宇宙誕生で行方不明になった「反物質」捜索(その1)
前回、反重力が否定されたニュースを紹介しました。
反物質にも反重力は作用しない、ことを示したわけですが、この反物質とは原子や分子など、自然を構成する物質が、電気量だけ反転したものを指したのです。この実験ではそれ(反水素)を人工的に生成しました。
人工的に生成する必要があるのは単純に自然には存在しないからで、これが未だに宇宙最大級のミステリーである、というのが前回の要旨です。
今回は、その謎を解こうとしているストーリーをお届けします。
ちなみに、もし仮に今「反物質」が自然に存在したとしても見つけることはできません。
なぜかというと、反物質は(自然に豊富に存在する)物質と出会うと消滅してしまうからです。「対消滅」と呼ばれる物理現象で、厳密には消滅と同時に光子が出現します。
ただ、これは「今の状態に限った」ケースです。
謎なのは、
宇宙が誕生したころには条件が同じはずなのに、どうして反物質だけがなくなったのか、
です。
専門的には、このバランスが崩れたことを「CP対称性の破れ」と呼びます。
雰囲気を感じるために書くと、
・Cは荷電共役変換(Charge Conjugation)で子と反粒子を入れ替える操作
・Pは空間反転(Parity)で鏡に映す操作(右手と左手の関係ですね)
で、ここでの「破れ」とは物理法則が変わってしまうことを意味します。
CとPの操作で両方とも破れる必要があります。(細かいですがアンド条件なので片方だけでは×)
理屈としてはおそらくCP対称性は破れないだろう、というのが初期の見解(常識)でした。
ところが、この破れが1964年に(宇宙から降り注ぐ)K中間子という素粒子実験で発見され(発見者は1980年ノーベル賞受賞)、科学の大捜査が始まります。
実はこの年には関連する重要なイベントがいくつか起こっており、その1つがマレー・ゲルーマンが提唱した「クォーク模型」の理論です。
ゲル-マンは、私が好きなリチャード・ファインマンのライバルとして過去に取り上げました。興味ある方はどうぞ。
実はクォーク模型も段階的に発展しており、当初は3種類でしたが、これではCP対称性の破れをどうしても説明することはできませんでした。
様々なアイデアが出されましたが、
クォークを6種類以上あればうまく説明できる、
という野心的な理論を提唱したのが小林誠と益川敏英です。(さらっと書きましたが結構当時は勇気も必要だったのではと思料)
そしてなんと、これが20年越しで成就します。(つまり追加提案したクォークの存在が確認されました)
これは今では「小林・益川理論」と呼ばれ、両名は2008年にノーベル物理学賞を受賞します。
ということで、何とかK中間子がCP対称性を破る理論的支柱ができたわけです。
が、あくまでこれは証明ではなく仮説の1つにすぎません。
仮説を客観的に検証することで確からしさを高め続けるのが科学です。
次回は他のホシ(容疑者)への捜査もお届けします。
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