「老い」の科学を展望する1
老化を病気として治療しようとする研究者がいます。
Wiredが特集する年間総括の中の1つに、「老いを防ぐ」研究が取り上げられていました。
ようは、
セノリティクスという薬が近いうちに老化を予防に活躍するかもしれない、
という話です。
そもそも「老化」という定義は医学的にかたまってはいないようです。
上記文中に登場する科学者アンドリュー・スティールが出した不老の和訳が最近出版されています。
上記によると、老化を統計学的に定義すると、
「老化は時の経過とともに死亡リスクが増えることである」
としています。
分かったような分からないような・・・、って感じですね。
物理学的には、熱力学第二法則を引き合いにだすことがあり、エントロピー(乱雑さ)増大則のことを指します。
確かに我々は何も生命を維持する活動(食事)しないとエネルギーが枯渇して(老化と呼ぶかはともかく)死んでしまいます。
ただ、それはあくまで閉鎖的で極端な設定で、我々は通常外部環境で食物を栽培して摂食したり、テクノロジーで拡張・補完するなどして抵抗するのが通常です。
ちなみに「生命現象を負のエントロピーを食べること」とみなした物理学者で生命科学のパイオニアもいます。(参考までに下記書籍)
それとは別に、進化論で老化を語ろうとする動きもあります。
それによると、老化とは、
「進化の手抜き」
と表現します。なかなか端的でありながら深そうです。
ようは、種は食物が限られているため子孫のために寿命を短くすることが老化だということです。
さすがに現代の科学では支持されてないようですが、何となく情緒的にはそういったコントロールが何億年もの生物の歴史で働いたというのは分かります。
一方で、魚や亀やその他一部の生物(ヒドラ)は老いないそうです。(ちなみに不老であって不死ではないです。なかには不死に近い生物もいるそうですが話がややこしくなるので割愛)
ただ、これらはあくまで観察した結果であって、老化の原因を深堀するには限界があり、そこで生物学の登場となってくるわけです。
そこでは、老化を単一のプロセスでなく、関連する無数のプロセスの集まりとします。
そういった背景で浮上してきたのが、生物老年学(バイオジェロントロピー)と呼ばれます。
1つのきっかけは、センチュウというミミズのような微生物(体長1mm)にDNA改変(当時はまだ放射線を浴びさせて突然変異)を誘発して長寿への影響を研究したことです。
その成果として、1988年に論文として発表し、なんと「1つの遺伝子」によって50%(2週間が3週間へ)寿命が延びたことを示します。
当時はこの実験に懐疑的な声もあったようですが、少なくとも遺伝子の変化が寿命に影響を与えるという研究への門戸を開いた可能性は高いです。
ちなみに、今ではこの時の遺伝子は食欲を抑える作用を施すものだということが分かっています。
それ以降に、遺伝子編集技術の改善とも連携し、こういった研究はセンチュウだけでなく、マウスやヒトへの臨床実験に繋がってきます。
次回は、Agelessを参考に、現代の老いの研究結果について触れてみたいと思います。
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