量子の不確定性原理はバージョンアップされていた
前回、重力波検出機器(LIGO)が性能向上したという話をしました。
量子宇宙と大げさな表現を使いましたが、要は量子力学の「不確定性原理」によるゆらぎをテクニカル(周波数帯域に分類して適切なフィルター)に抑えた、ということを言いたかったわけです。
で、この「不確定性原理」ですが、提唱者で有名なのは今から100年近く前の物理学者ハイゼンベルクです。
過去にもその話を書いたので、知りたい方のために引用しておきます。
1927年に発表したハイゼンベルクの不確定性原理を数式で表すと、以下の通りです。
ε(q) η(p) ≧ h/4π (hはプランク定数,最後の文字は円周率のパイ)
左辺は左から、「測定」対象の位置の誤差と「測定」による運動量の乱れの掛け算です。
敢えて「測定」に鍵カッコをつけたのは、これは測定誤差の限界を示したもので、本来量子力学が言っている原理的な揺らぎとは別です。
つまり、測定しようがしまいが素粒子は揺らいでおり、その揺らぎ効果も丁寧に加えた補正式が今ではより厳密である、と考えられています。
それを2003年に式として発表したのが、日本の数学者小澤正直で、氏の名前をとって、「小澤の不等式」と呼ばれます。
1つだけ当時の報道記事で残っているものを載せておきます。
要は、測定誤差だけでなく、本来の揺らぎによる誤差補正項も追加した、ということです。
2003年に発表して9年後の2012年にやっとメディアでも注目されたのは、それが実験で証明されたからです。
上記記事にもある通り、とある研究グループが中性子のスピンを使った実験を通じて、当初のハイゼンベルク式が破れることを示します。
「スピン」は誤解を招く物理量なので、そこに興味ある方のために過去記事の引用にとどめておきます。
話を戻します。
記事タイトルにある、
「100年前のハイゼンベルクの原理は間違っていた!」
と書くと
「量子力学は間違っていた」
と曲解されそうです。
この実験は「小澤の不等式」を検証する意図があったようで、量子本来のゆらぎ(もっといえばスピンの掛け算の揺らぎ)まで入れるとその不等式を破ることはなかった、ということです。
決して量子力学が間違っていた、ことを証明したわけではないです。
ちなみに、ハイゼンベルクが提唱した直後もその不備を正した不等式(ケナード、ロバートソン)はあり、日本語Wikiでも(投稿時点ですが)きちんと指摘しています。
なのになぜか、ハイゼンベルクがよく引用されます。
このあたりの不思議な慣習は、教える側のイメージ戦略なのでしょうか?
確かにハイゼンベルクの式が言っている
「測定という行為による誤差」
は、「主観が客観に影響を与える」と面白おかしくいじりやすいので興味を引き付けやすいわけです。
ただしながら、
「測定に依存しない本来的な量子ゆらぎ」
もあり両者は違うんだよ、ということは現代版量子力学を学ぶ上では必須かなと思います。
とはいえ、この「2つのゆらぎ」は「重力波検出」という専門家の非日常的な議論には必要ですが、非専門家の日常には影響(ゆらぎ)を与えません☺