2024年ノーベル化学賞:AIでたんぱく質の3次元解析に革新を
2024年度のノーベル化学賞が発表されました。
前日の物理学賞に続き、まさかの連日「AI」が主役となりました。個人的にはいい意味で相当な驚きです。
今回の受賞内容は、大きく下記の2グループに分かれます。
・ワシントン大学 デイビッド・ベイカー(David Baker)教授
・Google(Alphabet)が買収したDeepMind社 デミス・ハサビス(Demis Hassabis)氏(創業者)、研究チームのジョン・ジャンパー(John Jumper)氏
後者は過去何度も投稿で取り上げているので、そちらを貼っておきます。
デイビッド・ベイカー教授の業績を一言でいえば、
「コンピュータを使った新しいたんぱく質の設計」
です。
我々にとって欠かせない栄養分「アミノ酸」には主に20種類の要素が知られています。これらを使って全く新しいたんぱく質を設計することに成功しました。
ベイカー氏は、ハサビスたちが今回のAI開発に着手する先達でもあります。「Rosetta」と呼ばれるタンパク質設計および予測ソフトウェアを開発し1999年に発表しました。このころにはまだ第三次AIブーム(深層学習)は到来していません。(大体2006年ごろにヒントン氏の論文が公開)
このソフトウェアは、既存のタンパク質構造から短い構造的な断片を組み合わせることで、未知のタンパク質の3次元構造を予測したり、新たな設計にも利用できます。
そしてこれも活用して、2003年にTop7と呼ばれる93種類のアミノ酸からなる新しいタンパク質を設計することに成功します。
次に2008年には、酵素の新しい触媒活性を設計する人工酵素設計の分野にも進出し、酵素の活性を持つタンパク質を設計することに成功しました。これにより、従来よりも高い触媒反応速度を示す酵素の開発が可能となります。
そのあとに、2番目のグループたちが「AlphaFold」(最新はVersion3)と呼ばれるたんぱく質の3次元構造を予測するAIの開発がはじまり、一気にその性能が高まりました。(詳細は上記の過去投稿で)
実はその後にベイカー教授は、上記に対抗して「RoseTTAFold」という新しいAIを発表しました。この手法は、AlphaFold2に似たディープラーニング(深層学習)を採用しています。
どこかでこれも深堀したいと思いますが、いずれにせよこれで自然科学賞3つがそろい、うち2つが「深層学習」が主要な要素技術という異例のラインナップとなりました。
誇張ではなく、AIと自然科学の共生時代を告げる象徴的なイベントでした。
<イベント案内>
今回の自然科学分野を解説する無料Webinarを行います。もっと知りたい方はぜひ遊びに来てください。(事前知識がない方向けです)