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ノーベル賞ロジャー・ペンローズのチャレンジャー精神2

今回は、昨日の投稿の続きです。(タイトル画像も前回同様ノーベル財団インタビュー記事から引用)

一般相対性理論から形状によらず特異点(ブラックホール)が存在することを証明して、後輩のホーキング氏(宇宙のはじまりに特異点があると拡張)とともに華々しく宇宙物理学で名をとどろかせました。


彼の関心は、ミクロを取り扱う「量子力学」をどのように一般相対性理論と統合できるのか、に向かいます。


量子力学へのチャレンジ

科学者のスタンスに、「実証主義」と「実存主義」があります。
前者は実際存在してるかは気にしない, 後者はそれが実際に存在するかどうかを重視します。

ホーキング氏は前者で、ペンローズ氏は後者に位置付けることが多いです。

ペンローズ氏の方向性を決めたのがまさに実存主義の信念で、量子力学における主観の導入に、どうしても納得いきませんでした。

量子力学では、観測して初めてその位置と運動量が「原理的に」わかる、という極めて奇妙なルールがあります。
これは「観測する」という主観的な行為によってはじめて客観的に分かり、それまでは確率的にしか分からないということです。(格好いい言葉を使うと、観測することで確率を現す波動関数が収縮する、といいます)

ペンローズ氏は、どうしても納得がいかず(このあたりはアインシュタインの信念と似ています)、自身でその客観的な(観測者と独立した)モデルを大胆に唱えます。

それは、時空は量子的な重ね合わせによってできている、という仮説です。

一般相対性理論では、時空は独立・静的でなく歪曲しており、その度合いが重力である、と新しいイメージ像を提唱しましたが、「そもそも時空とは何で出来ているか?」については触れていません。

ペンローズ氏は、そもそも時空は量子力学に従うミクロな重ね合わせ状態からなり、重力が大きいほどそれが収縮する時間が短い、という新しい時空モデルを提唱しました。

そして、時空を構成する最小単位として、光子をスピン(離散的な回転量)で分解した「スピノール」と名付けました。
そして、そのつながり方で時空を表現しようとしました。スピン・ネットワークと呼ばれます。

上記の大胆な仮説を数学的に理論化したものは、そのシミュレーションでの形状から「ツイスター理論」と呼ばれています。
初期の特異点定理を発表した2年後にあたる1967年の出来事です。

あいにく、ツイスター理論自体はその後は大きく発展しませんでしたが、その根幹にあるスピン・ネットワークの概念は、量子重力理論などでも活用されているようです。(このあたりは数学的に難解すぎてこう言った表現が限界)

そして、この量子論におけるペンローズ氏の考え方(スタンス)は、思わぬ分野に派生することになります。


意識は波動関数の収縮で起こる

それは、「脳科学」の分野です。

我々が有する「意識を持つ」という高度な精神活動は、常識的な計算方法(デジタルコンピュータで計算できる方式)とは全く異なる仕組みがあるとペンローズ氏は唱えました。(それをして人工知能の実現を否定します)

一見科学を否定するオカルトめいた話に聞こえますが、ペンローズ氏は、その筋の専門家と共同研究を行い、意識に量子論を使った新しいモデルを持ち込みました。

量子脳理論」と呼ばれます。

根っこは先ほどと同じで、客観的に波動関数が収縮する現象を通じて、意識を解明しようとしたものです。

では具体的に何がそれを発動させるのか?

意識だけでなく、知的な処理は脳内神経細胞(ニューロン)のネットワーク構造を中心に行われます。
ペンローズ氏は、この神経細胞内にマイクロチューブル(微小管)と呼ぶ微小な存在が、脳内のあらゆる神経細胞と(量子論の文脈での)重ね合わせで繋がっており、それが収縮することで意識が発現する、という大胆な仮説を唱えました。

こちらは、神経細胞の動きがより明らかになってきている現代においては、支持する科学者はあまりいなさそうです。

但し、神経細胞間を橋渡しする電気信号を通すチャネルにおいては、もしかしたら量子力学の効果が作用しているかもしれない、という仮説は新しく出ています。(巻末の参考リソース)

厳密には「意識」の発現方法は今時点でも解明されてはいませんが、脳の作用原理であれば、例えば以前紹介したジェフ・ホーキングス氏が唱える「多体予測マシン」など、興味深い仮説は出てきています。

とはいえ、個人的には仮説が正しいかどうかよりも、やはりペンローズ氏のチャレンジャー精神には感動すら覚えています。

彼の長年の活動を眺めると、既存の常識を安易に受け止めず、自分なりの世界観を伸びやかに再提示して、果敢に世に問うその姿勢が感じられます。

こんな凄い方と同じ時代を生きていることを素直にうれしく思います。

<主な参考リソース>


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