見出し画像

⑨「シン・開業医心得」 第1章の2より 大きくはないが、いくつかの開業後の気づきについて

その他の、こじこうじの作品へのリンクは
    太陽の秘密 | こじ こうじ |本 | 通販 | Amazon
    アベマリア | こじ こうじ |本 | 通販 | Amazon
   アペリチッタの弟子たち | こじ こうじ |本 | 通販 | Amazon

   Youtubeに紙芝居絵本「ものほしざお」があります
    https://youtu.be/iGRwUov3O74?si=bH2ZszSCB6b6fquq 


「シン・開業医心得」 目次

プロローグ
第1章 シン・開業医心得 
 1 世間で時々聞く「医者に殺されないように」という文句に殺されないように
 2 開業医での経験
第2章 開業してようやくわかる医療制度の問題点
 1 たまに話題になるが、よく知られていないことがらについて
 2 医療、介護制度の盲点
エピローグ 提言
 

第1章の2より 大きくはないが、いくつかの開業後の気づきについて
 
 確かに、実は、勤務医の外科医のころ、ぼくはほとんど、高血圧や高コレステロール血症や糖尿病の薬の名前を知らなかった。だが、開業するとなると、手術などの機会はなく、あらたに内科の勉強?が必要だった。なので、開業後は、まず、のみ薬の名前を、一から覚えることから、スタートした、ということは前に書いたとおりだ。
 開業医になることで、ぼくは、より(深くはなくとも)広い知識を知るようになった。そして、もうひとつ。開業医になることで、ぼくは新薬をすぐに使うことができるようになった。なぜかといえば、勤務医のころは、新薬を病院が採用するためには「薬事審議会」という会議を通さねばならかったため、新薬がでてから、それを使うまでに約3か月ほど、待たねばならなかったからだ(ただ、本当に、すぐ使いたかった、抗がん剤などの新薬は、発売前に、フライングで薬事審議会の審議にかけるという抜け道はあったのだが)。
 この10年で印象に残っている新薬の例をあげれば。
 
 DPP4阻害薬、SLT2阻害薬など、新しい糖尿病治療薬。特に、GLP-1は、ぼくのペプチド研究時代のターゲットのひとつだった。また、リベルサスという薬で、今まで不可能とされてきた、ペプチドの経口投与が可能になった。
 アダパレンという皮膚ピーリング効果のある、にきび治療薬。
 クレナフィンという、爪内に浸透する爪白癬治療薬(これで、電動やすりでなくては、切れなかったひどい爪白癬が柔らかく薄くなり、爪切りができるようになった
 モビコール(この発売前は、ぼくは、切り札として、これと同じ成分であるマグコロールをのませていた)をはじめとする、下剤の発売(今では、老人や精神病者で、「摘便」するケースが、事実上ゼロになった)。
 テリボンという副甲状腺ホルモンそのものが骨粗鬆症につかわれるように。これも、ぼくのペプチド時代のターゲットのひとつだった。
 ベルソムラというオレキシンというペプチド(これもなじみがあった)をターゲットにした睡眠薬。
 ボトックス治療が一部保険診療でできるようになったこと。その対象は、有名な美容のしわ改善ではなく、重度の腋窩多汗症、さらには脳血管障害後の筋肉拘縮解消(筋肉の拘縮による、皮膚トラブル、移乗困難などがおきるとき。昔はこのような場合、外科的に筋肉を切断していたらしい)にも使えるようになったことは画期的である(最近は、頻尿などの症状のある過活動性膀胱に対しても、使えるようになったとか)。
 少し、話が飛躍するが、このボトックス治療。ぼくは密かに、褥瘡予防に使えるのではないかと思っている。そう夢想するのは、運動神経障害がおきている、ALSの患者の4つの陰性兆候4つ①感覚神経麻痺②膀胱直腸障害③眼球運動麻痺④褥瘡、の④の部分からだ。ボトックスにより、人為的に、仙骨部に神経障害=筋肉弛緩、をおこせば、もしかしたら、直接的に仙骨部褥瘡の予防や治療になるかもしれない。だれか、仙骨部褥瘡治療に、ボトックスは有効か、ためしてみないだろうか?
 
 開業後の「医療的な気づき」は、このような、開業後に新たに認可された新薬の新しさだけではない。
 診た患者の中で、難治性下腿潰瘍に抗真菌剤を投与して治癒した症例、破傷風患者を初期段階で発見した症例があった。またDPP4阻害薬の副反応でめずらしい「類天疱瘡」を数例経験した。
 そして、マダニや頭しらみが、こんなに市中に多いとは知らなかった。
  Cf マダニ取り器(ツイスター)は意外にめんどうな切除にかわる優れものである
 そして、高齢者施設で、散見する疥癬。今でも診断が苦手だ。
 あるいは、熱傷にサランラップをもちいる、いわゆるラップ療法について。一時もてはやされたこの方法で、浸出液が正常皮膚を傷める例を何例もみて、必ずしもラップ療法はよくない、と感じた。
 あるいは、高齢者の利用するデイサービス利用者の中で、「エコノミークラス症候群」のように、おそらく下肢静脈血栓症により下腿浮腫をおこす例が散見された。これは、そこのデイサービスが、その利用者を長時間車いすにのせたまま放置したため起きたのではないか?と密かに疑っている(このケースは、座位であたるところの褥瘡を起こすケースも少なくない)。
など、など。
 特に、次の4つは、論文にすることもできるような、ちょっとした発見だと、思っている。
 
(1)難治性褥瘡に、毎日の入浴が著効。洗浄効果+温めることで局所の血流増加による。病院入院中は、基本、入浴しないので、病院勤務の医師、看護師の盲点になっている。介護施設に出入りするようになって、はじめてわかった発見。
(2)もともとの認知症患者の状態が急に悪くなった時。原疾患の悪化にすぎない、と思われたケースで、調べたら甲状腺機能の低下が観察され、甲状腺ホルモン(チラージン)投与で、もとのレベルまで認知機能が回復したこと。レビー小体やアミロイドが下垂体等、脳内に沈着することにより、二次性の甲状腺機能低下症が発症したと考えられた。これは、普段ほとんど行われない、重症認知症患者の観察により、はじめてみいだされたと思われる。
(3)一般にいわれる「3、3、3の法則」(呼吸しなければ3分、水を飲まなければ3日、食事をとらねば3週間で、人は死亡する)を超え、水や食物が少なくても生き続ける、スーパー細胞の持ち主が老人にはいる。この体質は、長期間、寝たきりの状態によって、「鍛えられ」「作られる」ものと思われる。それは、おそらくこれが古代におけるミイラの作り方に通ずるものなのでは?とも推測される。それにしても、そうなった老人の体の特徴はあらためて調べるに値しそうである。
(4)高齢者の認知症患者で、いわゆるBPSDといわれる例。BPSDを抑えるために他医で投与されていた抗精神薬や抗認知症薬を減らしたり減少する方が、むしろ(「ものわすれ」の程度はともかく)、BPSDの症状が減るケースは少なくない(むしろ多い)。


①へのリンク: ①「シン・開業医心得」 プロローグ|kojikoji (note.com)
⑩ヘのリンク: https://note.com/kojikoji3744/n/nba24ad3b3d65?sub_rt=share_pb

#創作大賞2024 #エッセイ部門

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?