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BB ⑥ ~ナオト~
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ナオト
そして、ある日、学者犬は、とうとうナオトをみつけた。
それは、ナオトが、アルバイトをしているコンビニでパソコンをひらいているときだった。
学者犬はそこにあらわれた。もちろんカーソルマスコットとして。
狭い店の控え室で、ナオトが休憩でコンビニの弁当を食べているとき、彼はパソコンからナオトによびかけた。
「おれにも食わせろよ」
パソコンの中からの学者犬の声は、外にいる者には通じないはずなのに、どういうわけか、その声は、例外的にナオトには聞こえているようだった。
その証拠に、ナオトはその言葉を無視した。
カーソルマスコットは、食べないだろうし、うんちもしないだろう、から。
事実、学者犬にはおなかがすいているわけではなかった。
でも、弁当の鳥のからあげを学者犬にナオトはさしだした。
すると、学者犬はよだれを流した。
学者犬は、おしゃべりを続けた。
「バイトたいへんだな。経営者はひどい人?いい人?」
「いや、コンビニの経営者のほうが、バイトよりもっとたいへんなんだ。夜勤つづきだしノルマは厳しいし」
ナオトが答えると、学者犬は言った。
「フランチャイズのしくみだけつくり、それをリースして自分で何もせずにもうけるなんて最低だな。彼らが勝ち組でえらいなんて・・・おれは絶対認めない」
ナオトは思わず、学者犬に、黙れというように指で「しっ」をした。誰かが聞いて、ナオトがあやしげな独り言をいっていると思われたらいい迷惑だ。
学者犬は、しばらく、ナオトのそばにいることにした。
カーソルマスコットである「学者犬」を作ったナオトだったら、「自分とはいったい何者か?」を自分に教えてくれるかもしれない、と思ったからだ。
ナオトのほうにしてみれば、学者犬はずいぶんとおしゃべりでうるさいときもあったが、ときどき、ナオトが今とりくんでいる、ゲームづくりの相談相手にもなってくれるという利点があった。
なんといっても、今、ナオトが作成中のゲームには学者自身が主人公として参加するのだ。
それを知った学者犬が、一言何か言いたくなるのは、自然なことで、そしてそれは、面白いゲームづくりに有益なものだった。
それに、カーソルマスコットには、えさも散歩も必要もないのだから手間もかからない。
それにしても、学者犬は、ずいぶん文句が多い性格だった。
(ぼくが、最初、カーソルマスコットの彼を作ったころは、そんな風ではなかったのに。ネットの世界に、長い間、居すぎたせいだろうか?)
とナオトは思った。
学者犬はくりかえしこんなことを言った。
「いろいろ世界を見てきて思うんだけど、今の世の中、ルールをつくることが、人よりも自分のほうが仕事のできるあかしと思っている人が少なからずいる。ルールをつくるということは、そこに、おたがい監視しあう人間関係をつくることなのに。友愛でなくおたがいを監視するという関係。そして、ルール違反に対しては容赦なく、寛容というものがない。
『信用取引』というのは、そこに信用がないから、発生する関係なのに、取引が成立することで、偽の『信用』がうまれる。契約とは、「おれは、君を絶対に信用ない」という宣言なのに。
それらを監視社会、というのでなければ、『みんな、わたしているか?いくらわたしているか?』わからない、でもまわりを横目でみながらお礼のお金をわたす、談合社会か?
さらには、『人間の行動を数値化にする』ことへの執着。執着のあまり、そもそも数値化することが間違っているということは忘れられ、その間違いを正そうという声は無視される。そして、『人間の行動を数値化にする』ことは、不可能なことへの挑戦、とされ、むしろ称えられる。
『人間の行動を数値化にする』ことの代表は、労働時間に
対する時給である。今や、それのみならず、医療、介護では、「ひとつひとつの行為」ごとに『報酬』が定められている。
例外が発生することを極度に嫌う法律や組織のシステムは、例外の発生さえも、体系づけようとする。
ITは『それ』ではなく、アイ・ティーとよばれ、AIは『あい』でなく、エー・アイとよばれ、そこにだじゃれは禁物だ。
そして、『清潔信仰社会』。
禁酒、禁煙、禁肥満、禁消費期限。
とにかく、感情を優先して仕事すると社会の中で偉くなれないようになっている会社は今の世の中、少なくないんじゃあないかなあ?
そして箱物にせよ制度にせよ、それらは実際の生活にくら
べて大きくなりすぎている。そういう目に見えるものばかり好んで作られる社会。
ところで、ここでひとつ注意を喚起しておくが、ぼくの言う社会と、世の中の人たちが言う社会は、実はちょっと違うんだ。
多くの人が言う『社会』は、実は会社のことだ。
会社が社会だ。
会社はいろいろ、だから、社会もいろいろ、ということになる。会社も「優良」なところもあれば、そうでないところもある。だから、社会はたいしたことない、というような言い方もでてくる。
今の社会の特徴のひとつは、会社がひっくり返って、社会のようになって目の前に現れるということなんだ」
学者犬の話からわかったことは、確かに、彼はとても自由に生きているということだった。いや、単なる怖いものしらずともいえる。敵に何をいわれても、けっして聞かないからちっとも怖くない類の。
でもそんな学者犬でさえも恐れて、そこから逃げ出したという、彼のもとの飼い主であるBBの正体を、いつの日か、ナオトは知りたいと思った。
そう。学者犬は、ナオトが作り出したものではない。ネットにあった、ある画像を拝借した、それだけだ。ナオトが作ったのは、カーソルマスコットのシステムだけだ。その画像が、「学者犬」だったのは、単なる偶然だ。
学者犬は、そこのところを勘違いしている。
BBの元から、ネット社会に逃げ出した、それこそが学者犬の正体だ。
だから、BBの正体をあきらかにすることが「学者犬」が何者かを知るために、必要なことなのだ。
でも、「学者犬」自身は、そのことをわかっていなかった。
それなら、彼のかわりに、ぼくがBBを探してやろう。