宇宙初期シミュレーションの壁を突破
産業分野では、コンピュータによる事前シミュレーションはすでに必要不可欠な存在です。
例えば、自動車の衝突耐性を測るテストも、実際にぶつけなくてもある程度現実をシミュレーションすることが出来ます。
ただ、宇宙を再現するなどスケールの大きな状況では、シミュレート(事前試算)は困難を極めます。どちらかというと観測結果をもとに理論を微修正するというケースが多い印象です。
そんな宇宙観測模様ですが、最近東大の研究室でコンピュータを使った野心的な研究成果が発表されています。
要は、
従来は狭い範囲でしか表現できなかった宇宙の構造(物質分布)を、新しい手法で実観測を超えるより遠方(=過去)にまで広げることが出来た、
という話です。
実際のシミュレーション結果を表す動画も上記サイトで引用しているので貼っておきます。
何となく徐々に物質が構成されていく雰囲気は伝わりますね。
遠方=過去、と表現しましたが、基本的には光速は有限(毎秒30km進む)ですので、遠い天体ほど過去の情報となります。太陽だと約8分ですね。
今回は110億年、つまり宇宙が誕生してわずか28億年後までさかのぼることに成功しています。
よく天体との距離を測るときに使われる赤方偏移をパラメータにして、今の観測事実(これと周辺の重力を制約条件としてセットする技法がカギのようです)を元にして、110億年前から現在までの時間をコンピュータ上で表現し高精度な結果を得ました。
上記動画で細い糸状のものが途中から見えますが、これは「宇宙フィラメント」と呼ばれます。
宇宙はなんとなく平坦で等方性なイメージをもっている方はいないでしょうか?
観測結果ではムラが生じており、高密度な場所と何もない空洞が存在することがある程度わかっています。
そして今回のシミュレーションで、従来の観測技術だけでは到達しえない距離(過去)まで予測することが出来ました。
銀河の集積を「銀河団」、その宇宙初期を「原始銀河団」と呼び、これがとんでもない速さで星を誕生させている、と昨年別の研究グループが発表しています。
過去にさかのぼるほど謎の深さも際立ってきます。
今回のシミュレーションで、こういった現象への仮説を与えることにも貢献できそうです。
もちろん今回の計算もいくつかの仮定を置いており、冒頭記事で触れているとおり、今後の新しい観測結果によってチューニングされることを期待しています。
個人的には、今回の記事では触れてない、(宇宙の大規模構造に影響を及ぼしていると目されている)暗黒物質をどう設定したのかが気になるところです。
ちなみに、今回のシミュレーションシステムは頭文字をとって「COSTCO(コストコ)」と名付けられています。
おそらくは倉庫型小売店舗コストコを意識したのかなと想像します☺
つまり、ある程度まとめ買い(制約を設ける)すると、コストを抑えてお買い得になる(効率的に宇宙の予測ができる)というイメージかなと想像しました。(時々ネーミングは何かに寄せてきます。ユーモアにあふれた方々が多いのでしょうね)
既にCOSTCOは活用例が広がっていると冒頭記事にあります。
いつかは世界中の研究者が加盟(コストコは会員制)して皆がそのコスパの恩恵を受けられる日が来ればと思います。