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博多着の東海道新幹線「のぞみ」が東京駅から出発するのは朝九時のことだった。 その日、村山は大阪で大切な仕事があった。彼は本社渋谷区のIT会社に勤めるエンジニアである。 一ヶ月前、部長の上野が村山に言った。 「村山君、新製品の説明をするために、大阪に出張してもらえるかな?」 村山は新製品開発チームのプロジェクトリーダーだった。そのため大阪支社の人間に、完成間近の新製品を説明する必要があった。 平日の朝なら新幹線も混んでいない。わざわざ指定席にしなくても、少し早めに1号
級友の嶋田が私に電話してきて、開口一番に言った。 「おい、谷口。甘木教授が帰りにもう一度出席取ってたぜ。おまえだけだったよ。途中で抜けたのは」 聞いた瞬間、私の心臓は跳ね上がった。 なんてことだ。今日私は出席を取ったあと、こっそり教室から抜け出していたのだ。まさか二回も出席を取るとは思わなかった。しかも今日の授業は必修科目。落とすと留年確定になってしまう。 「教授、相当怒ってたぜ。代わりに、みんながとばっちりを受けて説教くらったんだぞ。まったく、人騒がせなやつだな」
「あなたはいま幸せですか?」 ここは大学構内、教養学部の近く。遅刻しそうになったので、急いで歩いていたら、突然同じ大学生とおぼしき女性に話しかけられた。 見ると「便利教」の勧誘らしい。この便利教は、大学内でよく宗教活動をやっているのを見かける。 ぶしつけに話しかけてきた彼女の顔を、おれはつくづくと眺めた。目は大きめ、鼻筋が通っていて、いわゆる美人だ。しかも聡明そうだ。だが、少しプライドが高く冷たそうな感じがした。相手が質問に答えて当然とでも言いたげな顔をして、おれをまっ
「檜垣是安の最期がどのようなものであったか。それを話すと、その人に必ず不吉な事が起こる」 諸君は檜垣是安(ひがきぜあん)という悲劇の棋士をご存知だろうか? 将棋ファンのあいだでは、雁木(「がんぎ」将棋の戦法)の創案者として、知る人ぞ知る棋士である。 檜垣是安は、初代伊藤宗看(いとうそうかん)と「吐血の一戦」を闘った棋士としても知られている。 慶長十七年(1612年)に創設された将棋家は、二代名人大橋宗古の代に伊藤家と大橋分家が誕生して三家になる。宗古の娘を娶り伊藤家
僕の友達だった永瀬君から、大学の時に聞いた話です。 永瀬くんは、コンピュータと会話が出来るAI将棋ソフトを購入しました。 購入先はひょんなことから見つけたサイトでした。対局できるだけでなく、ソフトと会話ができると謳っていたので、面白いなと思って購入したそうです。 購入ボタンを押すと、ソフトがダウンロードされて、自動的にパソコンにインストールされたそうです。 ソフトを起動すると、ソフトが喋りだしました。 「こんにちは、あなたのお名前はなんですか?」 「永瀬です」 「