遺伝子編集ベビーの顛末と未来
遺伝子編集は手軽になった分、倫理的な問題も以前から取り上げられています。
その危機意識を高めた最大の出来事が、ある中国の研究者による遺伝子編ベビー事件です。
ようは、
2018年11月に、中国の研究者が、HIVウイルスの無効化が期待される遺伝子をヒトの胚で編集して女児を誕生させた、
という事件です。
一見いいことをしたように受け止めるかもしれませんが、倫理的な面で国際的に非難され、結果として3年の懲役が執行されました。
今時点でも誕生した(双子の)女児は健康で、編集対象の遺伝子以外では特に異常はないようです。
ただ、それと人間が生まれるときに遺伝子編集をやっていいかどうかは別物です。
この遺伝子編集技術方法は、既に普及したともいえるCRISPR-CAS9です。
これで遺伝子の塩基配列を切断するのに酵素(CAS9のこと)を利用するのでうが、その影響は厳密には見えないものがあります。
1つだけ関連する記事を引用しておきます。
で、話を2023年の現在に戻します。
この中国の研究者は服役を終えて2022年に出所し、今も遺伝子工学の研究者としての道を歩み続けています。
つい最近でも、こんなニュースが流れています。(それが今回執筆のきっかけです。タイトル画像も下記記事内図で、Credit: Andy Walker、Midland Fertility Services/Science Photo Library)
ようは、
今時点でもヒトの胚で遺伝子編集を施すのは危険だが、それを止める仕組みはまだ確立されていない、
ということです。
この中国の研究者は現在、ある特殊な(デュシェンヌ型)筋ジストロフィーという病気を遺伝子治療で治すプロジェクトを支援しています.
2018年の事件は、中国という国家が刑を執行したわけですが、まだ国際的な法整備は明確でないようです。
もっといえば、当時は「ヒトの生殖細胞に対して編集したこと」が問題視されましたが、今はそれ以外のヒト体細胞での遺伝子治療は上記記事によると100を超えています。
これら全て(かつ今でも増加)が本当に悪影響がないのか?も若干穿って言えば100%ではないと思います。(自然科学全般の話ですが)
既に今はCRISPR-Cas9の酵素切断方法以外の手法も登場しており(塩基編集やプライム編集と呼ばれます)、技術とそのリスクは今後改良されていくと思います。
最低限重要なのは、今から国際的に議論を進めることで、さもないと倫理的問題もそうですが、一部の営利用途で独占されるリスクもあります。
間もなくそれを議論する国際的な会議がロンドンで開かれる予定です。ぜひ非専門家にも、その存在と議論過程を可視化してくれると嬉しいです。