物理学史上最大の誤差に挑む:現代のアルキメデス復活
前回の続きです。
ようは、
真空ゆらぎから宇宙となった仮想粒子エネルギーと、宇宙膨張の実観測から推定されたダークエネルギーを比較すると120桁も違っていた、
という話でした。(比較と書きましたが、そもそもがいずれも仮説)
その誤差(というより乖離)の謎を解くための実験がイタリアの孤島(サルデーニャ島)で行われており、2023年にその経緯を紹介する記事があったので、主にこれをかみ砕いて紹介します。
ざっくりいうと、タイトル記事画像にある円筒形の中で発生する仮想粒子の重さを測ろうという実験です。
仮想粒子は名前のとおり理論から持ち込まれた仮想のもので、それを測定する、と安易に書くとちょっと不安を与えるかもしれません。
実は1948年に、それを実験で示せるという「カシミール効果」というアイデアが提示され、1997年(半世紀越し!)にはその実験に成功します。
アイデアの根っこだけ説明しておきます。
2つの金属板の間では仮想粒子が打ち消しあい、そこに内外圧力差が生まれると金属板が寄せ合うことを測定して検証とする、
というものです。やや丸めて書いたので、正しく知りたい方は上記記事の開設を参照ください。
いずれにせよ、現在はこの仮想粒子の存在は確からしいと思ってください。
ただ、カシミール実験では無視された「重力」については、まだ議論の余地が残っています。
この「重さの測り方」に、古代ギリシアで金の重さを測った「アルキメデスの原理」を応用したことで、その名がつけられました。
アルキメデスの実験とその原理については横着してWikiに説明をゆだねます。
現代版アルキメデスの実験場は孤島だけでなく、地下100メートル超の洞窟内に作られました。
これは外部からの邪魔(電磁波ノイズや地震などの自然現象)を徹底的に排除するためです。
そこでは、円筒形の箱を何層もの断熱材で包んだうえで真空状態にしたうえで2つの天秤を置きます。
上記記事内に円筒の設計図があるので引用します。繰り返しですが、気合のある方はぜひ元記事を読んでみてください。簡単な宇宙史も載っており、知的に楽しめます。
現代版だなぁと感心したのは、2つの天秤の片方を超電導モード(要は自由に電子が流れる状態)にしてカシミール効果を人工的に誘発しようとしている点です。
この実験によって発生が期待されている重力は、約10のマイナス16乗のスケールです。例えると、DNAの重さを測るイメージです☺
これは以前にも触れた重力波検出機器の感度以上の性能が必要だそうです。
聞くだけでもMission Impossibleな実験に聞こえますが、関係者は思いもよらぬ打開策を見出します。
なんと、この重力波検出機器の仕組みをそのまま使ってしまえ、ということで、それが上記図に書かれている「干渉計(Interferometer)」の役割です。
すごい実行力と感じるでしょうが、種明かしをすると、元々重力波計測機器の関係者もこのプロジェクトに参加していたからです☺
原理は重力波検出と同じなので淡泊に伝えると、レーザー光線を二手に分けて戻ってくるときに誤差がないかを調べます。
投稿時点では、まだ本格的なアルキメデスの実験はスタートしていません。
もし仮に実験結果が出たら、物理学の大きな進展につながります。
もし仮想粒子に「重さ」を検知出来たら、一般相対性理論から発展したダークエネルギーが、なぜ宇宙創成で生まれた真空エネルギーより120桁も小さいのかを説明する仮説が提示できるかもしれません。
逆にもし「重さがない(重力と作用しない)」と分かっても、それはそれで新しい発想が息吹くかもしれません。
オリジナルより約2200年の時を超えてリメイクされた「アルキメデスの実験」。開始前からその魅力に別の力で引き付けられています。