⑨「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」第4章 ある視点 2 解剖学の本に書いていない人間の体の構造のとらえ方。
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2 解剖学の本に書いていない人間の体の構造のとらえ方。
それは、細かい、個々の臓器や機能を知ることだけではない知識だ。極端なことをいえば、個々の臓器の解剖やその機能は、本やネットを見れば、すぐに調べられることだ。
それは、調べてもでてこない知識だ。
それは、例えば、何万もの薬を、個々にすべてを知らなくても、どんな系統の薬があるか、頭を整理しておけば、あとは「今日の治療薬」やネットを調べれば、いいだけのことだ、ということに似ている。
そういう状態は、何万もの薬を知っていると同じといってよいのだ。
同じような感覚で、人の体の構造について、教科書には載っていないような理解ができる。
たとえば、咽頭と喉頭。解剖図のように、ただ、となりにあることだけが問題なのではない。
気管・肺へつながる喉頭の扉はいつも空いている。
一方、食道へつながる咽頭の扉はいつもしまっている。だから、例えば 胃カメラをするときにはその扉を一瞬あけてもらうために「ごくん」としてもらう。「ごくん」のあとは、その扉はまた閉まる。
唾液は1日1リットル分泌する。だから、人は1日中「ごくん」をくりかえしている。「ごくん」して唾液をのみこめないとどうなるか?唾液は口からあふれ出すか?あるいは、すぐ隣で、いつも開いている喉頭の扉から気管・肺へと入っていく。
誤嚥である。
多くの「吸痰講習」は言葉の定義からまちがっている。多くの場合、吸っているのは「痰」でなく、「唾液」である。そして、今の多くの看護師や介護士が(彼らの指導者でさえも)、このことを誤解しているという残念な事実がある。
もうひとつ、別の問いかけをしてみよう。
お腹の箱というものをイメージしてみよう。その箱の背部の壁は背筋や背骨で、横は腹筋の壁、上方は横隔膜で、下方は骨盤底と呼ばれる壁で、つくられた箱だ。この箱の中には、胃腸や肝臓や脂肪などがある。
そこで質問。このお腹の箱の中には、空気があるだろうか?あるいは、外とつながる経路はあるだろうか?
答えは、腹腔内は真空。
例えば、胃腸が穿孔したというような病気の時に、あるいは腹壁の外から腹腔にはいる手術のときに、はじめて空気がその中にはいる。
外とつながる経路は、男性にはない。女性は、腟から子宮、卵管という唯一の細い経路がある。女性の場合はこの経路から、腹腔内に感染をおこすことがまれにある(骨盤炎)。
一見、体内にあるように思われる胃内部、あるいは腸管内部は、実は体外である(外とつながっている。あるいはすい臓から腸管内にでる膵液は「外」分泌という。逆は内分泌)。
胃壁あるいは腸管壁のむこうにある腹腔内こそが体内で、そこは真空なのである。
おわかりだろうか?
そしてこれら、体の内と外の境界、それは目に見える皮膚や、目に見えない喉や気管や消化管の内側の粘膜、だったりするが、そこは当然のごとく普段から痛んだり治ったりを繰り返している場所で、「戦いの現場」になる場所なのだ。
局所の白血球と細菌まどの異物との闘いを「炎症」と呼ぶ。この戦いは、火事のように、全身に火の粉をまきちらす。
この火の粉の量を減らすのが、いわゆる下熱剤や鎮痛剤だ。
火事そのものを鎮火する白血球とともにその手助けをするのが抗生剤とか抗ウイルス剤だ。
しかし、火事はおさえきれず、火事そのものが局所を超え、全身にひろがることはおこりうる。
それは危機的だ。
敗血症、とよばれたりする状態だ。
局所のバリアが突破された結果、血液にのって全身に細菌やウイルスがひろがると、全身のいろいろな臓器、肝、腎、心、肺、脳などにダメージがおきる。
その人体によって、各臓器への影響はダメージの大小や、ダメージがおこるまでの時間が、違う。一般的にその人の弱い臓器=予備能がない臓器=からやられていく。
体の機能がおちていくと、人体は手や足や胃腸などは犠牲にして、肝、腎、心、肺、脳などを守ろうとする。末梢の血圧は下がっても、体の中心部の血圧はたもち、限られた、酸素や栄養をせめて重要臓器には届けようと抵抗する。
だが、戦いにまけて、人体の機能が維持されなくなってしまうこともある。
第①話へのリンク:①「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」 第1章 コロナウイルスパンデミックは、今まで隠れていた現実を、いろいろ垣間見せ、あぶり|kojikoji (note.com)
第⑩話へのリンク:⑩「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」第4章 ある視点 3 臓器予備能、あるいは閾値、と言う考え |kojikoji (note.com)
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