見出し画像

レオン・クーパーが科学に刻んだ功績

歴史に名を馳せた偉大なる物理学者の訃報が流れました。

アメリカの物理学者レオン・ニール・クーパー(Leon Neil Cooper)で、超伝導現象の理論的解明に大きく貢献しました。

クーパー氏の主な業績と派生的な貢献について紹介します。

ジョン・バーディーン、ロバート・シュリーファーと共に、1957年に超伝導を説明する微視的理論である「BCS理論」(3名の頭文字)を提唱したのが最大の業績です。(当時まだ20代!)
この功績によって、1972年にノーベル物理学賞を受賞しました。

過去投稿で、そのさらに源流にあたるボーズ凝縮について触れたので、興味のある方はぜひ。

BCS理論は、電子同士が対を形成する「クーパー対(クーパーペア)」の概念を導入し、超伝導のメカニズムを明らかにしました。

日本だと「超伝導リニアモーターカー」が連想されますが、ほかにもMRIやシリコン製造など、産業面でも不可欠になっています。

冒頭の記事で初めて知ったのですが、クーパー氏は超伝導の研究後に神経科学の分野に転向します。

過去の偉大な物理学者でも前例はありますが(先駆者はシュレディンガー)、思い切ったキャリアチェンジですね。

その新天地で動物の神経系と人間の脳を研究し、1980年代には、視覚皮質に関する物理的推論「BCM」理論を考案しました。これはクーパーと同僚のエリー・ビーネンストック、ポール・マンローにちなんで名付けられました。間違いなく、BCS理論を意識していたでしょう。(本人でなく外野が面白く演出したかもしれませんが)

さらには、最新AIの主流となった人工ニューラルネットワークの商業的および軍事的応用を見つけることを目的としたテクノロジー企業「ネスター」を設立しました。

好奇心の広さもそうですが、その飛び込んだ先が(現代から答え合わせをしても)時代を彩ったホットな研究分野という先見の明も無視できません。

BCS理論による超電導は、今でも「常温超電導」などホットな分野です。
近年でも、実現したという発表とその検証が行われています(投稿時点では未確認)

それともう1つ、BCS理論が派生的に貢献した研究分野があります。

「素粒子の標準模型」です。

何の関係が?と思うかもしれませんが、この模型にも過去何度か壁に立ちふさがれました。

その最大の難問の1つが、
「当時主流の理論だと質量をもたない素粒子が必要だが、現実の観測では質量をもっているという矛盾」
の克服です。

それを、「対称性の自発的破れ」というアイデアで南部陽一郎が解決しました。
ざっくりいえば、本来は対称性があった(=理論的には質量ゼロになると思ってください)が、実際には崩れてしまう(=質量が生じる)という理論です。過去にその顛末にふれたので、もっと知りたい方はそちらで。

この物理学史上でも類を見ないユニークなアイデアは、南部氏曰く「BCS理論」から着想を得たものです。

素粒子標準模型は今では物理学の究極理論(万物の理論)への重要な礎石となっていることから、いかにクーパー氏が自然科学に果たした貢献が大きかったのかを改めて痛感します。

好奇心旺盛な天才クーパー氏に、心よりご冥福をお祈りします。

いいなと思ったら応援しよう!