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数学と物理が邂逅する結び目理論:その3

前回、自然科学の必要性から生まれた抽象数学の分野が改めて自然科学に活用された一例を紹介しました。

ようは、
DNAのらせん構造の変化を結び目理論で読み解くことで、その反応速度を推測することができた、
という話です。

そしてもっとミクロで、元々結び目理論が研究されるきっかけとなった、「最小の物質」探索でも、この理論がリバイバルします。

最小の物質と書きましたが、19世紀までは「原子」でしたが、20世紀になると、さらに原子核を構成する「クォーク」が最小単位として確からしい(間接的な実証)とされています。

ただ、このクォークよりも最小な物質を扱う理論もあり、それが「超ひも理論」です。

これはミクロもマクロも包括的に扱える「万物の理論」候補の1つです。
過去の投稿記事を引用しておきます。

物質の最小単位を粒(粒)でなく「ひも」と書くと、誤解を与えるかもしれません。

そもそもとして、実体かつ境界のある「粒」という概念でなく、ひもの種類と振動で世界を記述しようという発想です。

例えば、4つの力の1つ電磁気力は、距離の逆数を2乗にした値に比例します。(電気の場合はクーロン力と習ったと思います)

仮に最小単位を大きさを持たない粒と設定すると、自分自身の距離がゼロになるため、単純に考えると自身に作用する力が無限大になってしまいます。それを「ひも」という1次元の大きさを持たせることで回避したわけです。

超ひも理論では、電磁気力含めて母体の異なる理論を包み込むために、その「物差し(ゲージ)」を一般化してうまく変換しようとします。

物差しを変換する理論を「ゲージ理論」と呼びます。過去にそれを紹介した投稿を引用しておきます。

改めてですが、結び目理論は、距離ではなくあくまで「結び目に着目した関係の量」です。これもある意味1つの「ゲージ」です。

電磁気学の距離に依存する力を結び目理論(またはトポロジー)で記述しようとしたゲージ理論の1つに「チャーン・サイモンズ理論」というものがあります。(相当雰囲気で書いてますのできちんと知りたい方はリンク先へ)

これを電磁気学以外(重力や原子核で働く力)にまで拡張するための計算で、前回結び目理論の歴史で紹介した「ジョーンズ多項式」が見事に再出現します。

これらは、(上記の超ひも理論記事で触れた)超ひも理論の立役者の一人、エドワード・ウィッテンによる業績です。

ウィッテンが推し進めた初期の超ひも理論は、1次元のひもから2次元以上の膜、そしてそれらが組み合わさった「Dブレーン」に発展しています。

それに負けずと結び目理論もさらに発展をしているようですが(周辺分野との関係性)、なかなか難解な分野なのでこのあたりで。。。

いずれにせよ、抽象数学が文字通り物理の最先端で重要な役割を担っているのは間違いありません。

そこからどんな縁が生まれるかは初めはわかりませんし、ある意味結果論かもしれません。(おそらく数学に限らず大半の基礎研究が純粋な好奇心に支えられていると思います)

ただ、今回の歴史が示すように、そんな不思議な出会いも込みで今の科学が形成されてきたことは忘れないようにしたいと思います。

<参考リソース>

http://member.ipmu.jp/masahito.yamazaki/files/2020/2020_mathphys_EM.pdf

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