が消えなかった。なぜなら、この4年、一度も業者から、キットの特異度、感受性の情報提供がなかったからだ。ウイルスの株が変わるたびに、株がかわってもこの抗原検査キット感度はかわらないのだろうか?という疑問は頭をよぎったが、他にかわるものがないから、つかっていたというところだ。

 ウイルスの株が変わっても抗原検査キット感度はかわらない、というのことは理論的にはいえるのだろう(下図)。だが、理論と実際が違うことをわれわれ医療の世界ではしばしば経験しているし、その検証作業も医療のひとつであるのに。

検査のターゲット:N-protein=変異少ない?S-Proteinは、ウイルス表面にあり、その受容体結合ドメインがヒト細胞表面のACE2(Angiotensin-converting enzyme 2)に結合して、ウイルス侵入が開始するため、コロナウイルスに対する治療薬である中和抗体のターゲット。(ただしオミクロン株では、ACE2へのReceptorBindingDomainの大きな変異で結合しない)

 
 ここで、とりあげたいのは、コロナ診療支援補助金で、当院で購入し使用した、「ID NOW」という簡易PCR検査機器である。
(コロナ診療支援補助金について、その制度については単純でなく、諸問題があったが、それはここではおいとく)。
 この「ID NOW」という簡易PCR検査機器は、感度としては24hPCR検査には劣り、抗原検査より高い、といったところ。
 抗原検査が、ウイルスのタンパク質を検出しているのに対し、「ID NOW」は24hPCR検査と同様、ウイルスの遺伝子を検出している。
 だが、24hPCR検査では、ウイルス遺伝子そのものを24hかけて増殖させることで検出しているのに対し、「ID NOW」ではNEAR法という、途中からウイルス遺伝子とリンクさせた、わずか20分ほどで増殖する反応を利用することで、いわゆる「簡易PCR検査」となっている。

医師会も、途中から24時間PCR検査をやめ、検出まで時間が短く手技も簡便なLAMP=NEAR法とは別の、PCR変法、にかえてしまっている。どうやら、医師会のもっていた24hPCRもウイルス変異まで検出できるものではなかったようである。


 当院では「ID NOW」をデルタ株最後の流行である第5波のあとに購入し、実際つかいはじめたのは、オミクロン流行のはじまった第6波以降だった。
 だが、第6波以降は、流行期には、検査をした人の多くはみな陽性だったので、「ID NOW」でのNEAR法の感度のよさ、など意味がなくなってしまった。
 なので、結局抗原検査にもどしてしまった、というのが実際である。
(実は、そのころは、抗原検査さえも意味なく、熱がでれば全員陽性だったのであるが)
           
 ところで、これまで、いくつか「目にみえない」ミクロの図を書いていきた。
 当たり前のことだが、このミクロの絵は、あくまでも「モデル」であり本物ではない。とはいえ、マクロも、人体の関しては(手術をする外科医を除いて)多くの人はその実物をみたことがないので、マクロというのは微妙なところだが。
 いずれにせよ、ミクロの話をするときは、あくまでも「仮説」を話している、ということに注意する必要がある。さもないと、仮定(妄想)を現実のように考えてしまうことに陥りかねない。
 また、今、どの「大きさ」のレベルでの話かも注意しなければならない。
解剖でみえるレベルか?臓器を切ってみたらみえるレベルか?顕微鏡なら見えるレベルか?あるいは顕微鏡でもみえない分子のレベルか?
(あるいはその話は、解剖とは無関係な、ある仮説をもとにして全身をとらえているのかもしれない。例えば、漢方薬の話は、まるでフィクションのように作られた仮想世界を理解しないとチンプンカンプンだ)

 マクロとミクロの頭の使い方(見えるものと見えないもの)は実はデリケートなのである。

 そしてこれこそが、医学医療で虚言やデマができやすい理由のひとつであり、またその難しさの原因の一つである。

第①話へのリンク:①「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」                      第1章 コロナウイルスパンデミックは、今まで隠れていた現実を、いろいろ垣間見せ、あぶり|kojikoji (note.com)
 

第⑥話へのリンク:⑥「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」                      第2章 2020.1の横浜ダイヤモンドプリンセス号のクラスター発生から2023.4の症|kojikoji (note.com)

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