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⑧「シン・開業医心得」 第1章の2より 腹腔鏡手術についての覚え書き

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「シン・開業医心得」 目次

プロローグ
第1章 シン・開業医心得 
 1 世間で時々聞く「医者に殺されないように」という文句に殺されないように
 2 開業医での経験
第2章 開業してようやくわかる医療制度の問題点
 1 たまに話題になるが、よく知られていないことがらについて
 2 医療、介護制度の盲点
エピローグ 提言
 

第1章の2より 

腹腔鏡手術についての覚え書き
 
 前にのべたように、20年続けてきた外科の仕事をやめ、10年前に開業すると決めた理由のひとつには、時代の流れで、やらざるをえなくなりやってきた「腹腔鏡手術」に、どうしても情熱をもてなかったこと(なくてもいい手術、という思いがどうしても、心の中から消えなかった)。が、あげられる。
 それは、最初に「腹腔鏡手術」が導入されたときから今もかわらない事実。それは、「がん」などの消化器疾患の生存率を高めることを最初からねらってない(し、実際、今でもそうでない)。それが狙うのは「低侵襲」である(が、どれだけ「低侵襲」か?術後合併症の割合からいえば、改善は?)。
 実際ぼくは内視鏡外科専門医を持たずにキャリアを終えている。
 一方、腹腔鏡手術をやらない、という選択は、いまの時代もう存在しない。
 一度発明されたものは、ないものにはできないのだ。
 例えば、一度発明された原爆が、もうなくならないように。
 そして、時間はもとにもどせない。
 今や、現役の外科医の口から「腹腔鏡手術」はやめたほうがいい、などと(実はそう思っていたとしても)いいだせない風潮になってしまっている。
 だからこそ、現役を退いたぼくが、ここで言わねばなるまい。
 
①  目に見えない部分、例えば、炎症の強い後腹膜にもぐりこんだ、虫垂。横隔膜のそばの食道や骨盤底の奥の直腸。あるいは、肝臓で、開腹の正面からはみえにくいいわゆる「後区域」にある肝腫瘍。
 これらは、確かに腹腔鏡だと「みえる」ようになる。
 開腹手術のとき、みえないところを目視できるように、いろいろなところを剥離すること(授動=専門用語=動きを授ける=面白い言葉だ)、を減らすことで、体への負担を減らすかもしれない。
 あるいは、目視できるようにするための、手術手技として圧迫(圧排=専門用語=圧力をかけて排除すること=独特だ)をすることでその臓器を痛めること、をを減らせるかもしれない。
 だが、実は、見えにくいところの手術の手技は「みる」だけではない。
 指の先で「触って見る」という方法があるのである。 
 いやいやそれは、鈍的剥離と揶揄するものもいるだろう。でも、本当に「触ることで見て」いたのである。「みえる」のである。 
 それを「安全でない」「不正確」というものもいるかもしれない。 
 だが、それは安全で正確だったのである。
 ただし、「それは、「一部の人しかできない、一般的な手技でない」と言われることがあったとしても仕方がないが。

②人手不足。そして、万が一、戦争等で、外国製の(あるいは高価な)いろいろな器具が輸入できない状況になったとき(それは、ファンタジーかもしれないが)この方法は使えない。かつて、手術は、切除し、糸で結ぶだけの、もっとも、医療器具代のかからない安価なもので、ぼくらは、それを誇りにもしていたのである。

③よかれあしかれ、経験者が未経験者に教えるという連鎖が、ここで断ち切られた。悔しい思いをしながら身に着けた、開腹手術ができても、若いものに教えられない、どころか教えられる。われわれのときの上下関係は、日本中で崩壊した。上下関係はなくなったほうがいいことのほうが多いだろう。だが、大事なものが、そこで失われた影響は、想像以上に大きい可能性がある。

④ぼくは開業医になってから、「ジャパンハート」という機構を通じてカンボジアの短期医療ボランティアに参加したことがある。そのとき、中期的にそこに常駐している外科医になって10年すぎた医師と手術をしたとき。彼らは、圧倒的に、開腹での「虫垂炎」や「そけいヘルニア」手術の経験が少なく、苦労していた(でも、できるところが、さすが、ではあったが)。一緒に、まるで日本の30年前に戻ったような環境で手術しながら、ぼくは、やはり「腹腔鏡手術は本当に必要なのだろうか?」と思ったものだ。
 

①へのリンク: ①「シン・開業医心得」 プロローグ|kojikoji (note.com)
⑨ヘのリンク: ⑨「シン・開業医心得」 第1章の2より 大きくはないが、いくつかの開業後の気づきについて|kojikoji (note.com)

#創作大賞2024 #エッセイ部門

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