シュレディンガーの猫を発見!?
今年のノーベル物理学賞は「量子もつれ」を実証した研究者3名に贈られました。
焦点の「量子もつれ」ですが、発見物語ももつれており、過去その経緯についてはシリーズで紹介しました。そのうち1つを引用しておきます。
上記投稿内で、有名すぎるので割愛した「シュレディンガーの猫」についての最新の研究発表です。
科学雑誌投稿論文はこちらで閲覧できます。
タイトルが全てですね。
まず、以前は割愛したのですが、今回は「シュレディンガーの猫」を説明しておきます。
そもそも「量子もつれ」の確認ですが、元々はアインシュタインたちが反論のために考案した思考実験から生まれたものです。
要は、「もつれた」状態にある素粒子はどんなに引き離しても光速すらこえて一瞬で相互情報を連携してしまうという不思議な遠隔作用です。
結果として、ベル氏が考案した判定式を基礎に冒頭のノーベル賞受賞者たちが改良して実証し、「量子もつれ」を実証しました。
実は「シュレディンガーの猫」も同じような歴史的顛末を辿っています。
量子力学の初期理論を構築したとされ、実際今でも彼が提唱した波動方程式は「シュレディンガー方程式」と呼ばれて今も電子の存在分布確率を計算するなどして使われています。
が、彼はあくまで当時ド・ブロイが主張していた「物質波」を説明するための数学的な手法として提唱したにすぎません。
そこで起こる物理現象の解釈は、アインシュタイン同様、当時主流であった主観(観測すること)が客観(観測されるもの)に影響を与える、という奇妙な概念について否定していました。
そしてアインシュタインの援護射撃として作った否定するためのたとえ話が「シュレディンガーの猫」です。
猫と放射性元素のある箱の中で、放射性崩壊確率を50%とします。そしてその放射線をセンサーが検知すると電気的に猫が殺される仕掛けを作ります。
するとこの猫は、量子力学の主張を認めると「生と死を重ね合わせた状態とでもいうのか? 変じゃないか。」という突込みです。
ただ、このたとえ話は今では、量子力学の不思議な魅力を伝える手段として引用され、あたかもシュレディンガーが伝道師と誤解されそうです。
前置きが長くなりましたが、この話はあくまで極論で、本来ミクロ現象の量子力学をマクロで例えるのはどうかと思います。
・・・が、今回の研究発表です。
勿論実際に猫を使ったわけでなく、数学的には同じような状態を表現することに成功した、ということです。
ポイントは、下記の「量子任意波形発生器(Q-AWG:Quantum Arbitrary Waveform Generator)」の実装方法にあります。
ちょっと複雑ですが、この実験の意義に絞って直感的に説明します。
この光子を1、2を便宜上呼びます。従来は、1を検出するともつれのため2に影響を受けて検出するわけですが、検出したものから欲しい波形(そもそもそれが目的と思ってください)を獲得するためには直後にフィルターを使ってました。ただ、それを使うと相当な損失を生んでしまいます。
今回の実験は、そのフィルターなしでそもそも検出器の手前にフィルターをかますことで、損失が少ない状態で任意の波形を獲得することが出来たということです。
おそらく、そもそもの実験意義が分かりにくいと思いますが、実は日常でも使われるレーザー自体も量子力学の法則で考案されたものです。
いってしまえば、光の方向性を綺麗にそろえる発明で、今回の実験意義も光をさらに自由に制御できるようになるとご理解ください。
その応用で連想するのが、すっかり今ではビジネスの世界でも聞こえるようになった「量子コンピュータ」への適用です。
要素技術で重要なのは「素粒子をもつれさせてコントロールすることです」
光子も素粒子の1つでよく使われており、今回の技術を応用すれば量子コンピュータの性能向上が期待されます。
シュレディンガーが生きていたらこの実験にどう反応するのかは気になりますが、科学技術の発展としては力強い一歩であることは間違いありません。