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量子暗号と宇宙のつながり

前回まで2回に分けて、ブレークスルー賞2023受賞内容について公式サイトに忠実に紹介しました。

今回はその補足的なトピックについて紹介します。

基礎物理では今回「量子情報理論」開拓者4名に贈られました。

最後に取り上げたPeter Shor 氏は、最初に有用な量子コンピューター アルゴリズムを考案した、と書きました。

それに衝撃を与えたのは「暗号の世界」です。

前回も少しだけ書きましたが、今でもECサイトなどでおなじみのSSL、これは公開鍵方式の1つです。そしてこの数学的な技法で採用されているRSA方式が解読されるリスクが高まりました。(細かくは他にも鍵方式はありますが今回は割愛)
RSA方式でやっているのは、要は素因数分解の因数探しで、原理だけでいうと手あたり次第試せばいつかは解けます。
RSAについては、少しだけ過去にも触れましたので引用しておきます。

原理といいましたが、性能に依存するのであくまでスケールの話ですが、2020年時点で最高性能のスーパーコンピュータを使うと1024ビット(10進数で308桁)の素因数を見つけるのに1年ほどかかります。下記にその言及があったので引用しておきます。

出所:上記サイト内の画像

いかにShor氏が1990年代に考案した量子コンピュータアルゴリズムが脅威かが上のグラフを見ればわかると思います。

このアルゴリズムに実用の道を拓いたのが4名のうちの2名ですが、個人だけでなく国家レベルでの取り組みも補足しておきます。

米国では、NIST(米国国立標準技術研究所)という国家組織が暗号技術に力を入れています。
Shor氏が考案した量子コンピューターからの攻撃にすら耐えられる新しい暗号アルゴリズムを開発するために2016年に一般公募を行いました。

こちらのサイトによると、公募の結果4つの最終候補と、控えのアルゴリズム3つに絞り込まれているところまで進んでいます。
この4つの最終候補の暗号アルゴリズムの標準化を2024年に完了する予定で、新しいアルゴリズムのガイドラインを作成しています。
さらに、予備の3つのアルゴリズムも2028年に標準化される予定で、常にリスクヘッジで臨む姿勢が伺えます。
もっといえば、それだけ米国は暗号解読を脅威と感じている証拠です。

実は20年以上もこの量子通信技術に力を入れているのが「中国」です。
実は宇宙開発の再挑戦ともつながっており、最近だと下記の発表も行われています。

元々画期的な出来事が、2016年に行われた世界初の「量子科学衛星」の打ち上げです。初耳の言葉だと思いますが、量子通信のための衛星です。
下記サイトに紹介されているので、詳細は本文内では割愛しますが、ようは着々と国家として量子通信の準備を進めているということです。

どこかでこの量子通信自体の内容についても触れたいと思いますが、今回のブレークスルー賞の内容は結構国際政治の分野でも注目されている点だけは補足しておきたいと思います。

タイトル画像Credit:AFP

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